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27 蹂躙

 

 

 

 王都には神殿がない。

 それは表向きには国境関係なく人々を平等に保護するという神殿の方針故である。


 真意は国家並み勢力となり、発言力の大きい神殿を王都の中に置くわけにはいかなかったというところが正しいだろう。


 けれども、王都にも神殿を必要とする信徒はいる。

 王都から半日ほど歩いた距離に、転移門を備える神殿が存在しているのだ。


「まさか、あの下品な死霊(リッチ)が本当に神殿を落とせるとは思っていませんでしたわ。やはり、アンデッドの軍勢が三十万では流石の神殿もお手上げだったのでしょう」


 三十万と言えば、カルディナ王国の総兵力にも匹敵する数だ。そんな数のアンデッドが押し寄せれば降伏するほかない。

 もっとも、そのアンデッドはカルディナ王都の市民から作られたものだが。


「降伏なんてぇ、許しませんよぉ。きっちりと、イスファナが両断して喰種(グール)に食らわせておきましたぁ。ご主人様ぁ! 褒めてくださぁい!」


 イスファナは返り血を浴びた身体を震わせて悶絶した。舌舐めずりすると、涎が口の周りを汚していく。


「神殿も大したことないな」


 百年前の冒険者ギルドのような性質を担っていたので、リリィシアは警戒していたが、イスファナだけでも呆気なく落ちた。


「流石ですわ、クロス様」


 清々しさに磨きのかかった笑みで両手を叩いている。


 転移門を潜ることが出来るのは、一度にせいぜい十人までだ。いくら何十万もアンデッドがいようと、少しずつ出てきては集中砲火に遭ってしまうだろう。これはリリィシアも指摘していた。

 だから、イスファナたちが門を潜るタイミングを見計らって、クロスが神殿内部で騒ぎを起こしてやったのだ。そうすることで人員を割き、内部からも押し切ることが出来た。


「王都を出る前に転移門を使うことを思いついていれば、よかったですね」


 サラッと指摘めいたことを言われて、クロスは眉間にしわを寄せた。

 あのときはアッカディア兵が王都に迫っていて……アッカディア兵を王都で迎え撃ってから、転移門を奪えば良かったのだ。そうすれば、直接、魔の火山の近くに位置する神殿領へ移動出来た。同時襲撃なんて手の混んだことをする必要もなく、クロスが単騎で乗り込んで事足りただろう。


「だいたい、神殿が火山の麓に領地を持っているとか、聖女の街とか、後から知ったからな」

「あら、そうでしたか? 申し訳ありません」


 申し訳程度の謝罪をして、リリィシアは自分の杖を剣に変えて武装した。


「くそっ!? 間に合わんぞ!」


 徐々に増えていくアンデッドに神殿の人間もお手上げのようだ。

 ユキカリアの神殿は先日討伐隊を派遣したばかりで、精鋭が抜けた状態らしい。その辺りの日程も把握した上での奇襲である。


「あ、あ、あ、あああなたは!?」


 神官の一人がリリィシアに気づいた。頭がおかしいが、一応は姫様だ。それなりに顔が知られているのだろう。


「あら、なにかしら?」


 リリィシアは光魔法の刻まれた剣を振りながら振り返る。刃の直撃を受けた神官は腸を裂かれ、血飛沫と共に内臓を露出させた。


「くそ、持たないぞ!?」

「おい、誰か……あれを!」


 数が圧倒的に違う。溢れ出るアンデッドたちに成す術がないようだ。


 何人かの神官が神殿の外へと逃げていく。

 神殿の外側にアンデッドが溢れるのも時間の問題だというのに、無駄なことだ。


 そんな人間たちには目もくれず、クロスは神殿の奥へと進んでいく。

 アンデッドで満たされた神殿は、まさに地獄絵図だ。至る所に死体が転がり、やがて、その死体がアンデッドに変わっていく。喰種に噛まれた人間は下級アンデッドとなる。その原理で、どんどん増殖していった。


「ご主人様ぁ、イスファナは頑張りましたよぉん? キャピッ」


 褒めて褒めてと言わんばかりに、イスファナが豊満な胸を擦りつけてくる。

 クロスも年頃なので美女に擦り寄られると動揺しなくもないが、生憎、相手は死霊だ。しかも、自分で設定したキャラクターがモデル。娘みたいな気持ちになって、別の意味で可愛かった。


「ああ、よくやった」


 クロスはイスファナの肩に手を置こうとする。

 けれども、イスファナは見計らったように、絶妙な角度で身をずらした。


「はぁぁぁああんッ。ご主人様ぁあん!」


 見事に胸を触らされて、クロスは表情が消し飛んだ。

 なんか、けしからん。

 けしからん。

 自分の娘みたいな存在の胸を触って、微妙な気分になった。だが、これだけは言える。


「けしからんくらい柔らかい」

「キャッピーーン! 流石はアイドル属性のイスファナですぅ。歌って踊るので、ご主人様ぁ、どうぞもっと触ってくださいませぇ。ご主人様に愛されることは、人を殺す次に喜びでございますぅ」

「お父さんは二番目なのかよ、けしからん!」

「きゃぁあん。ごめんなさいですぅ!」


 なんだこの会話。けしからん。我ながらけしからん。

 後ろでリリィシアが微妙な表情でこちらを見ている気がするが、気にしない。気にしては負けだ。


「あ、ご主人様ぁ。こっちからぁ、良い匂いがしますぅ! イスファナのキャピキャピアンテナですぅ!」


 イスファナがクロスの手を引いて、神殿の奥へ続く扉を指差した。


「【道を開け 疾風の一刃(ブレイブバード)】」


 面倒なので、間に湧いたアンデッドごと扉を吹き飛ばした。

 安置されていたのは、白く磨き抜かれた一本の遺骨。

 長さから察するに、大腿骨だろうか。結界に守られて、眠るように安置されている。


「ユッカ」


 この街の由来であり、神殿に祭られた聖女。

 クロスと共に世界から裏切られ、死んでいった仲間の一人。


「ごめんな」


 こんな風になってしまうとは、思っていなかった。

 クロスとストリェラが埋めた遺体が掘り起こされ、こうして今目の前にある。

 クロスは結界に触れて、魔力の圧力をかけてやった。保存が目的だったのだろう。結界はすぐに砕けて消えた。


「迎えに来たぞ、ユッカ」


 安置されていた骨に触れて、クロスは優しい笑みを描いた。

 


 

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