十八話 転生した王子と転生者達
「……お前が、”魔女の夜”の頭領なのか?」
第二王子が俺の正体に行きついた事で、俺は心の中で合格点を与えた。
だから【ロンドンは霧の中に】を解除する。
そしてナイフも鞘に納めた。
「……合格」
俺の言葉に、疑う様な視線を向けてくる第二王子。
そして俺は一番大事な質問をした。
「……貴方は転生者」
その言葉に、第二王子は心底驚いたようだった。
魔術で作った剣を消し、肩で息をしながらも俺に訊いてくる。
「お前は……お前も転生者なのか?」
「……うん。そう」
俺はその言葉に大きく頷いた。
「……俺以外にもいたのか。……転生者が」
その顔は驚愕で歪み、二の句が継げないのか続く言葉が出なかった。
「こっちきて」
俺は取り敢えず『互助会』に連れて行くことに決めた。
俺の今の身体では説明なんざ出来はしない。
無理ですよ無理。
だって俺がどれだけ長い話をしようとしたとて実際に口から出るのは「私以外にも転生者がいる」で終わりだ。
なのでそんな面倒な……ゴホン、重要なことはアイツ等におっ被せ――任せる事にした。
第二王子は俺の言葉に従って、俺に近付いてきた。
そして俺は手に握っていた石を取り出す。
それを見て、何か危険なモノだと思ったのか、一瞬立ち止まった第二王子の手を気にせず握った。
そして石を割る。
「――っ!」
辺りを包み込んだ光が治まった時には、俺達は『互助会』へと到着していた。
そこには既に創立メンバーや主だったメンバーが席に座っていた。
「よぉ、インクセリアの第二王子。俺等『互助会』はアンタを歓迎するぜ?」
べリオスが同じタイプの転生者として、『互助会』を代表して言った。
「ごじょかい?」
「あぁ、『異世界相互補助会』。転生者による、転生者の為の、相互補助を目的にした会だ。ここにいるのはお前と同じ転生者だ。俺はマグニフィカ次期国王、べリオス・マグニフィカだ。久しぶりだな。小さい頃のパーティー以来か? ヴァイス第二王子」
そう言って握手をしようと手を出す。
それに対して驚きながらも手を出して握手に応じ、
「マグニフィカの王子か! 確かに小さい頃に二・三度会ったな。インクセリア第二王子、ヴァイスだ」
そしてべリオスが俺達を其々紹介していく。
「――で、最後にこの『互助会』設立の立役者、”魔女の夜”の頭領、夜だ」
そう俺を紹介された俺を第二王子――ヴァイスは見下ろす。
その視線に浮かんでいるのは納得と、困惑。
矛盾している二つの感情が、器用に表れている。
「ハハハ! お前、相当夜にコテンパンにされたみたいだな!」
「まぁな。……だがやっぱりそうだったのか。通りで強い訳だ」
べリオスが笑い、ヴァイスも苦笑いをする。
失礼な。
二割程度の力しか使ってないぞー。
……ま、いいや。
べリオスに視線を向けると、べリオスは頷いてヴァイスに訊く。
「あぁっと……俺等はこの戦争を止めたいと思っている。で、だ。お前が首謀者では……ないんだよな?」
「――っ! 当たり前だ! 俺は確かに転生者だが、インクセリアの王族としての責務を忘れたことは無い! 戦争なんて以ての外だ!」
「……だろうなぁ。……で、夜? このゲームの悪役は誰なんだ?」
「……来て」
俺が呼ぶと、何処から現れたのか一羽の鴉が羽ばたきながら俺の腕に止まった。
そしてその足に手紙が結ばれていた。
それを見る。
「……首謀者は……ガロン・フェデラー公爵。そしてヴァーガニアのドーリ・ヴォアチア伯爵。でも第一王子とその婚約者も知らずの内に深く関わってる」
そこまで喋ってふぅ、と息を吐いた俺の言葉に、やはりと頷いたヴァイス。
ふーむ、やっぱ気づいてたんだ。
「ガロン公爵か。……あの蛇面め」
そう吐き捨てたヴァイスは俺達を見渡すと、頭を下げた。
「頼む! 俺を手伝ってくれ! 虫の良い話だとは理解してる。本来ならばお前達が関わる必要なんてない問題だ! でも、俺だけじゃ止められない。頼む!」
頭を下げた儘のヴァイスに、今度は暁が話しかけた。
「此度の件、私達は介入することが出来ない。特に私やコウリン、べリオスやフランと言ったメンバーは立場上常に他者の眼に触れるし、動けば話題に上がってしまう。だが……」
そう言って俺の方に視線を向ける。
おい、それって俺にまた任せるってことじゃねぇか。
「彼女ならば――”魔女の夜”の頭領である夜ならば、君に力を貸すことが出来るだろう」
「本当か!」
嬉しそうな声を上げるヴァイスに、俺は一言言ってやろうと口を開こうとしたが、
「あぁ、依頼としてしか彼女は頼みを聞いてくれないからそこらへんは話し合ってくれ」
おーい、暁さーん。
先回りして逃げ道を潰さないでくださーい。
ヴァイスは俺に頭を下げる。
「頼む! 金も払う。俺には力が必要なんだ」
……はぁ。仕方がない。
「……来る」
俺はヴァイスの胸倉を乱暴に掴み、『互助会』メンツに手を振って、転移石を使い、再び先程の場所へ戻って来た。
ほんの少しの間の事だったからか、未だに誰もいないのが幸いだった。
俺は掴んでいた手を離し、ヴァイスを見上げる。
俺は睨んでいる積りなのだが、相も変わらずの無表情っぷりである。
「……依頼を受けるのは、百歩譲って良い。……けど」
「な、何だよ?」
不安そうなヴァイスに対し、俺は告げる。
「覚悟が、ある?」
コイツはまだわかってない。
これからコイツが決断しなければならない事を。
だから、俺が突き付ける。
「な、何のだよ?」
「――人を殺す。……家族を殺す覚悟は、ある?」
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