最終話 映し鏡と現世の!
「新庄君たち、鼎ちゃんと会ったの!? ……いいなぁ」
午前11時10分。
クーラーの効いた居間で、1か月ぶりに橋月宅を訪れた裃さんが、羨ましそうにそう言った。
「昼食はみんなで食べるんでしょ? それまでの辛抱だよ」
「そうだけどぉ……むむむ」
よっぽど滝宮さんに会いたかったようだ。
「2階にいるのだから、会いに行けばいいじゃないか」
「……あのな、鏡の世界の俺? 好き合っている二人の時間を、邪魔はできないだろ?」
「──そう言われてみれば、その通りだな」
鈍感もここまでくると、個性のような気がしてくる。
俺と同じ顔でそういうことを言うのは、やめてもらいたいが。
「じゃあさ、君たちは二人でいなくてもいいの?」
「あら、現世に出てきてたのね、鏡の世界の私」
久しぶりに見たな。いやまあ、姿かたちは裃さんとまったく同じなんだけど。
「面白そうな話をしてたからね! で、どうなの? どうなの?」
「邪魔とは思ってないわよ。……それなりに、二人きりの時間はあることだし」
「きゃー! ラブラブ? もしかしてラブラブ!?」
こういう無邪気さに限っては、子供っぽいんだけどなぁ。
「ま、まあ、それなりには……」
「それなり! それなり──ってことは現世の私と新庄君って、どこまでいってるの!?」
「結局細かく聞くのね」
『子供のように無邪気に』答えづらい質問を投げかけてくる、鏡の世界の裃さん。
──結局、一連の騒動は、すべてこの子の思い通りになった気がする。
なんか悔しいので。
「秘密ってことで」
するりと逃げることにする。
「ずるい! 教えてよ~」
「秘密なのよ、鏡の世界の私♪」
「現世の私まで!?」
裃さん、ナイスプレー。
「なんで教えてくれないのー!?」
「日頃の行いだろ」
「鏡の世界の新庄君まで!? 私が何をしたっていうのよー!」
土曜日の居間に、嘆きの声が響き渡った。
◆◆◆
「1階が騒がしくなってきましたね」
「たぶん、鏡の世界の裃さんが来たのかと……」
「ああ、なるほど」
新庄二人と裃さんだけではここまで騒がしくならないと思ったら、そういうことか。
「じゃあ、1階に行きましょうか」
「そうですね」
フローリングの床に敷いた座布団から立ち上がり、自室の扉を開け、廊下に出る。
滝宮さんも出たので、電気を消し、扉を閉める。
◆
俺の前を歩く滝宮さんが、何かを思い出したかのように振り返り、俺の目をじっと見つめて。
「今度は、しばらく、じゃないですけど」
「はい?」
一呼吸置き、再び言葉を発する。
「また、厄介になりますね♪」
「──はい」
それは、夏に出会った時の言葉。
ならば、と俺も覚悟を決めて。
「滝宮さん」
「なんですか?」
きっとこれは、言わなくてもいいことだけど。
でも、言っておきたいことなのだ。
「ずっと、俺の傍にいてくださいね」
「はい!」
──満面の笑顔で、即座にそう返してくれた。
ああ、やっぱり俺は──この人が、好きだ。
きっとこの先、何があっても、この想いは変わらないだろう。
「ずっとずっと、一緒ですよ♪」
◆◆◆
俺たちは、同じ存在だ。
生まれた経緯こそ違えど、それは変わらない。
──だから。
世界を越えて、一緒にいよう。
一緒に、生きていこう。
◆◆◆
『映し鏡と現世の!』
2016年7月21日~2016年12月17日
──おしまい。
◆◆◆




