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11 イスファナ

 

 

 

「ご主人様ぁ! そのようなお言葉をぉ頂けるなんてぇ、イスファナは幸せにございますぅ! もう……キャピキャピって、しちゃいますぅ!」


 妙に甘ったるい声で身体をクネらせている女の声。

 クロスは足を組みかえて、玉座の前にかしずくソレ(・・)を満足げに見下ろす。


 リリィシアは相変わらずニコニコとしているが、アスワドは露骨に顔をしかめていた。


「無理やり第六階級の死霊(リッチ)など作るから、こうなるのだ」

「いえいえ、クロス様は素晴らしいですわ。控えめに言って、少しばかり……少し、いえ、とても不憫なアンデッドですけれど。基本的には成功ですわ。中身以外は」


 非難の呟きが聞こえてくるので、クロスは思わず二人を振り返る。だが、表情を隠すように咳払いした。


 想像していた反応と違う気がする。


 第四階級以下のアンデッド生産は安定して出来るようになった。肉まんに仕込んだ遠隔の魔法陣から喰種(グール)を作るくらいなら造作もない。

 だが、所詮は喰種。知能はあるが、高度な命令を聞くことは出来ない。それに、術者であるクロス以外にアンデッドを統括する存在が欲しかった。


 人体の構造はだいたい把握していたし、魔力も充分にある。下級アンデッド生産の実験で闇魔法の錬度もなかなか向上したので、ここは数体の上級アンデッドを作っておいても良いと思ったのだ。


 玉座の前に膝を折っているのは、クロスが造った死霊だ。喰種たちを統括することが出来る第六階級のアンデッドである。

 名前はイスファナ。

 奴隷小屋にいた魔法使い(ウィザード)を素材に使った。


 黒いローブを纏った顔は生前と同じく整っており、艶めかしい大人の女性である。

 カボチャ色の髪と紫の眼。右手に死神のような大鎌を持っており、いかにも死霊という風貌だ。

 左手は白骨となっている。ローブをめくると、身体の数か所から白骨が見えている状態であった。


「ご主人様ぁ、なんなりと……なんなりとお申し付けくださいましッ! ご主人様の命令こそ、イスファナの歓び! 今度は何人殺しましょうかぁ! いいえ、殺しても良いですかぁ!? いえいえ、殺させてくださいましッ! 早く! 早くご命令をッ!」


 餌を求める野獣のように狂った視線を向けているイスファナを見て、アスワドが露骨に嫌そうな顔をした。リリィシアはいつも以上に満面の笑みを浮かべているが、目が真顔だった。


「命令を求める振りをして、自分の欲求を前面に出しているではないか。なんだこの気持ちの悪い死霊は……」

「……いえいえ、素晴らしいですわ。きっと、予行練習ですわよ。そろそろ、本番に移りましょう」

「生前の性格が関係しているのかもしれんな。流石に、こんな悪趣味なアンデッドなど好き好んで作らぬだろうよ」

「あら、だったら、尚のこと作り直しましょう。クロス様。とても素晴らしいのですが、控えめに言って……とても苛立ちますわ」

「気色が悪い」

「珍しく意見が合いますわね」


 玉座の左右に立った王女とダークエルフは、そんなことを言ってイスファナを見下している。


「うそだろ……?」


 クロスは腕を組み、唇を引き結ぶ。


 これが自分の趣味で造った産物であるとは、口が裂けてもいけない状況だ。


 何故だ。どうして、こんな風に言われなければならないのか。表情に出さずに思案する。

 イスファナはクロスが元居た世界で中学の頃にプレイしていたMMORPGのキャラクターを参考にしているのだ。というか、クロスがカスタマイズして作ったオリジナルのNPCキャラだ。


 死霊と言えば、このビジュアルしか思いつかなかった。

 作るときに「人を殺すのが好き」という設定を付け加えたとはいえ、中身もあまり変えていない。

 実際に目の前で身体を与えられて動く様を見ると、少しばかり大袈裟だと感じるものの、お気に入りキャラを貶されると傷ついた。


 当時プレイしていたゲーム仲間からも好評だったのに。「流石はカイト君のセンスですね! リアル中学生の厨二センスだ!」「う、うん。個性的です。真似出来ませんね!」「ほんとww 最ッ高ッす、カイトさんww こういうセンスは私らには、真似出来ませんわーwwwwwww」みたいな、温かいコメントと拍手喝さいだった。

