二十一話 男爵令嬢の素性と黒幕達の野心
サブタイトル考えるのが大変で大変で……。
と言うかいい加減タイトルを正式決定しないと。
「私からは第一王子の婚約者である男爵令嬢の情報を。……メアリ・ロードバスですが、ヴァーガニアのヴォアチア伯爵家、そしてインクセリアのフェデラー家の血が入っております」
「「……なんだと?」」
部下の報告に声を上げたのは勿論ヴァイスとマリウスの二人である。
この情報には俺も驚いた。
え? 何そのややこしい設定。
「メアリ・ロードバスの母親はフェデラー公爵が若い頃にメイドに産ませた娘で、フェデラー公爵は彼女を養子に入れた後、ロードバス男爵に紹介し、それをロードバス男爵が美しさに惚れて娶ったと。そのロードバス男爵も、先代に息子が出来なかったからか、どうやらフェデラー公爵の口添えでヴォアチア伯爵の次男が先代の養子として入ったとの事です」
えっと……メアリの父はロードバスの直系じゃなくてヴォアチア伯爵の次男で、母親はフェデラーがメイドに産ませた娘で、しかも養子にしてるからフェデラーの『実子扱い』で……きな臭っ!
つまり昔からフェデラーとヴォアチアには繋がりがあったって事じゃん!
メアリ・ロードバスはフェデラー公爵の孫で、同時に他国のヴォアチア伯爵の孫!
ナチュラルにロードバス家がとんでもない血統になってるし!
それにインクセリアとヴァーガニアの両方に親戚がいるから、両国の情報なんて簡単に手に入るだろう。
どんだけ昔から画策してたんだよアイツ等!
「……成程。本当の狙いは戦を起こすことじゃなくて、兄を王にして、メアリ嬢を嫁がせて自分達の影響力を増したかったからなのか」
納得がいったとヴァイスとマリウスは頷く。
うん。若干強引だなと思ったけど、王になってしまえばどうとでもなるしな。
王妃として即位した際にフェデラー公爵が「実は自分の孫で……」って言ってしまえば、寧ろ今まで第二王子派や中立派が言ってきた「地位の低さ」なんてのは覆してしまえる。
それに王族と姻戚関係になれば、ただでさえ強い権力を持つフェデラーがより強い権力を持つことになる。
ま、俺等にバレた時点でアウトだが。
「……では私から。夜様の命を受け、マグニフィカ次期国王べリオス様に連絡をいたしました。返答は『此度の件、全て協力する』との事」
おぉ。流石べリオス。優しいねぇ。
「……私から提案。次の評定、べリオスに出て貰う」
「……はい?」
「何だと?」
ヴァイスとマリウスが呆けた顔で聞いてくる。
「……自国の人間に突き付けられるより、他国の人間の言葉の方が、重い」
それも大陸内で特に発展しているマグニフィカの次期国王の言葉ならば尚更重いだろう。
「……成程。マグニフィカ王家から事実を突き付けられれば、いくら第一王子派と言えど無視は出来ないだろう。寧ろ、貴族社会を推奨している貴族主義が多い。相当なダメージになるな。場合によっては弱みを握られているのではと言われる可能性もあるが、他国の王族との関係が深い事をアピールするのは良い事だし。」
「……確かに。デメリットよりもメリットの方が上回るな」
他国とは言え、王族の言葉はそれ程に重要だ。
それにヴァイスとべリオスが親しいとイメージ付けられれば、権力と信頼を重要視する貴族達に対しては凄いアピールになる。
ヴァイスに傾く人間もいるだろう。
誰だって王族に楯突くのは嫌だろう。
……俺だって勘弁したい。
「……べリオスは、呼べば来ると言ってる。どうするかはヴァイスが、決めて」
評定の場に、事前に周囲に知らせずに出るのだ。
ヴァイスにとって重要な一手だ。
それを決めるのは俺ではない。
「……わかった。べリオスに頼む。他国の介入を許すとしても、今がこの国の膿を切除する時だ。べリオスに伝えてくれ」
俺は頷くと、べリオスとの繋ぎに使っている”蛇”の一人に視線を送る。
そいつは俺の意図を理解して、「失礼します」と言ってからすぐさま姿を消した。
さて、残るは……
「……ザイール。来た理由を」
「承知。……調査中のヴォアチア伯爵の処遇、如何なさいますか?」
……ふむ。
ザイールが来た理由はそれか。
依頼上はまだ殺せとは言われてないし、今殺せば国家間問題にもなりかねない。
「……いつでも捕縛する準備をしておいて」
「承知」
そしてザイールは”蛇”を引き連れ、部屋から去って行った。
それと同時に、ヴァイスとマリウスが「ふぅ」と溜息を吐き、苦笑いを浮かべた。
……何故に溜息?
「……流石あの”魔女の夜”の暗殺部隊。プレッシャーがとてつもないな」
「あぁ。噂は聞いていたが、勝てる気がしなかった。と言うか、まさか”魔女の夜”の頭領がこんな女の子だとはな」
女の子って。
健全な二十五歳男(男)としては複雑だなぁ。
いや、俺も『女子』であることを使ってるから何も言えないんだけどさぁ……。
ぐぬぬぬぬ……。
……まぁ良い。気を取り直して、
「……私はどうする?」
「……そうだな。どうすれば良いと思うマリウス?」
「んーと……取り敢えずお前の護衛でもしてもらうか。腕も立つのは確かだろうし」
「……わかった」
と、言う訳で。
俺の任務は俺にとっては滅多にない護衛と相成ったのだった。
その後、べリオスと連絡を取りながら、第一王子派から送られてくる刺客を相手に過ごした。
第一王子派から送られてくる刺客なんだが、全く以って話にならん。弱すぎる。
多分余り高名じゃない連中を雇ってるんじゃないかなぁ……。
気配も分かり易いし、少しだけだが足音も立ててるし。
そして数日後、評定が始まる。
俺は有事の際以外は出番はないため、裏でべリオスと共にいた。
べリオスは整った顔を歪め、ニヤリと笑って見せる。
「さてと、そろそろか。こんなピリピリした雰囲気の評定は久しぶりだ。楽しませて貰うぜ」
「……あとは任せる」
「おう! 引っ掻き回してやるぜ」
俺とべリオスはハイタッチをした後、行動を始めたのだった。