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映し鏡と現世の!  作者: イノタックス


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15/18

第15話 帰り道と、好きな人と。

午後9時過ぎ。

俺は、駅前のデパートに来ていた。


「……暇だ」


いやまぁ、暇っつーか、心配とか不安とかで動いていたいというか。

暇なのは本当なのだけど。

鏡の世界の俺に『橋月と滝宮なら心配いらない』なんて言われたから橋月の家から出てきたけど、何もすることがない。──何もする気が起きない、と言った方が適切かもしれない。

一応、駅前のゲーセンにも寄ったのだけど、ゲームをする気になれず、すぐに退散した。

で、デパートに来たのだけど……いろいろ考えすぎて、何かを買う気になれないのだ。


──鏡の世界の俺が、俺に負担をかけさせないように言った言葉だということは、分かっている。

確かに俺は、一人で背負いすぎていたのかもしれないし。そういうところを見抜ける辺り、ただの天然野郎じゃないのかもな、あいつ。


「俺自身なんだから、当たり前か。──って、あれは」


グダグダ考えながら地下1階の食品売り場を歩いていると、偶然目の前に、ビニール袋を両手に提げた、最近よく会う女子の背中が。

こんな心境で、好きな人に会うとは。

俺にどうしろっていうのか、神様がいるんなら問いただしたい。


──することなんて、決まってるか。


「こんばんは、裃さん」

「ふぉ!? ……し、新庄君?」


話すに、決まってるじゃないか。



裃さんは、遅めの夕飯のおかずを買い終えたところらしい。

買い物はすべて済んで、もう帰ろうとしていたらしいので、一緒に帰ることにする。

お互いの家はそこまで遠くない。裃さんの家まで送って行っても、10時までには自宅に帰れるだろう。


「ごめんね、荷物持ってもらっちゃって」

「気にしないで。こっちこそごめんね、ついてきちゃって」

「ううん、送ってもらえるのは嬉しいよ。夜道だし、ちょっと怖かったから」


そう言って、本当に嬉しそうに微笑む裃さん。

──うん、やっぱり話しておくべきだよな。


「あのさ、伝えておきたいことがあるんだけど……裃さん?」

「──」


俺の言葉を聞いた裃さんの顔、なぜか紅潮している。──って『なぜか』じゃねぇ!


「か、裃さん、これから話すことは、橋月と滝宮さんのことだから、『そういうこと』じゃないから!」

「え? ……あはは、ごめん、早とちりしちゃったね」

「そ、そうらしいね」


赤く染まった顔を見合う二人。──なんてぎこちない二人。


「実は、滝宮さんがこっちの世界からも、鏡の中の世界からも消えたんだ」

「え!? そ、それって大変なことじゃ……」

「うん。でも、鏡の世界の俺が動いてくれているらしいから、大丈夫──だと思う。それに、ね?」

「?」


あいつが──橋月が、動いているのだから。


「橋月が頑張っているみたいだから、何も心配することはないと思うんだ。滝宮さんの正体のことを考えれば、きっと橋月がなんとかしてくれる。そう信じてるんだよ」

「鼎ちゃんの正体──?」

「ああ、言ってなかったっけ。滝宮さんは──」



「そ、そんな事実が……」

「あはは、さすがに驚いたかな」

「そりゃ驚くわよ、そんなことを聞かされたら」

「だよね。鏡の世界の俺から最初に聞いたときは、俺もすごく驚いたよ」


俺の言葉の後に、でも、と置いてから、裃さんは続ける。


「鼎ちゃんは鼎ちゃんだから、接し方は変わらないわ」

「そう言ってくれると思ってたよ。さすが、俺のす──」

「す? ──ねぇ、何を言おうとしたの?」


──裃さん、こんな意地悪そうな表情もするんだな。


「いや、なんでもない」

「す、の後に何か付くのかな? 『俺のす』──なんだろうなぁ♪」

「……はぁ。負けたよ」

「え? ──っ!?」


荷物を左手に持ち替え、右手を裃さんの後頭部へ優しく当てる。

裃さんの顔を固定して、一瞬ひるんだ隙を狙い、唇を──奪う。

世間一般でいうところの、その、なんだ。……キス、というやつか。


多めに5秒。

体感では、それ以上。


「──俺の好きな人、俺と付き合ってください」


お互いの頬は、これ以上ないくらいに紅潮している。


「……──はい」


女神のように、微笑んでくれる。

やっぱり、俺はこの人が好きだ。


「……順序が逆な気もするけど」

「そこは気にしないでもらえるとありがたいです」

「ふふっ、気にしないでいてあげる。──ね、新庄君」

「ん? ──ああ、そうだね」


差し出された左手を、右手でそっと握り返す。


「鼎ちゃん、帰ってきてくれるかな」

「きっと大丈夫だよ。確証はないけどね。──信じて待ってみよう」

「うん。……あ、もう家かぁ」


いつの間にか、裃さんの家の前まで歩いてきていたようだ。


「着いちゃったね。はい、荷物。それじゃ、俺はこれで──」

「ね、新庄君」


ドキドキが静まらない俺に、裃さんは嬉しそうに微笑んで。


「私も好きだよ。──それじゃあね!」


それだけ言って、裃さんは家のドアを開け、入っていった。


「……ははっ」


ああ、なんかもう、笑いしか出てこない。

心は静まるどころか、もっとドキドキしてきた。


「きっと、大丈夫だよな」


夜空を見上げて、誰に向けたものでもない言葉をつぶやく。

きっと、うまくいく。

あいつが──橋月が、頑張っているのだから。


俺は、待っていよう。


◆◆◆


『映し鏡と現世の!』

 第15話 『帰り道と、好きな人と。』


◆◆◆

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