九話 異世界相互補助会
とある日、もう夜となる時間。
俺はマグニフィカ王国の王都の地下にある施設に来ていた。
シャンデリアの様な明かりが照らしたその部屋は広々としている。
地面には柔らかそうな絨毯が敷かれ、中央には円卓、その近くにソファ、キッチンに冷蔵庫に似た魔道具、ワインセラーまである。
誰か人が住んでいても可笑しくない内装だが、実際には住んでいる人間はいない。
だが、何時も誰かしらいる。
「……お待たせ」
俺が挨拶すれば、各自勝手に座っていた人物達が俺に向かって返事する。
「あ、夜! 数日振りだね!」
一人は先日も会った茶髪の可愛らしい少年、元女の魔術師ハルキ。
「来たか。待ちくたびれたぞ夜」
そしてマグニフィカにある巨大な冒険者ギルドのギルドマスターの一人たる”破壊神”暁。
何方も、特に暁は普段の鎧姿ではなく、部屋着みたいなものを着てリラックスしている。
更に、年齢も性別も様々な人々が思い思いに寛いでいた。
ここはマグニフィカ王国王都の地下――王宮の地下にある隠し部屋。
異世界より来た人々が集う場所、『異世界相互補助会』。通称『互助会』の本部である。
『互助会』の設立に関わった初期メンバーは六人。
其の六人は今ここにいる十数人の内の六人だ。
「で、私が頼んだ情報はどうなった?」
先ずはギルドマスターにして”紅血”または”破壊神”とも呼ばれている冒険者、”半鬼”である剣士、暁。
「……情報? もしかして最近動きのあるインクセリアとヴァーガニアの事か?」
同じく、ハンター兼冒険者として大陸中に名を馳せ、多くの大型の魔物を討伐している””竜殺しの英雄”、ゲームでのプレイヤー名”勇者・降臨”ことコウリン。
剣と盾を扱い、多彩な魔術も操るオールラウンダーである”魔法剣士”だ。
今も男、昔も男。何とも羨ましい限りである。
「……私には余り関係ないわね。人間社会の事は」
そう冷たく突き放したのはこの中でも最高齢、この世界に来た中でも最古参の”真祖のエルフ”の女王フランチェスカ。
この世界に来てから、なんと六百年以上経つらしく、昔の名前も忘れたそうだ。
弓の腕もそうだが魔術、近接戦闘なんでもござれなハイスペックな人だ。
何年もエルフ達の中で過ごしていたからか、人の社会には余り干渉する気がない。
ダウナー系な話し方と気怠けな雰囲気は彼女にとてもよく似合う。
因みに、一応この『互助会』のトップである。
まぁ人選に少しばかり問題が無いとは言えなくもないが……。
これでも仲間想いで、ここぞと言う時は頼りになるリーダーだ。
「……俺の方にもその話は上っ面しかきてないな。それに、俺も余り関わりたくない」
そう言うのは端正な顔立ちの、乙女ゲームとかの男キャラのような外見の金髪碧眼の青年。
この中で数少ないただの人間であるべリオス・マグニフィカ。
名前の通り、この拠点の上にあるマグニフィカ王国、その次期王である。
場所提供者として、『互助会』の副リーダーをしている。
こいつは俺等と同じ転生者でも、俺達とは違う。
転生は転生でも、赤ん坊として、つまりこっちの世界の住人として生まれ直した奴の一人だ。
所謂『前世持ち』とでも言うのだろうか。
俺達ゲームのキャラクターとなった奴等とは違い、魔力やらなにやらは人間の範囲内である。
「まぁ俺としては仕事の量が増えて嬉しいがな!」
そう快活に笑うのは髭を生やし、髪を後ろに束ねた褐色肌の男。
”ドワーフ”の中でも凄腕の鍛冶師として有名な転生者達の兄貴分たるローガン。
『互助会』メンバーの普段の武器や防具を調達している。
そして俺。
この六人が『互助会』創立メンバーだ。
その後、其々が転生者を見つけては勧誘してきたので、延べ十数人程にメンバーはなっている。
「それで? どうなっているのか分かってるのでしょう? ”魔女の夜”には集められない情報なんてないのでしょうし」
冷たいながらも艶やかで色気のある声音と仕草をするのは王都にある娼館『蜂蜜の夢』のオーナーにして転生者の一人、ヴァネッサ・クラリッサ。
娼館の長らしく、胸を大胆に露出させ、足も深いスリットが入ったドレスを着ている。
冷ややかな眼は幾人かの転生者曰く『ご褒美』だそうで、そいつらは足繁く『蜂蜜の夢』に通っていることを俺は知っている。
『ザ・ワールド・オブ・エタニティー』はやっていなかったが、この世界にやって来た転生者である。
俺はヴァネッサに対して頷き、口を開く。
「……今回の件、インクセリア王国の王家が主導。……それか、それを唆した臣下がいる」
俺の言葉に、知らずと周囲から溜息が出る。
「臣下に唆された王家が戦争を仕掛ける、ね。……まるで小説だ」
呆れた様な、皮肉の様なコウリンの言葉に皆苦笑いを浮かべる。
内心では皆、転生した自分達こそ小説の登場人物の様であるとずっと思っているからだ。
「で? 唆されたのは王なの? それとも王妃?」
ヴァネッサは実際には知っているのだろう。
娼館と言うのは情報を集めるのにはもってこいだ。
寧ろ、俺の手に入れていない情報を持っている事もある。
高位の男達を篭絡し、情報を聞き出すなどそれなりの教育を受けた娼婦なら簡単に出来るだろう。
そんな娼婦達を従えるヴァネッサと俺は協力関係にある。
俺はヴァネッサから情報を得、俺はヴァネッサ――というか『蜂蜜の夢』に護衛を派遣する。
win―winの関係だ。
ヴァネッサは先を促すように俺に聞いてくる。
「……多分王子」
「王子か。インクセリアには確か王子が二人いたな。……俺がガキの頃に一度会った位だからどんな奴かはうろ覚えだが……」
この中でも随一高い”王子”と言う地位にいるベリオスが、王子達に会った事がある故に思い出そうと唸る。
「第一王子の名はヴァドラー。最近は表舞台で金と地位に物言わせてやりたい放題らしいわね。ウチの顧客が嘆いてたわ。我儘お坊ちゃんだって。それと弟の名はヴァイス。余り表……と言うか社交界には出てきていないわ」
ベリオスのフォローをするように、ヴァネッサが発言する。
だが、それに対してあまり興味が無さそうにべリオスが発言する。
「俺としては静観するぜ」
「俺もだな。俺等冒険者は依頼が無ければ関われねぇしな」
「稼ぎ時だな。儲からせて貰うぜ」
コウリン、ローガンもべリオスに続いて言った。
「私もだ。余り国の政治事に関わることは出来ない」
「僕もだね」
更に、暁は淡々と、ハルキは申し訳なさそうに答える。
フランチェスカは興味ないのか、応えもせずにのんびりとしている。
……これ、もしかして俺に一任する気だな。
ブックマークや評価等、宜しくお願いします!
誤字脱字の方も指摘して下さるとありがたいです!
……これいつも言ってる気がする。
※フランチェスカの転移してからの年数を二百年→六百年以上に訂正しました。