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十三話 潜入

「おら! 早くしろ! 乗れ!」


「――きゃっ!」


 荒々しく蹴飛ばされ、見窄らしい恰好をした、薄汚れた銀髪の少女が悲鳴を上げて馬車へと入れられた。

 皆さん御機嫌よう。俺です。

 俺は今、奴隷をたくさん乗せた馬車に潜入しております。

 奴隷として。

 なぜこんな汚れた格好をしているかと言うと、土埃のある場所を転げまわったからだ。


 先刻とっ捕まえた奴隷商の下っ端に案内させてこんなところにいます。

 いやぁ、奴隷なんて経験初めてだわ。

 ……なるべくならばなりたくもないけど。

 あ、その下っ端君がこっちをチラチラと見ている。

 やめんか。怯えた顔でこっちを見るな。バレるだろ。

 え? 先程の反応は勿論演技ですよ?

 これからドナドナドーナードーナーされるのだ。

 今から売られる哀れな生娘を纏った方がそれっぽい、だろ?


 ……だから見るのやめろって。





 行きついたのは外装が綺麗なとある屋敷……の地下。


「さぁ、きびきび歩け!」


 何十人もの女性が怯えながらも歩いていく。

 その中には貴族の令嬢らしき格好の少女や獣人、エルフもいる。

 この世界に種族間による偏見はないが、何方かと言えば人気があるのは獣人やエルフだ。

 特に、辺境に住んでいることが多いエルフは高値で売られている。

 気を付け給え、エルフに転生してくるであろう諸君。

 君達は日本円で換算すれば五十万だ。……大金だね。


 さて、どうやらここ、奴隷をオークションの形で取り扱っているらしく、大きな舞台に観客席があった。

 どんだけ金持ってんだよ伯爵。

 まぁ奴隷を売買してるならそれ相応の金と人脈はあるのか。


「皆様ようこそお出で下さいました! これよりオークションを開催致します!」


 仮面を被った三十代の男性が声を上げる。

 あいつがおそらく主催者のなんとかって奴か。

 ……意外と若いな。

 観客には……仮面を被っているが、いかにも貴族階級かそれ相応の人間ばかりだ。

 いや、隠さなくともわかんだろ。

 こんなところに来るぐらい財力に余裕のある奴なんざ貴族や商人くらいだ。

 さて、どうしようか。

 俺が今動けばバレてしまうから動くわけにはいかない。

 売られた後でも良いけど、それでは手間が一つ増えてしまう。

 なら誰かを介入させよう。

 俺は魔術を使って影を通して部下に合図を送る。


 そして、部屋が暗闇に包まれた。

 蝋燭を風の魔術で掻き消したのだ。


「きゃああああああああああ!」


「な、なんだ!?」


「どうなっている!?」


 悲鳴と怒声が飛び交い、暗闇に光る刃と血飛沫の中、俺は近くに気配を感じた。


「――夜様」


「……ザイール。……タイミング、バッチリ」


 俺の近くに現れたのはザイール・ウィルチェ。

 全身真っ黒の長身だ。

 殺し屋や暗殺者、諜報員が在籍する”蛇”のトップで、蛇の頭が付いた鎖を手足の如く操る為に”蛇手”の異名を持つ。。

 寡黙な奴であるが腕は確かだ。

 ……寡黙なのは俺も一緒か。


「……モネ・オークランドの顔は?」


「確認済み」


「……捕まえて」


「承知」


 重要なのは貴族と奴隷商人としての人脈によって多くの情報を持っているであろう主催者モネ・オークランドの確保だ。

 俺に眼をつけられたのがここに来た奴の運の尽きである。

 俺の指示に従い、ザイールが暗闇に溶けていく。

 いやぁ優秀な部下を持っていると楽出来て良い。





 再び明かりがつくと、全てが終わっていた。

 辺りを包む濃厚な血の臭い。

 床には血と死体が散乱しており、腕が千切れていたり、首が半分切り裂かれていたりと酷い有様だ。

 生き残っている者はおらず、全身黒尽くめの”蛇”所属の連中が立っているだけだ。

 その中で、ザイールが組み伏せ、鎖で動きを封じていた男が先程のモネ・オークランドだ。

 俺はザイールに声を掛ける。


「……苦労」


 ザイールは頭だけで一礼する。

 周囲の”蛇”達も物音一つ出さない。

 モネが苦しむ声と身体を動かす音だけが聞こえるだけだ。


「くそっ! 何なのだ貴様等は! 誰の差し金だ!」


 必死の形相でこちらを睨んでくるが、態勢が態勢なので全然怖くない。

 寧ろ道化のようだ。


「……誰か、聞き出すのが得意なのは、いる?」


『聞き出す』ってのはつまり『拷問』の事だ。

 俺が周囲を見渡すと、全員が一人の方を向いた。

 全身真っ黒で、蛇を模した仮面を付けている為に表情は窺えないが、少し戸惑っているのが雰囲気でわかる。


「……俺ッスか?」


 仮面を外し、自分を指さす。

 仮面の中から現れたのは二十代中盤程の軽薄そうな青年だった。

 その表情は驚きと同時に、自信と興奮が見え隠れしていた。


「そう。……出来る?」


 俺の問いに、青年は蛇の様にニヤリと笑った。


「任せてください。”蛇”所属ヴァーシュ。拷問は得意分野ッスから!」


 ヴァーシュは懐から幾つかの道具を出す。

 その中の一つ、ナイフを取り出すと、モネの胸倉を掴み、頬に触れさせる。


「さぁて、頭からの直々の命令ッスからね。気合い入れて行くッスよ! ――さて、まずお名前は?」


「何を言ってるんだ貴様は!? 誰の命令で動いている!? まさか第二王子派の連中か!? そうなんだろ――っ!?」


 最後まで喋らせずに、頬を斬ることで黙らせる。

 ……つーか聞きたい事を自分から喋っちゃってるよ。

 俺等が他国からの間者かもしれないとは考えつかんのかね?


「質問してんのはこっちッスよ? お・名・前・は?」


「…………モネ・オークランドだ」


 ヴァーシュの質問に、暫く黙っていたが、ナイフをチラつかせると渋々ながら喋り始めた。


「よろしい! では地位は?」


「……インクセリアにて伯爵位を賜っている」


「それだけじゃないッスよね? ここで何をやってたッスか?」


 ヴァーシュは暗に『奴隷商の元締め』だと言わせたいのだろう。


「……オークションの主催者を……している。……今度は此方から質問させろ。貴様等は何処の所属だ!?」


 周囲から起こるのは嘲笑。

 相手――モネを馬鹿にするように嗤い合う。


「な……なにを笑っているのだ貴様等!!」


 彼等と嗤い合っていたヴァーシュが、笑みを浮かべた儘、子供に教えるように言う。


「……俺等は”魔女の夜(ヘクセンナハト)”。その部署の一つである”蛇”ッスよ」


 その言葉を理解したモネは、絶望に顔を歪ませた。





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