百八話 フランチェスカとの一日
短いです。ごめんなさい。
「……」
「……」
静かだ。
実に静か。
無音、という訳ではない。
外からは談笑の声や、小鳥の声、魔物の声、そして虫のさざめきが聞こえてくるが、少なくともこの空間は静かである。
ここはエルフの里の長の部屋――つまりはフランチェスカの自室である。
エルフは原始的な生活をしているイメージがあるが、この部屋にはソファや本棚等が置かれている。
「……お菓子食べる?」
「……食べる」
そういってフワフワと魔術で操ってお菓子を取り出したのは我等が『互助会』のリーダー、フランチェスカである。
お菓子をくれるのは嬉しい。甘い物は好きなんだ。
「……むぐむぐ」
「……」
俺が食べてる間、フランチェスカは何もしない。
強いて言えば、俺を見ている。
……そんなに楽しいか?
俺がお菓子を食べていると、
「……暑くない? 涼しい?」
と質問が来た。
「……ちょっと、暑い、かも」
「そ、じゃ。風で涼しくしましょう」
そう言うと、フランチェスカは風を吹かせる。
実に心地が良い。流石フランチェスカ、相変わらず魔術が巧い。
……いや、世界最強の魔術師にこんな事いうのもなんだが、実に魔術と魔力の無駄遣いである。
小さな風を、しかも穏やかに操るのは難しいらしい――『互助会』のメンバーが言っていた――のだが、そこら辺はまぁフランチェスカだしなぁ。
「……不自由はない?」
「……うん。ない」
「……最近仕事はどう?」
「……順調。……私がやる事はないけど」
「そう。良かったわ」
暗殺家業が儲かってるのって一般常識からすると良くないんだろうけどな。
まぁエルフであるフランチェスカには余り関係がないし、興味もないのだろう。
それよりは、俺がちゃんと生活できてるかの方が重要そうだ。
「……」
「……」
そして再び、沈黙が降りる。
俺はお菓子を頬張り、フランチェスカはそんな俺を見ている。
今日一日ずっとこんなだ。
「最近ご飯は食べてる?」
「……食べてる」
「ちゃんと寝てる?」
「……姐さん」
「何かしら?」
「……ちょっとしつこい」
アンタは過保護な母親か。
そこまで質問を畳みかけられるのも困る。
「いいじゃない。たまには」
「……たまには、じゃない。……ここに来るといつも」
そうなのだ。
俺が遊びに来る――というかフランチェスカから招待される事が多いのだが――と、フランチェスカはいつも俺をこうやって甘やかしてくるのだ。
……いや、嬉しいけどね?
こっちの世界にきてから甘やかされるなんて滅多にないし。
とはいえ、である。
こうも甘やかされると、こう……くすぐったいのだ。
「いいじゃない。それなら」
……俺の心を読むな。
「読んでないわ。……貴女、無表情だけど分かりやすいもの」
「……むぅ」
俺、そんなに分かりやすいか?
自分では無表情だから分かり辛いと勝手に思ってるんだが……。
「だからここでは甘えなさい。誰も咎めないのだから」
「……それなら、良い、けど」
まぁそういうのなら、甘えさせてもらおう。
どうせ今日はやることもない。
急な依頼が無い限りは、暇である。
俺はフカフカのソファに身を預け、しばしの間ゆっくりするのだった。
暗殺者が主人公のVRMMO
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