表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
映し鏡と現世の!  作者: イノタックス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/18

第16話 橋月と、『橋月』と。

「何年ぶりだろうね、鏡の世界の俺」


しばらく黙っていたが、そんなことを続けていても仕方がないので、俺から語りかけた。

それが筋ってものだろうし。


『……8年間、待ってた』

「そうだよな、小3のあの事件から、そんなに経つんだよな。……ああ、本当に久しぶりだ。まさか、また君と話すことができるなんて、ね」


小さいころ、まだ俺が『一人』だったころに、鏡に映る自分に向けて問いかけたことがある。

『ぼくは、しあわせになれるのかな』なんて具合に。

当然、返事なんて期待していなかった。でも──彼は返してくれた。

──『きみならきっと、大丈夫』と、それはそれは優しい声で。


「ごめんね、遅くなっちゃって。……今の今まで、君がいてくれたこと、なんで忘れていたんだろう」

『……仕方ないこと。僕が過去を封印していれば、君は苦しまずに済んだんだから』

「君にばかり、つらい思いをさせちゃったね。ごめんね、そして──ありがとう」


心の底からの、謝罪とお礼。

ずっと苦しんでくれていたのだから、これくらいじゃ恩返しにはならないけど。

鏡の世界の俺──俺の記憶をずっと持っていてくれた、俺の恩人。

彼のおかげで、俺は崩壊せずに済んだ。


「いろんなことを思い出したよ。君のことや、あの事件の時、俺に一生懸命語りかけてくれていた俺の親友のこと。それと──滝宮さんの正体も」

『……もう、知っているんだね』

「ああ。滝宮さんは、俺の──別人格だ」



別人格。──何も、不思議なことじゃない。

小さいころの俺は、父さんから虐待を受けていた。

そんな俺が正気を保つ方法。いくつかあるが、俺はそのうちの一つ──『人格を作り出す』という方法を選んだ。

よくあること。何も不思議なことじゃないのだ。──ただ一つ、例外となる要素があったが。


「鏡の世界と現世の人物は同じ存在。そうすると、君が俺のつらい記憶を封印して眠っていた間、本来ならば俺も消えるはずだった。だけど消えなかった。滝宮鼎という別人格、つまり──『俺と同じ存在』がいたからだ」

『……彼女にも、色々と苦労させちゃったようだね。僕が眠っていた間、彼女が僕の代わりを務めていてくれたんだから』


要するに。

鏡の世界の俺と現世の──つまり俺は、同一人物。

俺が作り出した別人格──滝宮鼎と俺は、同じ存在。

イコールでつなげていけば分かること。


鏡の世界の俺は、滝宮さんと同じ存在。

鏡の世界の俺が消えた瞬間、滝宮さんは鏡の中の世界に実体を持って生まれたのだろう。


『……なんだ、全部分かっているんだね』


鏡の世界の俺から、怯えの感情は消えていた。

これから俺が言うことを、もう分かっているのだろうか。


「全部の記憶を取り戻したからな。──で、さ」


全部の記憶を取り戻した。

それはつまり──鏡の世界の俺が封印していた記憶も、取り戻した、ということ。

そして──鏡の世界の俺は、滝宮さんと同じ存在。

何が言いたいかというと、だ。


俺は、鏡の世界の俺か滝宮さんを、俺の体に戻さなければならないのだ。


『選べるの?』

「もう答えは決まってる」

『──うん、幸せそうな顔をするようになったね』

「本当に、ごめんな。恩を仇で返すようなことになって」


俺は──滝宮さんを選んだ。


『気にしすぎだよ。自信を持って、現世の僕。──君が幸せになれば、僕も幸せになれるのだから』

「──ああ、そうだな。本当に今まで、ありがとうな。絶対、幸せになってみせるからさ!」

『その意気だよ! ──それじゃ、『ただいま』』


瞳の端に溜まった涙を押し流すように、目を瞑り、彼は──『帰ってきた』。

ひどく久しぶりの、充足感。


「ああ……『おかえり』」


俺も少しだけ、泣いていた。



「──よし!」


目を瞑ったまま、数秒間。

心の整理はできた。──そっと、目を開ける。

鏡の世界の俺がいなくなったあとの、映し鏡には。


「随分久しぶりな気がするね、滝宮さん」

『──え?』


事態を呑み込めていないらしく、戸惑いを隠せていない滝宮さんの姿。



『私、体が消えていって、それで……』

「また、現れてくれた。体調はどう? 気持ち悪かったりはしない?」

『はい、大丈夫ですけど……あっ』

「ん? ……ああ」


滝宮さんの顔、どんどん紅潮していく。

俺に告白したことを思い出したのだろう。


『すすす、すみませんっ! 橋月君を困らせるようなことを言っちゃって──』

「大丈夫ですよ、滝宮さん。──ね、滝宮さん」

『ひゃ、ひゃいぃ?』


本当に可愛いな、俺の別人格。

っと、そんなことを考えている場合じゃなくて。


「心は整理し終えたから。ごめんね、待たせちゃった」

『──?』


深呼吸を1回。

心は落ち着いている。


──俺も。



「俺も、滝宮さんが好きです。俺と一生付き合ってください」




『俺と一生付き合って』──同じ存在だから、これ以上ない告白の仕方だと思ったのだが、さてどうだろう。


『──あ、あの』

「はい」

『私も好きです!』

「……──ふはっ」


つい、吹き出してしまった。


『な、なんで笑うんですかぁ~!?』

「滝宮さん、テンパりすぎですって。滝宮さんが先に告白してくれたんでしょう?」

『あ……あはは、そうでしたね。えへへ……』


二人して、笑いあう。


「うん、やっぱり俺は、あなたが好きです」

『……同じ存在なのに、いいのかな』

「ダメな理由なんてないですよ。少しの間だけですけど、滝宮さんと俺は、一緒に『同じ世界で』暮らしていたんです。それが許されて、付き合うのが許されないなんて、俺は認めませんよ?」


めちゃくちゃな自論。だけど、これ以上ないくらいに、俺の中では正しい理由。


『──鏡の中の世界から、出る準備をします。数週間くらい、離れることになると思います。──それまで待っていてくれますか?』

「いつまでも待ちますよ。この家で、滝宮さんの帰りを待ってます。だから──」

『──はい。しばらくお別れですね、それでは──また、会いましょうね』

「はい。戻ってくるのを、楽しみに待ってますよ!」


会話が終わると、滝宮さんは映し鏡の奥へと走っていった。

滝宮さんが消えた後には、相変わらず、誰も映っていなかった。


「この現象にも慣れないとな……」


一言呟き、苦笑いしつつ、俺は脱衣所を後にした。


◆◆◆


一人の苦しみに比べれば、待つことなんて苦ではない。


いつ会えるのかなんて分からないけど。


俺は、待ち続けよう。


◆◆◆


『映し鏡と現世の!』

 第16話 『橋月と、『橋月』と。』


◆◆◆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