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映し鏡と現世の!  作者: イノタックス


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2/18

第2話 話し合いと訪問と。

「なるほど、鏡の中の世界、ですか」


──明くる早朝、居間にて。

俺は、鏡から飛び出してきた少女──滝宮鼎(たきみやかなえ)さんに色々と訊いていた。

気になることが多すぎたのだ。既に許容範囲からは遠く離れた話題だが、気にしたら負けだ、と強く思ってスルーする。


「はい。信じてもらえますか……?」

「っ……! そ、そりゃあもちろん。俺の目の前で、あんなことがあったんですから」


……動揺するな、俺らしくもない。

いや、でもだよ。上目遣いは、反則ではないだろうか?


「よかった、信じてもらえて……」

「……そういえば、鏡の中の世界に帰ることはできないんですか?」

「それが、できないんです……」


──できそうなものだけど。


「一度鏡の中の世界から出てしまうと、しばらくは帰れないんです。今朝起きた時にも試したんですけど、帰れませんでした」

「しばらく……ってどのくらいなんですか?」

「人によるらしいです」


酷くざっくりとした範囲だこと。

あまり気にしても仕方がないか。


「よっ、と」


座っていた座布団から立ち上がり、滝宮さんに訊く。


「朝食、食べられます?」

「あ、はい! ……でも、いいんでしょうか、頂いても……」

「構いませんよ。昨日は結局、何も食べていないでしょう?」


昨日、鏡から出てきた滝宮さんは、脱衣所で倒れるように眠ってしまった。

同年代の女子の身体に触れるのはかなり抵抗があったが、そのまま脱衣所で寝かせるわけにもいかないので、押し入れから引っ張り出してきた布団を居間に敷いて、寝かせておいた。

