九十八話 王都大虐殺
週一更新で申し訳ないです。
色々やる事があるのと、ちょっと新しい話を思いついちゃったので、それのストックを書いてるからです。
またTSですし転生モノですよ。……少し違うタイプの話ではありますけど。
砦門を抜けた男は、血塗れの儘で城下街へと入っていった。
兵士達が無惨に殺されるのを見ていた住民が、パニックを起こしたかの様に逃げ始めていた。
そんな中を、男は悠々と歩いていき、術を唱える。
「――【召喚:串刺公の軍勢】」
唱えたのは召喚術。
【召喚:串刺公の軍勢】は眷属――それも文字通り軍勢を召喚する術だ。
召喚されるのは血で染まった手に杭を持つ血で塗れた大柄の鎧兵達。串刺公の惨劇に従事した兵士達を模している魔物達だ。
「「「「o――oooOOOOOO!!」」」」
地獄の奥底から響いてくるかのような唸り声が召喚された兵士達から漏れ出す。
だが、彼等に理性はない。
ただ敵を殺し、殺した者を串刺し、晒すのが役割の泥人形ならぬ血人形。殺戮を役割とする殺戮人形だ。
「――さぁ、殺して殺して殺し尽くせ! ”串刺公”の偉業の再現だ!! ハ、ハハハハ――アハハハハハハハ!!」
男の声が殺戮を告げる合図となり、兵士達は一斉に周囲に散開し、一般民衆を襲い始める。
「キャアアアアアアアアアアアアッ!!」
「やめろ! 殺さないでくれ!! あ、あぁ……あああああああああああ!!」
民衆の悲鳴と助命の懇願が聞こえるが、理性の無い兵士達がそれで止まる筈もなく、召喚主である男も、誰かの言葉で殺しを止める様な人間ではないし、悲鳴や懇願を聞いて心を痛める等の感情や理性は既に男の中に存在していない。
兵士達に捕まった人間は、逃れられる事なく、生きた儘兵士の杭に貫かれ、惨劇の街のモニュメントと化す。
男がニヤニヤとその光景を見ていると、
「――いたぞ! あそこだ!!」
「陛下からは生死問わないとの命令が出ている!! 抵抗しないのであれば痛い眼には合わせ――っ!!」
「な――これ、は!?」
騒ぎに城下に詰めていた兵士達が通報を受けて駆けつけて来て、目の前に広がる惨劇に一瞬狼狽えるも、直ぐに魔術の詠唱を開始する。
火、雷、氷に水、風と多種多様な魔術が男や召喚された兵士に殺到する。
「【血の盾】。――弱っちぃ癖にうぜぇなぁおい」
だが、男は瞬時に血の防壁を張り、防いでしまう。
一方、血の兵士達には当たるが、まるでスライムかの様に瞬時に戻ってしまう。
【召喚:串刺公の軍勢】で召喚された軍勢は、血で出来た兵士だ。
そう、あくまでも血なのである。
更に、この兵士達は物理攻撃が効かず、魔術も兵士達が使う程度の魔術であれば無効化してしまう。
『ザ・ワールド・オブ・エタニティ―』内において召喚出来る一方魔物としても出現するが、初級者~中級者にとっては厄介な相手となる。
そんな事を知らない兵士達にとっても、目の前の兵士達は脅威に映った。
「魔術が効かないぞ!!」
「くそっ!! 剣を抜け! ここで仕留めるぞ!!」
今、兵士達がこうして苦戦している間にも、民衆が目の前の男が召喚した兵士達に殺されている。
更に、これ以上進ませれば、敬愛している王の元に男が向かってしまう事を考え、兵士達は覚悟を決めて剣を抜いた。
だが、男にとっては些末な事だ。
「――死ねザコ共! 【串刺公】!!」
「何を――が、ああああああっ!」
「地面からだと!? 皆、避け――ぎゃあああああっ!」
男がそう言って魔術を使えば、兵士達の足元から槍が出現し、悉くを串刺しにしていく。
周囲から聞こえてくる悲鳴に混じって、屈強な兵士達の野太い悲鳴が轟く。
