十七話 能力的チートと立場的チートの戦闘
「少し、試す」
俺は第二王子がどれくらい出来るのかを試す為にナイフを構えた。
俺が集まった情報から考えたのは第二王子が転生者ではないか、と言う事。
だが、それを確かめる術はない。――本人に訊く以外は。
見つけた方を襲い、聞き出すっていうガバガバで安直な方法であるが、一番手っ取り早い。
それに俺は転生者だからと言って安易に命を助ける訳じゃない。
一応命は奪うなという依頼ではあるが、それ相応の覚悟を見せて貰わないと、な。
ま、ほんの少しの小手調べだし大丈夫だろ。
ナイフを分かり易い仕草で一つ投げる。
しかし、それは避けられた。
……ふむ。反射神経はそれなり、かな?
ナイフを二つに増やして同じく大袈裟に投擲する。
的確に心臓と頭部に投げられたナイフを、第二王子は今度は剣で弾いた。
だが、まだまだだ。
「……ッ!!」
ナイフを一度に三つ投擲する。
今度は事前の仕草も、音もなく投げられたナイフだが、第二王子はどうにか防ぐ。
だがその表情は既に精一杯という感じだった。
元々ゲームのキャラとして、能力も其の儘に転生してきた俺達と、こっちの世界の住人として生まれて来た転生者とは、身体能力含めた力の差がある。
彼等の場合は精々人間の常識内のそれだが、俺等は斬撃一つで海を裂き、拳一つで大地を割くことも可能なのだ。
実力差があるのは当たり前だ。
「――っふ!」
続けて四つ、五つ、六つ、七つとナイフの数を増やしていく。
どうにか防いでいた第二王子だが、とうとうナイフの数が十に達した際に防ぎきれずに腕が浅く裂けた。
「――くっ!?」
俺は思わずよろけた第二王子の懐に素早く入り込む。
対処しようとする第二王子であるが、俺からしてみればその動作はスローに見える程である。
「――っ! ガッ! ガハッ!!」
入り込んだ状態で剣を持つ手を素早く叩き、剣を弾いてその勢いの儘腹に肘打ち。
そして、流れる様にして態勢を崩した第二王子がくの字に曲げた腹を蹴り飛ばす。
王子は、一瞬くの字の状態で地面と平行に吹き飛び、地面にまるでアニメの様にズサーっと落ちた。
……別に暗殺者だからと言って殴り合いが出来ないなんて理由にはならない。
だから言ってんじゃん。
殺し屋兼暗殺者だって。
……え? そんな事言ってた覚えてない?
じゃあ覚えておいてくれ。
剣は弾き飛ばされて近くになく、もう手が無いと思いきや、
「……『来たれ閃光。我が手に集いて剣となせ!』」
何か呪文を呟いたかと思えば、その手に光る幅広の剣が出現した。
うわーこわーい(棒読み)。
『ワールド・オブ・ザ・エタニティー』にはこんな術なかったからオリジナルなのか?
第二王子はその剣を構えると、ボロボロながら、闘志を宿した表情で俺に不敵に笑って見せた。
……いいねぇ。昂ってきたぜ。
少しばかりは俺も力を使おうかね。
「……真実を霧の中に覆い隠せ。――【ロンドンは霧の中に】」
頼むから――死んでくれるなよ?
――第二王子視点――
俺は普段使う事が無い『奥の手』である【閃光剣】を使う羽目になった。
俺はここで死ぬつもりはない。
兄を止めるまでは俺は死ねない!
俺は一見無防備に立っている――その癖隙が一切無い――少女を睨み、再び剣を構えた。
「……真実を霧の中に覆い隠せ。――【ロンドンは霧の中に】」
だが、少女が術か何かを呟いた。
すると辺り一面、部屋をまるごと覆うように霧が発生し、少女の身を隠す。
これが彼女の戦い方か!
霧に身を隠し、襲い掛かる――なんとも暗殺者らしいが、普通の人間がこんなこと出来るのだろうか?
これ程の霧を生成するならば多くの魔力が必要のはずだ。
つまり、目の前の少女が普通ではない、と言う事なのだろう。
「――くっ!」
周囲が見えない中、頼りになるのは視覚以外の五感だ。
相手の気配や呼吸の音、足を動かす音、それを敏感に察知するのだ。
だが――
少女の気配を察知することは出来なかった。
いや、気配どころか、呼吸の音や足音すら聞こえなかった。
「逃げたのか?」
そう思い構えを解きかけた瞬間、
「――っ!?」
音もなく、目の前から急に細い腕が伸びて来たかと思えばその手に握られたナイフが襲ってきた。
ガキン!
【閃光剣】がナイフとぶつかり、甲高い音を上げた。
だが、この【閃光剣】は魔術によって生み出された魔法の刃だ。
通常の武器で打ち合えばいとも容易く斬れてしまう程の切れ味を持つ。
だが、打ち合って直ぐに細い腕は霧の中に紛れて見えなくなる。
まるで霧と一体化しているかの如く。
そして三度、四度打ち合う。
いつ、どこから現れるかわからない凶器に、俺は徐々に精神をすり減らしていた。
右方から、左方から、頭上から、足元から鋭い刃が襲ってくる。
まるで影の如く、幻の如く、雲の如く、霧の如く、現れては消える刃。
そこで俺は思い当たった。
人が死ぬ前に見るとされる”黒死蝶”、その名を冠する者を。
数多の鴉を従え、使いとする無貌の影。
噂話の類とされる程に謎の多き集団”魔女の夜”、その頭領。
かの者は深き霧の中より音もなく現れると言う。
「……お前が、”魔女の夜”の頭領なのか?」
俺の問いに、少女は答えなかった。
だが、急に霧が晴れる。
そしてその少女が俺には――笑った様に見えた。
誤字脱字、この設定どうなってんの? 等ありましたら指摘して下さい。
馬鹿なので、指摘が無いとわからんのですよ。
何回も見直してはいるんですけどねぇ……。