俺は、もちろん自室で就寝。久しぶりに自分の部屋で寝たので、違和感が半端じゃなかった。


「すみません、昨日のことといい、ご迷惑ですよね……」

「気にしないでください。小さめとはいえ、一人暮らしには十分すぎる家なんです。鏡の中の世界に帰れるまで、好きに使ってもらっていいですよ」

「ありがとうございます……!」


目をキラッキラさせてお礼を言う滝宮さん。──本当に純粋な娘だ。


「とは言ったものの、食材がないので、買い物に行ってきますね」

「買い物、ですか?」

「はい、近所のスーパーに」


24時間やっているスーパーが近所にあるので、そこに行くことにする。

スーパーに行くのは久しぶりでもなんでもないが、食材を買うとなると話は別。数か月──いや、何年かぶりだ。

しばらく弁当と飲み物くらいしか買っていなかったのだ。一人暮らしなら、そんなものだろうと思う。


「あの」

「ん?」


何か気になる様子の滝宮さんが、俺に訊いてくる。


「学校の時間は大丈夫なんですか?」

「ああ、それなら心配いりませんよ。今日は休むことにしたので」


この環境に戸惑っている滝宮さんを一人残して、学校に行けるほど強靭な心は持っていない。

──要するに、滝宮さんが心配なのだ。


「え、休む……って、休んで大丈夫なんですか?」

「ええ。プリントは友達に持ってきてもらうことにしたんで。幸い、教科書とか、宿題とかはもう持ってきてありますし」


既に新庄には『調子が悪いから休む』ってメールしてあるし、もう少ししたら学校にも連絡する予定だ。

今日は全校集会とホームルームくらいしかないし、単位にはまったく問題ない。


「明日から夏休みなんで、今日の授業は出なくても大丈夫な範囲のものなんですよ。気にしなくて平気ですよ」

「そうですか……あの、無理はしないでくださいね?」

「わかってます。それじゃ、買い物行ってきますね。……一緒に行きます?」


付いてきたそうにしていたので、そう提案すると、すごく嬉しそうな顔をした。


「はい!」

「じゃ、行きましょう。靴は──母さんのがあったはずなんで、それを使ってください」


滝宮さんの服は、白のブラウスに紺のロングスカート(正確な名称は分からない)。外出には問題ないだろう。

しかし、去年の大掃除の時に偶然見つけた、母さんの靴が役に立つとは。何が起こるか分からないものだ。


「あの、訊いてもいいですか?」

「……? いいですけど」


何か、気になることでもあったのだろうか。


「橋月君のご両親って……」

「ああ」


そういえば、話してはいなかったっけ。

それじゃあ、と酷くあっさりと。


「もう亡くなってますよ」


それだけ伝えれば、十分だろう。


◆◆◆


スーパーで野菜と肉、朝食用の弁当を買い、帰宅。

今から朝食を作ると時間がかかり過ぎてしまう、ということで弁当にしたのだ。


買ってきた食材を冷蔵庫に入れ、台所のテーブルに二人分の弁当を並べる。

俺はハンバーグ弁当、滝宮さんは野菜炒め弁当。


「いただきます」

「い、いただきますっ」


……滝宮さん、買い物を終えたあたりから、ずっと変だ。

変、と言うのは失礼か。──不自然、と言うべきか。


「あの、滝宮さん」

「は、はい!」

「……どうかしたんですか?」


うん、明らかに不自然である。


「──その、こんなによくしてもらって、なんか、申し訳なくて……私なんかに」

「気にしないでください。困っている人は放っておけない性格なんですよ」

「でも、私なんかに……」


滝宮さん、どんどん涙目になっていく。

さっきから『私なんかに』と言っているのが、すごく気になってしまった。

気になったことは、訊くに限る。


「滝宮さん、何か特殊な事情があるんですか?」

「えっと、その、実は……私、ここまで優しくしてもらったことがなくて」

「……訊いていいのか分かりませんけど、その、ご両親は」

「いないんです」


──訊かなければよかった。

そう思いかけたが、必死でその言葉を心から消す。

他人の事情を、勝手に『不幸だ』と決めつけてはいけない。

常日頃から、俺が心がけていることだ。


──しかし、滝宮さんの態度から察するに、今回は例外かもしれない。


「事情が事情でしょうけど、それは鏡の中の世界の話でしょう?」

「そうですよね……すみません、ご迷惑でしたよね、こんな話をしてしまって」

「そ、そういうことではなくてですね!」

「……?」


詳しく話さないと、滝宮さん、泣き出してしまいそうだ。


「俺が言いたいのは、『ここは別の世界なんだから、そういうことは気にせず、明るく行こう!』……ということですよ」

「あ、……は、はい!」


うん、なんとか誤解は解けたようだ。


「さて、早く食べちゃって、これからの予定でも立てましょうか」

「はい!」


冷め始めた弁当に手を付ける。


◆◆◆


遅めの朝食を終え、何を買いに行くかの相談をして、時刻は午前11時。

滝宮さんの服や生活用品を買いに行くための準備をしていると、玄関のチャイムが家に響いた。


「誰だろう……ちょっと出てきますね」

「はいっ」


居間から廊下に出て、玄関へ。



「はーい、どちら様で……」


玄関の引き戸を開け、視線を外へ移すと。


「よっ、元気そうだな」

「……なんで来た、新庄」


新庄がキラッキラの笑顔で立っていた。


「一言目からキツイ言葉ですねぇ! ……プリントを届けに来たんだよ。夏休み明けのテスト範囲の紙とか」

「さすが新庄、頼りになるぅ」

「棒読みで言われてもちっとも嬉しくないぞ……。まあ、いいや。元気そうならそれで。ちなみに、来たのは俺だけじゃないぞ」

「は?」


そう言って、新庄は俺から見て右側に移動する。

そこにいたのは──。


(かみしも)さん?」

「こ、こんにちは……」


クラスメートの、裃水留(みずる)さん。

あまり関わりはないんだけど、なんで?


「その、家が近かったから、新庄君に誘われたのもあって……」

「は、はあ」


よく分からないけど、お見舞いに来てくれた、ってことだよな。


「ありがとうございます、来てくれて」


調子悪くなんてないけど、一応お礼はしておく。


「あ、うん……」

「……え、まさか橋月、気付いてないのか?」

「気付くって、何に?」


新庄、変なことを訊くなぁ。


「い、いや、そうだよな、お前は昔からそうだもんな、ああ、仕方ないか」

「なんか、すごく失礼なことを考えてないか?」

「気にするな、こっちの話だ。さてと、それじゃあ上がらせてもらうぜ」

「……は?」


え、上がっていくの?


「病人なんだから、色々と世話してやろうってことで来たんだけど」

「あ、ああ……それなんだけど、実はもう元気で」

「無理すんな、病人は寝てろ寝てろ。さてと、お邪魔しまーす」

「ちょ、新庄!?」


まずい、滝宮さんのことがばれたら、新庄に何を言われるか分かったもんじゃない。

今更『実は調子よかったんです!』なんて言うのも嫌だし、ここは──!


「ちょ、ちょっと人には見せられないくらい散らかってるから、少し片付けさせてくれないか?」

「別に気にしないけど……あ、そうか、裃さんに見せたくないんだな?」


新庄が小声でそう言ってくる。──にやけながら。


「そういうことだ! だから、ちょっと外にいてくれ、5分くらいしたら呼ぶから」

「へいへい、了解ーっと」


新庄と裃さんが外に行ったのを確認して、俺は玄関を閉める。

鍵も掛けようかと思ったが、不自然すぎて怪しまれると思ったので、しないことに。

──さて。


「まずは、滝宮さんを2階に行かせるか」


そう決めて、居間へと向かう。


◆◆◆


『映し鏡と現世の!』

 第2話 『話し合いと訪問と。』


◆◆◆

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