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22 お留守番リサイタル

 

 

 

『グルル……ガゥッ!』

『ギギ……ギギギィヒ……』

『アバババ……』


 喰種(グール)どもが屍肉(しにく)を食い散らかす様を眺めて、イスファナは頬杖をついていた。


「酷いですぅ。ご主人様ぁ……イスファナもお出掛けしたかったですぅ。もっと、もっと……もぉっと、新鮮な人間をたくさん殺したいですぅ。ぐすんぐすん」


 紫の眼にうるうると涙を溜めて、大振りの鎌を抱きしめる。

 元々、クロスは魔の火山へ行く予定だった。そのつもりで、王都のアンデッドたちを束ねる留守番役としてイスファナを作ったのだ。

 外出中のクロスの帰りを待って、イスファナはため息をつく。


「退屈ですぅ。いいなぁ、ご主人様。今頃、たぁくさん殺していらっしゃるんでしょうねぇ」


 退屈凌ぎに、周辺の村や町に赴いて人を殺しているものの、そんなに成果はない。王都の現状が知れ渡っているようで、金のあるものはさっさと遠くへ逃げてしまっているのだ。

 時々、神殿の討伐隊とかいう連中が侵入しようとするが、今のところは難なく迎撃している。

 人間が作ったこの城壁は越えるのが難しく、イスファナたちにとっても優位に働いていた。


「生首が一個、生首が二個、生首が三個、生首が四個……」


 退屈凌ぎに、転がっている頭蓋骨を大鎌で弄ぶ。すると、周りに蔓延っていた喰種たちが、イスファナのもとに集まってきた。


『ガルルル』

『ガウガウ』

『アビャビャビャ』


「あららぁ、みんなったらぁ。慰めてくれるのねぇ? キャピキャピッ。イスファナちゃん、嬉しいぞッ☆」


 イスファナは喰種たちの意図を察して可愛らしくウインクした。

 主人であるクロスが、とびっきり色っぽく、そしてとびっきり可愛く設定してくれたのだ。見せない手はない。


 クロスが作り出した喰種たちは、焦点の定まらない表情でパチパチと拍手をしてくれる。


「よぉしっ! みんなぁー! ちゅうもぉぉおおく!」


 イスファナは気分を良くして、喰種を呼び集める。そして、足元に転がっていた比較的新鮮な死体の手をもぎ取った。


「キャッピーン! これでもぉ、イスファナちゃんは歌って踊れるアイドルという設定なのでーっす! 今日はぁ、みんなのために歌っちゃいますぅ!」


 イスファナは死体の腕をマイク代わりに掴んで、華麗にその場で一回転してみせる。

 喰種たちが盛り上がって、低く淀んだ歓声をあげてくれた。


「うふふぅ。ご主人様に作ってもらったイスファナはぁ、最高なのでぇす。いっぱい歌って練習して、ご主人様にも褒めてもらうのですぅ。キャピキャピなのですぅ」


 喰種たちを相手にコンサートを開きながら、イスファナは自分を溺愛してくれる主人の姿を妄想した。ついでに、ご褒美として百人ほど狩りとる許可も貰えたらいいなぁ。


 そんなことを考えていると、ついつい涎が垂れてきた。




 † † † † † † †




「なんだか、寒気がしますわ。どこかで、おぞましい儀式でも執り行われているのでしょうか?」


 リリィシアが笑顔のまま身震いしていた。

 クロスは別段気にせずに、地味な外套を羽織る。とりあえず、村で奪った食料などは空間魔法で収納しておいた。


「魔の火山へ行くには、アッカディアと神殿領を通る必要がありますわ」


 先ほど地図を広げて話していたことを、リリィシアが再び確認する。


「しかし、神殿が領土を持つなんてな」


 百年前の世界では、神殿が独自の領土を持ってなどいなかった。


「火山へ向かう魔族を狩りとるためと、火山から降りる魔族を防ぐためだ。今では、魔族・魔物狩りは神殿がほとんど請け負っておるからな」


 アスワドが憎々しげに吐き捨てた。


「なるほどな。魔族狩りの名目で自分たちの領土を持つようになったのか」

「流石はクロス様、聡明ですわ。今では神殿領は強大な権力を持つ国家となっております。魔物討伐の名目で、魔法使い(ウィザード)剣士(ソードマスター)などの優秀な戦闘要員を集めています。そして、各地に建てられた神殿を経て、討伐隊を派遣することで力を拡大しているのです。政にもなにかと口を挟むので、王家の人間としては、あまり良い気分ではありませんね」


 つまり、クロスが以前に召喚された時代の冒険者ギルドの役割も持っているのだろう。恐らく、魔物と戦える者は神殿で管理されて討伐隊の仕事が与えられるのだ。

 以前の世界では聖騎士(クルセイダー)神官(プリースト)など光魔法使いが多く属していたが、今は一括管理しているようだ。


 管理形態が変わっているだけで、大きな変化はないことに、クロスは納得した。

 魔物自体が衰退している世界だ。各地にギルドが存在しているよりも、権力を持つ団体が一括管理した方が効率もいい。


「ふんっ、脆弱な人間どもが」


 いつものアスワドは、あまりクロスたちの会話に興味を示さない。基本的に黙っていることが多いが、神殿の話になると、やや喋る回数が多くなる。

 彼女が住んでいた里が神殿の討伐隊によって滅ぼされたからだろう。


「神殿の連中など、儂が皆殺しにしてくれる」


 その表情は、昨夜、アッカディア兵を何度も刺して殺したときのものと同じだった。好戦的で獰猛な野生動物のそれ。


「俺はお前が役目を果たせば、誰を殺したって文句は言わないよ。俺も神殿の連中は嫌いなんでね」


 神殿は逃げるクロスたちを裏切って騙し討ちにした。あのときのことを思い出しながら、クロスはほくそ笑む。

 王都から乗ってきていた馬に跨った。


「しっかり頼むぞ、黒き疾風の申し子(・・・・・・・・)


 即席の愛馬につけた名前を呼んでやる。


「クロス様」


 自分の馬に跨りながら、リリィシアがニッコリ笑った。


「大変、斬新なお名前をつけられるのですわね」


 アスワドが首を傾げた。


「え? なんだ、さっきのはその馬の名前だったのか? 儂はてっきり、いつもの無駄に長たらしくて恥ずかしい魔法の詠唱のようなものだと思っていたぞ? クロスは時々、妙なことを言うからな」


「…………」


 クロスは赤くなった顔を隠すように、黙って馬の腹を蹴った。

 

 

 

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