 異世界人は趣味が悪い。見る目がないのだ。そうに違いない。


「クロス様、黙ってしまってどうしましたか?」

「……いや、なんでもない」


 クロスは片手で顔を隠す。

 表情に出ているとは思えないが、念のためだ。

 自信作だと言うのに、あんまりだ。


「キャピピーンッ! クロス様、クロス様ぁぁああ! 来ました! 来ましたぁぁああん!」

「うるさいから、今は静かにしてくれッ!」


 このタイミングでイスファナに興奮して騒がれると、こちらまで恥ずかしくなってくる。

 クロスの制止にイスファナは素直に「はぁい」と頭を垂れた。


「城内に侵入する人間(エサ)を喰種どもが見つけましたぁ。イスファナも行って殲滅したいのですが、ご許可を頂けますかぁ?」


 イスファナは頬を上気させ恍惚の表情で言った。口の端から涎でも垂れている。

 それを見るアスワドとリリィシアの表情が死んでいた。二人の反応を見て、クロスも表情を押し殺した。


「アンデッドの徘徊する王都を抜けて、ここまで侵入してきたのか?」


 街は第四階級以下のアンデッドで溢れている。

 城を制圧したときの感覚では、ここまで辿りつける人間など、そうそういないように思われたが……。


「神殿の討伐隊か、あるいは、的確な抜け道を知っている者でしょうね」


 リリィシアがアッサリと断言した。まるで、こうなることを想定していた口ぶりだ。

 彼女は持っていた杖で床を叩く。すると、魔法陣が展開されて、ドレス姿から武装へと変じる。


「オルフェウスお兄様かと」

「第一王子か」

「はい。国境での戦に出ておりました。きっと、引き返したのでしょう」

「引き返した?」


 王都から外部へ連絡する手段は魔法で断ってある。

 そろそろ王都に入れなくなった商人や旅人が騒ぎに気づく頃合いかもしれない。

 だが、国境にいるはずの人間に報せが届くには少し早い。移動時間も考慮すると、王城を占拠した時点で風魔法を使用するほかなかった。


 クロスは横目でリリィシアを睨んだ。

 一方のリリィシアは表情を崩さず、前に出る。


「わたくしも行ってきますわ、クロス様。そこの下品な死霊では心許ないので」

「下品とは失礼しちゃいますぅ。イスファナは、ちゃぁんとご主人様が設定した通りに――」

「俺も行くから、黙ってろ。むしろ、黙っててくれ」


 クロスは立ち上がって話を区切る。


 アスワドは来ないようだ。

 彼女はクロスに敵対する意思はないが、まだ様子を見ていると言ったところか。命じれば素直に応じるが、主体的に貢献することはない。

 アスワドの役割は他にあるので、クロスはなにも言わないことにしている。


「イスファナ、敵の人数は?」

「意外と少数ですね。二十人程度と、喰種たちは言っております。殺せる殺せるぅッ。もう興奮しちゃいますぅ。キャッピキャピッ!」


 アンデッドの統括であるイスファナにはテレパシー能力がある。喰種たちからの報告を述べて、指を一本ずつ舐めはじめた。


「クロス様。お兄様はカルディナでは最強を誇る戦士ですわ。一応、ご注意を」

「問題ない」


 この国の騎士たちの実力は見たが、雑魚ばかりだ。

 流石にリリィシアはなかなかの魔力があり、剣の腕も申し分ない。鍛えれば第六階級の魔法も使えるようになりそうだ。

 ナターシアはクロスを召喚した段階で消耗していたので楽に殺せたが、今度は条件が違う。


「少しは手応えがあればいいんだけどな」


 リリィシアとイスファナを伴って、クロスはゆっくりと歩み出す。

 

 

 

 自分の本名をHNに設定する系男子。

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