表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/111

十二話 活動前の一休憩……のはず

 俺は部屋の中に入り、服を脱ぎ、いそいそと動きやすい服装に着替える。

 いや、だっていくら一年ちょい(この)姿でいたとしても、二十五年も男だったのだ。

 スカートなんて穿いてたらスースーするし、違和感しか感じない。

 公的な場所で穿かなきゃいけない場合は我慢するけども。

 せめて下にズボンとかを穿かせてくれればなぁ……。

 まぁ結局ズボン穿いているんだけど。


 俺はこの世界で一般的な質素な七分丈のスカートにレギンスを穿いた。

 まだ時間は昼。ちょうど昼食の時間である。


「……外、出よう」


 俺は途中でラヴィオに声を掛けると、最早癖となりつつある音を立てない暗殺者の歩き方を意識して直し、普通の歩き方で街中へと繰り出した。






 俺は街中をゆっくりと歩いていた。

 勿論、護衛なんて連れていない。

 マグニフィカ王国の街並みとは違い、少しオリエンタルな雰囲気の建物が多い……と言うか日本家屋にも似た建物もいくつかある。

 中世ヨーロッパなイメージのマグニフィカとは違うなぁ。

 ”魔女の夜”本部では日本食を時々食べるが、その食材は、大陸外にある日本とよく似た国――東国と呼ばれている――からの輸入と同時に、ここからも購入していたりする。

 通りを歩いている中でも、東国の料理を扱う飲食店や屋台が並ぶと同時に、二つの文化が融合して出来た料理の店も多い。


 結局、俺が選んだのはいたって普通のレストランだった。

 俺はメニューの中からパンとチキンのサンド、コーンスープのセットを頼む。


「……いただき、ます」


 こっちの世界では、食べる時に挨拶する文化は無いとはいえ、癖は簡単に抜けない。

 俺は手を合わせてから食べ始めた。


 インクセリアの食文化は俺が拠点とするマグニフィカとは少し違う。

 戦時中の非常食から広まったマグニフィカのパンは固い。

 保存がきくと同時に、携行のしやすさ――袋の中や荷車に積んでも潰れない――からだ。

 戦場では、パンを野菜や肉がゴロゴロ入ったスープに浸して戻しながらスプーンで食べるのだ。

 ライ麦パンと似た様なモノと言えば分かり易いだろうか?


 一方、インクセリアは昔から戦争が少なかった事もあるのか、一般家庭の主食として考えられたパンは柔らかく多種多様にできている。

 ロールパンやベーグル、食パン、菓子パン等々俺が元いた世界でもあったモノが一般家庭の味として食べられている。

 まぁこの国なら糧食はパンでなくても米でも良いもんな。

 インクセリアではパンにチキンや牛の肉と野菜を挿んだサンドの状態で食べる事が主流である。

 曰く、書類仕事をしながらでも食べれるから、だそうだ。

 そこらへんは俺のいた世界と変わらない。

 確かサンドイッチの起こりは……トランプをしながら食べるため、だったか?

 スープも、スプーンを使わずに食べれるようにと、具材が溶け込む位になるまで煮込まれている。

 勤勉な国柄らしい文化である。

 俺はゆっくりと時間をかけて食べきると、勘定を払って店を出た。






 食べて満足した俺は再び街を見て回ることにした。


「……♪」


 今日は少し機嫌が良かった。

 久しぶりに依頼も何もないのだ。

 幾ら自称神様に倫理観をぶっ壊されて『殺人』に対して何も思わないとしても、仕事のあるなしでやっぱり変わってくるものだ。

 周囲を見回し、屋台や小物を扱う露店を冷やかしたりと時間を無駄に使う。

 いやぁ……仕事が無いっていいね~。

 あーニートになりたい。


「……」


 暫く歩いて、俺は誰かにつけられていることに気付いた。

 ”レジェンドアサシン”の持つ【気配察知】は自分に悪意を持つ人間を知る事も出来る。

 数は……三人かな?

 ……さて、どうしようか。

 俺は悩んだ末に人混みに紛れ、フラフラと路地裏へと入っていく。

 ほーら、獲物が人のいない場所に来たよ~。

 さぁ、こっちへおいで~。


 そして俺が入って行った路地に三人のガラの悪そうな男がバタバタと駆けてきた。


「あぁ? いないだと!?」


「何処行きやがった!」


「探せ! 探し出せ!」


 路地に置いてある樽や木箱を壊しながら俺を探す男達。

 ……阿呆だねぇ。そんな簡単に姿を晒す訳無かろうに。

 では、やろうか。

 せーのっ!


「――ぐぇ!!」


「――ガッ!?」


「――ひぃっ!!」


 時間としては恐らく一秒程だろうか。

 俺は瞬時に一人を首を締め上げて昏倒させ、一人の股間を蹴り潰し、残った一人の後ろから抱き着くようにして首に刃を当てた。


「……動かない」


 俺の言葉に、声も出せずにコクリコクリと首を勢いよく縦に振る。


「……何で、ついてきた?」


 可愛らしく首を傾げて聞く。

 ……いや、外見は女の子だから。

 ほら、首を傾げるって誰でもやるじゃん。

 ね? ……な?(威圧)


「お、俺等は別に何も――ひぃ!」


 言い繕うとする男に刃を軽く滑らせる。


「……言う」


「わ、わかったから! 俺等はひ、人攫いだ。街でそれなりの奴を見かけたら隙を見て攫って、奴隷商に卸してるんだ。でも俺達は下っ端なんだ。許してくれよ。……な?」


 人攫い……ねぇ。

 ロクでもない連中だな。

 奴隷商にも()がいるだろう。必ず。

 俺はそれをよく知っている。

 ……”魔女の夜”の”不如帰”にも、奴隷を扱っている者もいるからだ。


「……誰が主催してる、の?」


「えっと……その……オークランド伯爵の旦那。……当主のモネ・オークランドってお貴族様だ」


 モネ・オークランド伯爵……ね。

 どっちの派閥なのかは知らないが、この国の()を知る為に少し調べてみようかな?


「……そこに案内、して?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