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十四話 知らぬは本人ばかり

「”魔女の夜(ヘクセンナハト)”だと? あれはただの噂話だろう!?」


 モネ・オークランドの言う通り、大陸中の多くの人間にとって”魔女の夜(ヘクセンナハト)”は『東の島には鬼が住んでいる』や『南では俗世を離れた仙人達が住んでいる』といった御伽噺と同等に語られている。

 しかし、ヴァーシュは一蹴した。


「おいおい。噂話は存在しちゃいけないッスか? まぁ噂話であった方が俺達も動きやすいッスけど――頭、どうするッスか?」


 そう言って、ヴァーシュは俺の方を見る。

 俺かよ。そこはザイールに任せるだろ。お前等の上司だぞ。

 ……まぁ質問させて貰えるなら質問しようかな。


「……貴方は第一王子派なの?」


「……そうだ」


 俺の質問に、口を噤んだモネだが、ヴァーシュがナイフをチラつかせたことによって口を開く。


「……なら、戦争の事を知ってる?」


「――!? な、何故それを!?」


 あーやっぱりね。

 つーかこの阿呆、感情が顔に出過ぎだな。

 ……なんか此奴の相手にするの馬鹿らしくなってきた。

 ……よし。


「ヴァーシュ、任せる」


 ヴァーシュに投げることにした。


「了解ッスよ頭! さて、じゃ、始めるッスか」


 嬉々としたヴァーシュに、本能的に危険を察知したのか、モネは暴れ始める。

 しかし、それを助ける者などいやしない。


「何を、する気だ! やめろ! やめろおおおおぉぉぉぉぉ!!」


 ただ、哀れな獲物の悲鳴が、オークション会場に響くだけだった。





「…………」


「ありゃ、とうとう壊れたッスかね?」


 それから数時間後、モネ・オークランドは椅子に項垂れていた。

 その耳は片方無く、そこには血が流れた後が残っている。

 手の甲にはナイフが突き立てられた跡が残り、指は幾つか潰されていた。

 膝や腿、足の爪先に至るまで、ナイフの刺し傷や打撲痕、切傷だらけである。

 しかし、まだ辛うじてではあるが息がある。

 死なない程度に、治癒魔法をかけていたからだ。

 しかし、幾ら怪我が魔術で治ると言えども、痛みと恐怖は治る事は無い。

 それが蓄積すれば

 ま、十分情報を得る事が出来たから良しとしよう。

 俺はヴァーシュからナイフを受け取ってモネに近付いて、腹を柄で殴った。


「――が! はぁ、はぁ、はぁっ!」


 痛みで覚醒したモネの頭を乱暴に掴み、未だ生気のない眼をジッと見る。


「――モネ・オークランド。……貴方を殺す依頼は、ない」


 俺はそれだけ言うと頭を離して扉から外に出た。





「……はぁ、はぁ、クソッ! どう言う事だ!」


 夜が出て行った会場の中で、モネは治癒魔法によって完全に回復していた。

 だが、椅子に縄によって括りつけられており、暴れはしなかったが、周囲を睨み付けていた。


「ま、確かにその通りッスね」


「あぁ、依頼が無いんじゃ仕様がないな」


「命拾いしたな。アンタ」


 ヴァーシュを筆頭に、笑って言い合った”蛇”達。


「――おい! 何がどうなってるんだ!? 説明しろ!」


 モネがそう近くの”蛇”に怒鳴る。

 だが、手足を繋がれている状態では、強がっているだけにしか見えない。

 ヴァーシュの興味は既にモネには無く、ザイールも夜についていった為ここにはいない。

 仕方なく、会場にいた内の一人、最も年上の男がモネに声を掛けた。


「おうおうアンタ。命が助かった事を素直に喜べや」


「命が助かった? 貴様等が殺しかけたのだろうが!」


 男の言い分に、モネは言い返すが、男は表情一つ変えない。

 寧ろ、心底哀れといった表情を浮かべる。


「アンタ、もし(かしら)が規律を守る方じゃなかったら今頃死んでんだ。少しは感謝しろや」


「頭? あの黒服の長身か?」


「いやいや、最後にアンタの腹に一撃いれた銀髪の女の子だよ」


 男の言葉に、モネは心より驚いた。あんなにも若い少女が大陸に名を轟かす集団の頭領だとは思わなかったのだ。

 そして、モネは察する。

 ”魔女の夜”の裏の実働部隊である”蛇”と名乗る集団が頭と呼ぶ存在。

 つまりは――


「あの方こそ、最強にして最凶の暗殺者にして殺し屋。”死鴉”又は見たら死ぬと言われる”黒死蝶”の異名を持つ”魔女の夜”の長、俺等のボスさ」


「――!!」


 男の言葉に、声を出せぬ程に驚くモネ。

 ”死鴉”、”黒死蝶”と言う異名は夜自身は知らない。

 だが、実際には夜と言う名より、異名の方が知れ渡っているのだ。

 知らぬは本人ばかりなり、である。

 因みに、”黒死蝶”とは人が死ぬ前に見るとされ、見たら死んでしまうとも言われる蝶を指し、夜の姿を見た者で生還した者は稀である事からつけられた異名である。

 そして男はモネに顔を寄せ、


「――もし、アンタが俺等の情報を漏らすような素振りをしたならば、その時点で首が身体から離れることになる。気を付けな? 俺等はいつでもアンタを殺せる。……ま、今日あったことは、アンタにとっちゃ()になるがな」


「それはどうい――ガッ!!」


 身体に走る激痛に、モネは意識を失ったのだった。





 俺は宿の自分の部屋に戻って来た。

 あー疲れた。さて、風呂でも入って寝よう。

 手に入った情報を”梟”に伝えて、それを全部署に伝えて……ま、ザイールから伝わってるか。

 俺はそう思って、風呂に入る為に仕度を始めたのだった。





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