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47 魔からの使者

 

 

 

「風魔法で各地の精霊に諜報させました。どうやら、大神殿が消滅したようですわ」


 涼しい顔でリリィシアが報告する。

 クロスは眉を寄せた。


「消滅……魔法で?」

「恐らくは。バケモノ(・・・・)が出現したようです」

「物騒だな」

「クロス様が言いますか?」


 そのバケモノ(・・・・)にも神殿にも興味はない。神殿領への転移門が閉じていたことへの説明がついて、少しすっきりしたくらいだ。

 ついでに、それほどの魔法が使用されたということは、神殿領はもう機能していないだろう。魔の火山への道のりが楽になったと喜ぶべきか。


「神殿か……」


 アスワドだけが表情を変えていた。

 ユキカリアを占領したあと、アスワドは嫌に大人しかった。クロスに指示されても、素直に従っている。

 神殿の討伐隊に育ったダークエルフの里を襲われたのが、彼女の復讐動機だ。神殿に関する情報には興味があるらしい。


「神殿の連中は儂が殺す……人間など、皆死ねば良い」


 紅い瞳に決意を宿して言い捨てると、アスワドはクロスに背を向けた。

 魔の火山を目指して、クロスたちは再び馬旅することになった。

 聖女の力で転移門は再び使えるようになったが、火山に一番近い大神殿へは通じていない。他の街を潰しても良いが、今は無駄足だ。結果的に、馬での移動が一番早いという結論だった。


 大量に作ったアンデッドは半分に分けている。ユキカリアに残す部隊と、進軍させる部隊。

 管理は戦の際に即席で作った死霊(リッチ)のルルとララに任せていた。転移門が開いたことで、先に置いてきてしまった王都のアンデッドもいくらか合流させることが出来たのが有り難い。


「ご主人様ぁ。アンデッドたちの進路はいかが致しましょうかぁ? このままで、大丈夫ですかぁ?」


 イスファナが豊満な胸を押しつけながら、クロスの腕に絡みついた。


「ああ、指示した通りでいい。このまま、俺たちの後を追わせろ」

「了解しましたぁ。あ、イスファナの歌って踊るコンサートは、いつにしますかぁ? 新曲の練習もしたんですよぉ。キャピキャピっと、可愛く歌っちゃいまっす!」


 イスファナはウィンクして舌をチロリと見せた。そういえば、歌って踊れるアイドル設定も盛っていた気がする。

 そんなイスファナを無視して、リリィシアが前に出た。どうしても、イスファナの設定が気に入らないらしい。


「流石はクロス様ですわ。良い采配だと思います。まだ連合軍は解散していませんからね。進路の邪魔をさせないために、アンデッドをぶつけるのですわね」

「ご主人様ぁ。そんなことより、イスファナの新曲を聞いてくださいっ! 衣装も作ったんですよぉ! 見てください、ほらほら!」

「流石にお前らうるさいんだけど」


 呆れて言うと、イスファナがシュンと頭を下げる。リリィシアは相変わらずの表情だが、イスファナが黙ったことで機嫌が良さそうだ。


 地味にイスファナがコスチュームチェンジしている。

 以前のローブよりも露出が多くて際どいものだった。というか、胸部がほとんど隠れていない。揺らせば、谷間が御開帳してしまいそうな衣装だった。


「お望みなら、脱ぎますよぅ? イスファナ、一番好きなのは人を殺すことですけどぉ、やっぱり、ご主人様に喜んでもらうのが一番ですからぁ!」

「それはダメだ。けしからんから、ダメだ。お父さんが絶対に許しません!」


 本当に脱いでしまいそうな勢いのイスファナを全力で止めた。

 イスファナはクロスが作った初めての死霊だ。自分の娘のようなものである。娘にAV出演させるような真似など、出来るはずがない。例え、クロスのためであっても。


「悪趣味だ」


 無口を貫いていたはずのアスワドまで、げんなりした表情で呟いていた。クロスはイスファナを止めているのに、物凄く誤解されている気がするのは、何故だ。


「あら、クロス様」


 なにかを感じ取ったらしく、リリィシアが表情を変える。

 風の精霊から情報を受け取ったのだろう。


「こちらに、なにか近づいてきます」

「……お前の兄じゃないのか」

「いいえ、存じ上げない方です」


 ほどなくして、馬の蹄が聞こえてきた。

 休憩のため、街道から外れたところで一息ついている。こんなところを目指して平原を突っ切るなど、あまりないことだ。


 やがて、一頭の馬が見える。

 クロスたちを目指しているのは明白だ。


「【雷矢(スパーク)】」


 クロスは面倒くさくて魔法を放った。

 しかし、魔法による矢の攻撃はあっさりとかわされてしまう。馬の足元を狙ったはずだが、乗り手の技量が優れているようだ。


「あれは」


 アスワドが目を細めた。ダークエルフは目が良い。乗り手の様子に気づいたらしい。


「人間では、ありませんわね」


 近づいてくる影を見て、リリィシアが声を漏らした。

 漆黒の馬に乗っているのは、漆黒の甲冑に身を包んだ騎士。

 フルメイルの甲冑から、騎士の顔は見えない。しかし、精霊たちの動きから、あれが人間ではないとわかる。


「魔族」


 クロスは立ちあがり、騎士の方へと歩く。

 騎士の方もクロスに近づくと、馬の速度を落とし、止まった。


「汝に問う」


 フルメイルの騎士が口を開いた。男とも女とも表現出来ない正体のわからない声である。

 クロスは騎士を見上げて、睨んだ。


「汝は我らが領域を侵す者か」

「火山を目指しているという意味では、そうかもな」


 挑発的な笑みを浮かべてやった。

 この騎士は魔の火山から降りてきたのだろう。神殿領が混乱している状態なので、魔族一人くらいなら誤魔化せたようだ。


「人間風情が、何故(なにゆえ)

「俺が魔王になってやろうと思ってな」

「魔王、だと?」


 騎士の表情は見えないが、声から怪訝そうにしているのがわかる。


「そうだ、魔王だ。俺は人間たちを殺すために、この世界に舞い戻った」


 クロスは軽く笑って腕を組んだ。


「いい加減、芝居は辞めないか。デュラハン。お前なら、俺が魔王に値することくらい知っているだろう? 前魔王の配下、四天王の生き残りさん」


 正体を言い当てられて、騎士が動きを止める。

 だが、騎士はすぐに馬の手綱から手を離した。そして、自らの首に手を添える。


「だからこそ、問いに来たのだ。魔王殺しの勇者よ」


 フルメイルの甲冑が首ごと外れた。

 自分の首を脇に抱えた漆黒の騎士デュラハンが改めて問う。

 

 

 

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