第6話 市民プールと待ち時間と。
夏休みに入ってから、2回目の土曜日。
午前8時50分。俺の家の前には、新庄と裃さんが来ていた。
「おはようございます、水留さん!」
「鼎ちゃん! おはよー!」
まだ2回しか会っていないはずなのだが、かなり仲良くなっている。
そこはやはり、女子だから、なんだろうな。
「……なあ、橋月」
「なんだ?」
新庄、小声で俺に話しかけてきた。
「滝宮ちゃん、清楚すぎやしませんかね」
「……否定はしない」
今日の滝宮さんは、真っ白のロングワンピースに、フリル付きの白の靴下、それと母さんのグレーのスニーカー、といった服装になっている。
全身から清楚感が漂っている。夏にはぴったりだ。
「白のワンピースと靴下だけでも無垢さが表れているのに、更にグレーのスニーカーが足されることで、無邪気な子供の雰囲気まで表現されている。素晴らしいコーディネートだ」
「べた褒めだな。……っと、もう9時になるのか、そろそろ出発するか」
「おう!」
昨日のテレビ番組の話をしている滝宮さんたちを呼び、4台の自転車にそれぞれ乗り、出発する。
◆◆◆
俺の家を出発してから、十分後。
ようやく3分の1くらい来たところで、そう言えば、と気になっていたことを新庄に訊く。
「昨日お前が持ってきた自転車、誰のなんだ?」
俺と新庄の前を走る女子2人のうちの片方、滝宮さんが乗っている自転車は、新庄が昨日持ってきてくれた物なのだが、なんというかこう、女子っぽい配色と言うか。
水色のボディーに黄色のラインが入っているだけなのだが、男子が乗るには派手、というか。
どう見ても、新庄の私物ではないと思う。新庄は一人っ子だから、姉妹の物、ってことでもないし。
「ああ、あれは裃さんのお姉さんのだよ。滝宮ちゃんが自転車を持ってきていないって言ってたから、裃さんに頼んで、用意してもらったんだ。お姉さんは車で大学に行っているらしいから、簡単に借りることができた、ってわけさ」
「ああ、そういうこと」
──って、いつの間にそんな会話をしていたんだ、滝宮さんと新庄。
「お前、色々考えてんだな」
「当たり前だろう、俺様を一体なんだと思ってやがる」
「天性のパシリ属性の持ち主」
「ぐっ……反論できない……!」
精神的ダメージを負わせることに成功!
──だけど、まあ。
「ありがとよ、助かった」
「──あっ、デレた!? 今ひょっとしてデレた!?」
「うるせぇよ! ほら、さっさと行くぞっ」
「おう!」
すぐに調子に乗りやがるんだから、こいつは……。
◆◆◆
市民プールへ到着し、俺と新庄は早速男子更衣室へ。
女性陣は、滝宮さんの水着のレンタルをしに行った。
お金は渡してあるから、心配ないだろう。
着替え終え、俺と新庄は先にプールへと来ていた。
「暑い……」
「マジで暑いな、まだ7月なのにねぇ」
この市民プールは、屋外にいくつかのプールがあるのだ。
新庄と2回くらい来たことがあるが、小学生の頃のことだから、ほとんど憶えていない。
「滝宮ちゃん、どんな水着をレンタルするんでしょうね、旦那ぁ。楽しみですねぇ」
至極真っ当な言動だと言わんばかりの真面目な顔で、そんなことを口にする新庄。
「真面目な顔をしても、変態性はバレバレだぞ」
「失礼な、誰がへんた」
「お前」
食い気味で答えてやる。
「せめて言い終わってからにしてくださいぃ! 泣きそうだよ……」
「今は……泣け……」
俺の左隣に立つ新庄の右肩に、ポン、と左手を置き、憐れみ溢れる表情で励ます。
「お前が励ますのはおかしくないですか!?」
む、それもそうか。
「ま、まあ、気を取り直して。……滝宮ちゃん、どんな水着をレンタルするんだろうな」
「最初に戻った!?」
以下、延々同文。
◆◆◆
「おまたせー」
「おまたせしました!」
「お、来た来た」
十分ほど新庄と話していると、滝宮さんと裃さんがやってきた。
──当然だが、水着で。
「……なあ、橋月」
「なんだ、新庄」
「夏って、素晴らしいですね」
「……否定はしない」
小声でそう言ってくる新庄の気持ち、分からないでもない。
滝宮さんは、これまたフリルの付いた、ピンクのワンピースタイプの水着。
その左隣に立っている裃さんは、白黒の縞々の──『ビキニ』。
「ど、どうかな、新しく買ったやつなんだけど……」
「裃さんの雰囲気に、凄く合っていますよ」
「……あ、ありがと」
大人っぽい裃さんに、とても合っている。
「私は、これが可愛かったのでこれにしましたー!」
「滝宮さんも、すごく似合っていますよ」
「そうですか? 嬉しいです!」
──滝宮さん、凄くテンションが上がっている。
『プールに行く』と言った時もすごく嬉しそうにしていたし、プールが好きなのかな。
「さて、それじゃあ……早速泳ぎますか!」
「あ、私も泳ぎますよー! 最初は流れるプールからです!」
「おお、いいねぇ。流れるプールへレッツゴー!」
──滝宮さんと新庄のテンションが、一致している!?
滝宮さん、本当に楽しそうだなぁ。
「橋月君、私たちも……」
「そうですね、俺らも行きましょうか」
俺と裃さんも、流れるプールへと向かう。
◆◆◆
2時間くらい泳いで、時刻は午後0時。
昼食にしよう、ということで、橋月君と新庄君は食べ物を買いに行った。
私と水留さんは、飲み物を買ってきて、既にテーブルを確保していた。
「そう言えば、さ」
「はい?」
午後にどのプールで遊ぼうか、という話をしている最中、唐突に思いついたように、水留さんが話し出した。
「鼎ちゃんと橋月君って、すごく似てるよね」
「似てる、ですか?」
「うん。なんていうか、性格──って言うのかな。まあ、そんな感じ」
「は、はぁ……」
分かったような、分からないような。──要するに。
「雰囲気、とかですか?」
「そう! それが言いたかったの!」
──とは言っても、相変わらずよく分からないけど。
「親戚だから、って理由じゃ片付かないくらい、似てるのよ。……複雑な事情があったり、する?」
「いえ、そういうことはないですよ」
血縁とかとは違う方向に、複雑な事情があるけど。
「ただの親戚ですよ、私と橋月君は」
「そうなの?」
「はい。だから、この話はもうおしまいにしましょう! せっかくのプールなんです、楽しまないと!」
少し強引だけど、話を逸らすことにする。
この話をし続けていると、すぐにばれてしまうだろうから。
「ふふっ、そうね。……あ、戻ってきたみたいよ」
「本当ですね、おーい、こっちですよー!」
私たちがどこにいるのか分からない様子だったので、立ち上がって手を振ってみる。
──と、向こうが気付いてくれた。
「……鼎ちゃん、本当に楽しそうね」
「はい!」
楽しい。
本心から、そう思う。
あっちの世界では、こんな体験、したことがなかったから。
誰かと遊ぶことなんて、なかったから。
「すごく、楽しいです!」
こっちの世界にいる時だけでも、楽しまなくちゃ。
◆◆◆
『映し鏡と現世の!』
第6話 『市民プールと待ち時間と。』
◆◆◆




