十九話 覚悟
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申し訳御座いません!
「――人を殺す。……家族を殺す覚悟は、ある?」
俺の言葉に、ヴァイスは見て分かる程に動揺した。
だが分かっているはずだ。
俺が調べた時点では、既に何人もの刺客が送られてきているはずで、命のやり取りはしているのだ。
なら、今対立している第一王子を殺す事も想定の範囲内だろう。
何故なら俺の仕事はそう言うモノだからだ。
俺に頼むと言う事はそういう事だ。
俺の仕事は王の護衛でも、戦争を止める事でもない。
俺は暗殺者、殺し屋である。
諜報員の真似事はしても、基本的には人を殺す事で生きている人間だ。
そして、俺は依頼でしか動かない。
「……覚悟を決めて。一つは多くの民の未来を背負う覚悟。一つは罪を背負う覚悟。そして、人を――家族を殺す覚悟。それが無ければ私は依頼を受けない」
覚悟が無ければ、この依頼を、俺は受けない。
王として国の全てを背負う覚悟、これから起こる全ての罪を背負う覚悟、そして場合によっては――いや、必ず殺すことになるだろう第一王子を殺す覚悟だ。
それ程の覚悟を持ってもらわなければならない。
これからヴァイスは『清濁併せ呑む様な人物』にならばならない。
時には王として冷酷な命令をする必要にも迫られるだろう。
「……依頼を出すのは確かに俺だ。だが、実際に殺すのはお前だろ?」
ヴァイスは俺の言葉に、尻込みしながらも答えた。
……おいおい、前世とこの世界で総じて何年生きているのかは知らないが、ほんとに理解してないのか? 前世があるからとはいえ、こいつも坊ちゃんとしての生活に慣れちまったか?
まぁ今まで俺達のような裏との付き合いが無ければ余り至らない考え方かもしれないが。
だがコイツだって命の重さはわかっているはずだ。
自分が潔白だとでも思ってるのか?
ならその意見を正さなければならない。
そして俺の――”魔女の夜”の考え方は、
――自分達は刃である、と言う事。
つまり、実際に殺すのは俺だが、それを振るったのは依頼主である、と言う事だ。
責任転嫁と言いたければ言え。んなもん知った事か。
俺達暗殺者や殺し屋はあくまでも依頼を受けて、それを代行するだけに過ぎない。
目標に向ける殺意も、振られる刃も、全て依頼主のモノだ。
依頼をし、それを俺が実行した瞬間、ヴァイスの手は血で汚れるのだ。
「……私はナイフ。私は刃。ナイフは人間が振るわなければ人を傷つける事は、ない」
ジッと、俺はヴァイスを無感情に見た。
――第二王子ヴァイス視点――
俺は、夜の気迫に、そして言葉の意味を理解して声が出せなかった。
無表情ながらも、刃の様に鋭い殺気を孕み、俺を射抜いていた。
それが彼女の信念だと言うように。
絶対に曲げられぬ、反せぬ事であると言うように。
「――俺、はっ!」
どうにか喉から声を絞り出すが、そこで止まってしまう。
確かにそうだ。
俺だって理解している。
先程の俺の言葉が都合が良すぎる事も、現実逃避であると言う事も。
俺は今まで縋っていたのだ。
平凡だった前世に、殺人を『仕方がない』と言う弱さに、『手を汚すのは自分ではない』という事実に。
今が、覚悟をする時だろう。
例え、自分が殺したのではなくても、依頼を出すのは俺だ。
命を奪えと命じるのは――俺だ。
責任は全て俺にある。
それを忘れてはならない、夜はそう言っているのだ。
だからこそ、俺もそれに応える。
「……俺だって覚悟してるさ。お前に協力してもらう以上、俺が全ての責任を負う。その覚悟はとうに……出来てる」
あの脳内花畑の兄には任せられない。
貴族に都合の良いように扱われている傀儡になんて任せられない。
前世が一般人とはいえ、今の俺はインクセリアの王子だ。
民の為、国の為、そして俺自身の為に。
俺が王になるのだ。
その為のあらゆる罪を、思いを背負う覚悟は――出来た。
「……なら、依頼、して」
「あぁ。インクセリア第二王子ヴァイスとして依頼する。第一王子及び、ガロン公爵、及び悪事に加担した者達を捉える。その手伝いをしてくれ」
「……分かった」
少し不満そうな雰囲気ながらも、夜は頷いてくれた。
『暗殺』ではダメなのだ。
公の場で、罪を明らかにし、糾弾しなければならない。
第一王子派の連中にも大なり小なり罰を与えなければ示しがつかないのだ。
「……状況を整理するぞ。インクセリアとヴァーガニアが戦争するってことになっているが、実際にはまだ第一王子である兄はそれを宣言する権利がない。だとすると……次の評定で恐らく即位を宣言するはずだ。反撃するとしたらその場だな。奴等が今までやって来た事を公にする」
「……その『やって来た事』は、集めて、ある?」
「あぁ。大抵はな。だが、もっと集める必要がある。頼めないか?」
俺の言葉に、無表情ながらも頷いた。
「うん。もう部下達を王宮内に潜入させてる」
……国にとっては余り良くない事かもしれない。
あの”魔女の夜”が国に入り込んでるなんて知れたら、誰もが卒倒するだろう。
だが、今はそれが有り難い。
「いつまでもここで話していてもなんだ。執務室に案内するからついて来てくれ」
夜は頷き、俺は夜と共に執務室へと向かった。
俺の後ろについて歩いている夜を誰も咎める事は無く、足音どころか気配ら近くにいるのに一切わからない。
やはり常人とは違うんだな、と俺は内心驚いたのだった。
十九話です。
もしかしたら後で修正するかもです。