元々赤黒かった槍が、串刺しにした兵士達から垂れてくる血で尚赤くなっていった。
男は、その光景を満足するまで見ると、悲鳴が鳴り響く中、再び王城へと向けて歩き出した。
一方王城では、城下での虐殺について話し合われていた。
「――陛下! お逃げ下さい! 危険です!!」
「何を言う! 我がここから逃げ出せば、臆病風に吹かれたと笑われよう! この国において、敵から逃げる事は最上の恥! 最後の最後にするべき事だ! 我は逃げぬぞ!!」
「ですが陛下! 相手は民や兵士を合わせて既に数百――いえ、数千、数万は殺している化物です!」
「既に何人かの貴族や軍部の幹部達が逃げ出しております!!」
家臣達が襲撃者の危険性をどう伝えても、王は逃げないの一点張りだ。
とはいえ、家臣達の言葉通り貴族達や軍人の何人かが逃げ出しているのは事実だ。
その中に夜の部下も入っているのだが、それを王や家臣達が知ることは無い。
”魔女の夜”の秘密保持は徹底されており、下っ端一人に至るまで、それを漏らす者はいないのだ。
だから、王も家臣達もかの有名な”魔女の夜”が国に――それも上層部に――食い込んでいる事を知る事が出来なかったのだ。
「――元帥よ。どうすれば良いと思う?」
王は軍部の長である元帥に尋ねる。
「……逃げるのが良いでしょうな。それが最も良いでしょう。報告通りであるならば、敵は恐らく一国を敵に回せる程の化物でしょう。恐らくはかの高名な”紅血”にも並ぶと思われます。その様な者を相手に出来る者などこの国におりません」
「だが数で押せば――「無理でしょうな」」
王の言葉に、元帥は首を横に振り、続ける。
「『質に数で勝つ』。戦争においては良くある話ですし、それ自体は有効な手段でしょう。しかしながら、物には限度がある。……ゴブリンが何体集まってもドラゴンに勝てないのと同じです。圧倒的な武力の前に、ただ蹴散らされるのみ。……私としては逃げる事を提案致します」
元帥の発言に、その場にいる王や家臣達は沈黙する。
王が”長耳”と罵倒したエルフの女王も、”紅血”と称されるギルドマスターも敵と認識しているが、単体で国一つを相手取れる化物を相手にしようと思う程馬鹿ではなかった。
だからこそ、野心を持っていながらも周辺諸国への時折の侵攻程度で収まっているのだ。
そしてここにいる者達の中でもその手に一番知識と慧眼を持つ元帥が言うのならば、事実なのだろう。
今この国が直面しているのは、その二人にも匹敵するであろう存在なのだ。
それをどうするべきか――いや、どうにか出来るのかすら、この場にいる者の中で誰一人として考え付く事が出来なかった。
元帥の言葉を受けて、家臣の一人が王へ諫言する。
「――陛下! 先ずは御身が生き残る事、それが現状において最も重要な事です! 我々が直面しているのは人間ではなく、災厄! ここは一先ずお逃げ下さい!!」
それに合わせ、家臣達が一斉に王に礼を取る。
王は彼等を見回し、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべ、渋々頷いた。
「分かった。お前達の言葉通りにしよう。……逃げる準備をせよ」
王の指示で、その場にいた各々が動き出そうと席を立つ。
ある者は残って軍を指揮する為に、ある者は王と共に逃げ出す為に。
だが、時は既に遅かった。
「――報告!!」
一人の兵士が駆け込んできて、そしてその場にいる全員が大声で叫んだ。
「周囲に敵と思われる存在あり! 既に囲まれております!!」
王達に死が近付いて来る。
それから逃れる事など、もう――出来ない。