49 納得
更新が遅いのは新章が配信されるFG某や、田舎に効率の良い狩り場がなかったりする某モンGOが全て悪いのです。悪い文明です。
「ふぇぇぇ……ほんとに、勘弁してくらさ――だから、甲冑を付け外しして遊ぶなと言っておるだ。あ、やめ、辞めぬか――あひぃん。お願いですから、やめてくだしゃい……」
首だけデュラハンの甲冑を無駄に付けたり外したりするのも、案外楽しいものだ。
新しい玩具を与えられた子供のように、クロスはニヤリと口を吊り上げた。
「辞めてやれ。趣味が悪いぞ」
そんなクロスをしばらく見ていたアスワドが、静かに呟いた。
「知り合いか?」
アスワドは魔族だ。魔王軍で四天王を務めていたデュラハンを知っているのではないかと思って問う。
「否」
アスワドは組んでいた腕を解いて、クロスからデュラハンの首を取りあげた。幼い少女のように見えるダークエルフはデュラハンの顔に甲冑をつけてやりながら、首を横に振る。
「儂が一方的に知っておるだけさ」
アスワドの腕に収まったデュラハンの反応も、それを肯定していた。
そういえば、アスワドは魔王軍には参加していないと言っていたか。それでも、四天王級の幹部が相手ならば、知られていてもおかしくない話だろう。
アスワドはデュラハンに視線を落とした。
だが、それは高位の魔族に対する畏怖の視線ではない。
どちらかというと、侮蔑や嫌悪の入り混じった複雑な表情だ。
「魔王を裏切って、勇者に道を開いた四天王」
呟かれたアスワドの言葉に、デュラハンが甲冑の下で沈黙していた。
クロスは眉を寄せる。
「魔の火山への道は魔族にしか開けぬ。勇者を火山へ導き入れた魔族がいると、儂は聞いておるぞ?」
アスワドの言葉を聞いて、クロスが口を挟む。
「確かにそうだけど、そいつは――」
「そうだな。我がその男を魔王の御前へ招き入れた」
デュラハンはアッサリとアスワドの言葉を肯定した。明朗で威風堂々とした声である。
「否定はせぬ」
呑み下すような物言いに、クロスは口を曲げた。口を挟むのも無粋である。
「そうか。まあ、特に意味はない」
アスワドは軽く息をつき、デュラハンの首を大きな石の上に置いてやった。これ以上の言葉を重ねるつもりはないらしい。
その遣り取りを見て、クロスは釈然としなかった。
確かに、アスワドの言った通りではある。
クロスたちが魔王を倒したとき、火山への道を開いたのは目の前にいるデュラハンだ。
そして、結果的にクロスは魔王を倒した。
結果だけを見れば、正しい。
しかし、違う。違うのだと、クロスはわかっていた。
「理解出来ないな」
クロスには、デュラハンがアスワドの言葉を受け入れた意味がわからなかった。
デュラハンがクロスたちに道を開いたのは、魔王を裏切ったからではない。
逆である。
――この……裏切り者がッッ!
魔王を裏切ったのはデュラハンではない。
巨人族を束ねていた四天王の一人が謀反を企て、魔王として君臨しようとしていたのだ。それに気づいたデュラハンが策を講じた。
四天王同士で討ち合えば、士気にかかわる。あのとき、クロスたちの活躍で魔王軍の勢いには陰りが見えていた。あの状況での同士討ちなど、好ましくはない。
ならば、勇者たちに討たせてしまえばいい。ただし、生きては返さない。
デュラハンはクロスたちを火山へと招き入れて、裏切り者を始末させた。
誤算であったのが、クロスたちが生きて火山から降りるどころか魔王を破ってしまったことだ。
利用されただけだと知りながら、クロスたちも火山へ至るチャンスを棒に振るわけにはいかなかった。仲間たちだけで、決死の戦いだ。
賭けに勝ったと言うべきだろう。
結局、そのあと人間に裏切られてしまったわけだが。
「なんだ」
クロスの視線に気づいたのか、デュラハンが抑揚に乏しい声で問う。
だが、すぐにクロスの思考に気づいたらしい。
「結果が全てだ。我が行為によって魔王は滅んだ。それだけであろうよ」
例え、意図が違っていても、結果は同じだ。
デュラハンの言葉は理解出来た。
理解した上で、
「納得出来ないね」
何故、正さない。
抗わない。
少なくとも、今のクロスには納得出来なかった。
では、以前のクロスなら?
馬鹿正直に異世界を救おうなどと考えていた以前のクロスなら、どんな反応をするだろう。想像することは出来る。出来るが、やはり納得は出来なかった。
根本的に自という人間そのものが変質してしまった。そう実感せざるをえなかった。
「我が矜持を理解出来るくらいなら、汝は魔王になるなどと言っておらぬだろうよ」
嘲笑っている気がした。
今すぐにデュラハンの首を消し飛ばしてやりたい衝動を抑えて、拳を握る。
「まあ、良い。我は汝に問いにきたのだ。そして、答えを得た。であるならば、汝に伝えなければならないことがある」
クロスの心理などおいて、デュラハンが流暢に告げる。
クロスは黙って聞いていた。
「我らは新たな魔王を求めている。火山の魔力は封じられ、操る者が必要なのだ。汝が本当に魔王となるつもりであれば、我は再び道を開いてやろう」
甲冑の下に浮かぶのは笑みだろうか。それとも、別の表情だろうか。
† † † † † † †
よろめく身体を支えるように、石壁に片手をつく。
息が上がり、自分の身体ではないような感覚が蝕んでいく。
「ぐ……ッ」
苦痛を呑み込もうと息を整えるが、限界のようだ。
結局は情けなく両膝をついて、視線を落としてしまう。
目の前にある姿見に映るのは、自分が知っている顔だ。
窓から射し込む蒼い月の光が、銀の髪を淡く浮き上がらせている。
けれども、違う。
周囲は未だ気づいていないが、自分にはハッキリとわかっていた。
これが代償か、と口の中で呟く。されど、声にはならない。代わりに、自分を奮う言葉を紡ぐ。
「このオルフェウス、ただでは死なぬ」
ハッキリと湧き立つ闘志だけが、この身を動かす燃料である。
オルフェウスは静かに、けれども、激しい眼差しで鏡に映る自分の姿を睨みつけた。
スコップ速報というサイトで本作を紹介して頂きました! ありがとうございます!
深夜に教えてもらって、急いで書きました。




