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センス・オブ・スカーレット  作者: 一夢 翔
第一章 魔導軍事学校
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第五話 回想

 夕食を済ませた三人は男子と女子で寮が分けられているため、シエルとは途中で別れて、フィールカとレオンは自分たちの部屋に戻ることにした。


 男子寮の赤い石造りの階段を上りながら、レオンがうっとりとした顔で呟く。



「はあ……やっぱシエルちゃんはいつ見ても可愛いよな……」



 独りごちる金髪の青年に、傍らのフィールカは呆れた顔で言う。



「お前は女子に対して誰にでもそういうこと言うよな……」


「だってよ、この学校にいる女の子、みんな可愛い子ばっかだぜ? 特にシエルちゃんみたいな子と話せた日にゃあ……。まさかフィールカ、俺に嫉妬とかしちゃってる?」



 そう言ってレオンは、青年の首に腕を巻きながら意地悪な顔でいてくる。



「なあ、フィールカは好きな子とかいないのか?」


「いないって」


「まーたまたー、そうやってごまかそうとするんだからよー」


「ホントにいないって」


「その割には、シエルちゃんの前では相変わらず緊張してるよなー」


「……お前はいったい俺に何を言わせたいんだ」



 露骨に不機嫌な顔でレオンを睨むと、うんざりしたように先に階段を上っていく。


 しかし、金髪の青年はそんなことを全く気にした様子もなくさらりと言った。



「シエルちゃんのこと、好きなんだろ?」


「…………」



 不意にフィールカがぴたりと立ち止まる。後ろを振り返り、改まった態度で言い返した。



「レオン、俺たちは卒業したら反乱軍の兵士になるんだぞ? 恋愛感情を抱いてる余裕はないんだ」


「でもよ、そしたらシエルちゃんにこれから会えないかもしれないんだぜ?」



 いつにも増してレオンが真剣な口調で言う。しかし、フィールカはすぐに首を縦に振る。



「いいんだよ、別に。俺たちの職業は、いつ死んでもおかしくないんだ。そんな常に相手のことが気になるような感情を戦場に持ち込んでたら、それこそ足をすくわれるだろう? 俺のことなら心配ないから、もう放っといてくれ」


「まあ、お前がそう言うならいいんだけどさ……」



 金髪の青年は残念そうに肩をすくめる。


 フィールカは再び階段を上りながら、二年前のことを思い出す。


 青年が初めてシエルの存在を知ったのは、魔導軍事学校に入学して間もない職業選択授業のときだった。今年の新入生たちが訓練場に集い、自分たちに最も適した職業を見出だす、というのが今回の授業内容だった。


 集まった生徒たちのうちの九割が男子で女子がほとんどおらず、普通の共学校のような華やかさは微塵もなかった。ただでさえ女子生徒は少なくて目立たないというのに、その少女は、どの生徒よりも一際存在感があった。


 人目を惹く赤いツインテールに誰よりも端整な顔立ちをしており、夕陽のように輝く真紅の瞳。背丈は女子生徒たちの中では低めの方だが、細身で均整の取れた身体をしていた。


 しかし何より印象に残ったのは、少女からかすかにあふれ出た、どこか寂しい雰囲気だった。



 シエル=スカーレット。それが、フィールカが初めて見た彼女の印象だった。



 こんな可憐かれん華奢きゃしゃな少女が男ばかりの戦場で戦うのか、と当時の自分は唖然としていた。



 ところがある日、そんなちっぽけな先入観は一瞬にして打ち砕かれた。



 剣術の練習をしようと思ったフィールカは放課後、校内にある室内訓練場を訪れることにした。普段なら授業だけですっかり疲れて自主練習など全くする気が起きないのだが、今日は珍しく元気が有り余っていたのだ。


 校舎の隣に併設された訓練場の建物前に着くとてっきり誰もいないと思っていたのだが、中から人の気配がする。どうやら先客がいるらしい。まったく、放課後も飽きずに練習してるなんて、一体どんだけ真面目な奴なんだよ……と思いながらフィールカは訓練場に入ると、入口の前で思わず足を止めた。


 広々とした場内の中央に、黒い軍服姿の一人の生徒がぽつりとたたずんでいる。職業選択の授業のときに見た、あの印象が強かった、赤髪のツインテールの少女だ。ちょうど自主練習の最中だったらしく、すでに顔にはびっしょりと汗を掻いていた。


 すると、少女は身体から赤い光をほのかに放出させると、それを全身にまとい始める。


 とても恐ろしい才能だ。入学してまだ一ヶ月も経っていないのにもかかわらず、すでに魔力センスのコントロールが出来ている。普通なら魔力を解放させるだけでも相当の苦労を強いられるはずなのに、彼女はさらに一段上の練習をしているのだ。


 そして何よりも、ひたすら練習に励んでいる彼女の姿はとても美しかった。



 例えるなら、まるで天から突如舞い降りた純赤の天使――。



 フィールカはただただその姿に見とれてしまい、放心したように立ち尽していた。少女は魔力を解くと、魔法で出現させたタオルで顔の汗を拭く。



『ふう……』


『――ずいぶん練習熱心だな』



 フィールカが横合いから声をかける。少女はこちらをひと睨みすると、いきなり刺々しい口調で言った。



『誰よ、あんた』


『俺はフィールカ=ラグナリア。二年後にこの学校をトップで卒業するから、今のうちに覚えておくといいぜ』



 とても初対面の相手に言うような台詞セリフではなかったが、少女は意に介した様子もなく強気に言い返した。



『ふーん……それじゃ一応、私のライバルってことになるわね。見たところ剣術科の生徒みたいだけど、魔力は使えるのかしら? この学校を卒業するための必須条件よ』


『うっ……その……今はできないけど、これからできるようにするつもりだ』


『何よそれ、大口叩いておいて。まるで話にならないわ』



 冷やかにそう言い残して、少女はすたすたと訓練場から出て行った。



『冷たい奴だな……』



 フィールカは溜め息混じりに呟くと、一人黙々と練習を開始した。




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