十六話 暗殺者と王子の接触
どーも、俺です。
俺だよ俺……オレオレ詐欺じゃな……もう名称違うのか。
俺だよ。夜デスヨー。
俺が今いるのはインクセリアの王宮の屋根裏。
はい。もう既に数日前に俺を含めた”蛇”達諜報員が潜入しております。
もうこの国の情報は筒抜けでーす。
プライバシーなんざこの世界にはないね!
日頃の癖から、下着のローテーション、男と女の睦み事まで。
ありとあらゆる情報が、俺の手中で御座いまーす。
……ケッ。見たくもないもんまで見ちまった。
なんで男と男でヤってんだよ。……尻がムズムズしたわ。
つーか王宮内でそんなことしてんなや。
てな事で、俺は今王宮の中のある少し広めの部屋――多分修練場が何か――の天井に張り付いていた。
そこに一人、青年が剣を片手に入ってくる。
金髪碧眼という外見、長身だがまだその顔つきは大人と言うには少し幼い。
んー……これが情報に合った王子の内のどちらかだろうなぁ。
この世界、写真がないので人の顔なんざ実際に見るかしないとわからないのだ。
まぁ良い。本人に聞いてみりゃいいだけだからな。
……お、剣を振るのやめたな。
じゃ、行きますか。
――第二王子ヴァイス視点――
俺は、書類をあらかた片づけた後、剣の鍛錬をする為に修練場として使っている一室に向かっていた。
王族たる者、自身の身を守らなければならないと幼少の頃より剣術や魔術を叩きこまれて来た。
この国の騎士達のトップと打ち合える程には腕前を持っていると自負しているが、いつ第一王子派から暗殺者やら兵士達刺客が送られてくるかわからない為、時間を見つけてはこうして腕を磨いているのだ。
というか、幾度となく送られて来た刺客を殺した事がある。
前世では考えられず、一番最初に殺した時には殺人と言う行為に対して、不快感を持ち、吐いてしまった。
だが、やらなければ俺が殺されてしまう。
だからこそ、どうにかして、言葉は悪いが、殺せてこれたのだ。
俺の命を何度も救ってくれた愛用の剣――それなりの名工の作品らしい――を構え、何度も振り下ろす。
そして乱戦を想定して、イメージの中で相手が振る剣を避け、そして斬り返す。
様々な状況を想定し、何度も何度も繰り返す。
一人で行うこの時間が、俺にとっては息抜きの時間でもあり、一人になれる時間だった。
「……ふぅ」
剣を下ろし、息を吐く。
額や髪から滴り落ちる汗が不快で、袖で拭う。
「――っ!?」
だが、どうにも緊張感が拭えなかった。
何か首の後ろがゾワッとする嫌な冷たい感覚が抜けない。
常に刃を当てられているような、前世では経験の無い、此方の世界に来て覚えたこの感覚……。
そして視界の端で何かが飛び掛かかってくる。
俺はその姿が視認出来なかった。
「――ぐぅ!!」
俺は突然の後ろからの衝撃に耐えきれず、倒れ込む。
俺の背には誰かが乗っているのだろうが、その重みは軽い。
「……クソッ! ……なんで動かねぇんだ!」
抜け出そうと必死に身体を動かそうとするが、何故か身を捩る位でまともに動けない。
そして俺の首に刃が当てられる。
「……無駄。動けない」
俺の頭の上から聞こえて来た可愛らしくも氷の様に冷たい声。
俺は思わず顔を見ようと首を捻る。
なんとか首を捻って俺が見たのは銀の髪の、炎の様に紅い眼の少女だった。
見るだけで火傷しそうな印象を受ける眼が俺を射抜く。
「……っ!?」
その眼には何の感情も浮かんでいない。
俺はその視線に一瞬ひるんだが、どうにか心を持ち直す。
「……クソッ! ぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!」
俺は四肢の神経が千切れる位の覚悟で無理矢理身体を動かす。
すると、どうにか腕が動いたので、その手に掴んでいた剣を投げやりに振るった。
だが、その時点で既に少女は俺の上から退避しており、俺の剣は空を切った。
「――はぁ、はぁ、はぁ! 黙ってやられる訳にはいかないんだよ!」
俺は立ち上がり剣を構え、改めて俺を襲った少女の姿を睨んだ。
綺麗な白銀の髪に炎の如き赤い眼。
肌は雪の様に白いが、顔を残してその身体は、身に纏うスタイルを誇示するような黒い衣服に覆われており、更に口元もマフラーの様なモノで隠されていた。
スラッとしているが、出るとこは出ており、それなりに高い身長も相まって、前世でよくテレビに出ていたモデルを思わせた。
だがその中で表情だけが、ともすれば虚ろにも見え、まるで人形を思わせた。
「お前……第一王子からの刺客か?」
自分で言っててなんだが、俺は不思議に思った。
今まで来た第一王子からの刺客は多くが成人した男であった。
だからこそ、若い少女が現れたのに疑問に思ったのだ。
だが、目の前の少女は俺の疑問には答えなかった。
「……貴方が第二王子なの?」
「……え?」
どうやら目の前の少女は俺が第二王子であると知らなかったらしい。
何を考えてるのか、ジッと動かなかった少女は再び俺の眼を見る。
「……少し試す」
そう言ってナイフをその手で遊ばせた。