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センス・オブ・スカーレット  作者: 一夢 翔
第一章 魔導軍事学校
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第四話 食堂2

「それで、話ってなんだ?」



 木製のさじでシチューをすくいながら、フィールカは長テーブルを挟んで目の前に座っている赤髪の少女にたずねる。


 シエルはシチューの皿の縁にスプーンを置くと、早速話を切り出した。



「明日の卒業試験、私たち三人とも一緒の班でしょ? だから今日のうちに色々話しておこうと思ったの」


「……卒業試験? あああああああっ!!」



 今頃思い出したようにフィールカは叫んで隣に座っているレオンの方を見るが、彼も当然と言わんばかりに忘れていた顔で肩をすくめる。


 予想通りの二人の反応に、シエルはすっかり呆れたように嘆息する。



「はあ……やっぱり忘れてたのね……。寮の掲示板に貼り出されてる紙、見てないの? 私たち三人のB班は明日の午前十時、学校の北西にある洞窟前に集合よ」


「すっかり忘れてたな……」


「全くだぜ……」



 フィールカとレオンが何気なく呟くと、シエルは子供を叱るような口調で言った。



「もう。そんなに緊張感なくて大丈夫なの? いくら私たちが成績上位者でも、明日の試験に落ちたらまた一年かけて授業を受け直さないといけないんだからね」


「……そりゃごめんだな。ていうか俺たちって、シエルと一緒の班なんだな」


「そうだけど……何か不満でも?」



 少女は露骨に顔をしかめて、フィールカをむっと睨み上げる。すぐに青年は慌てて首を振りながら否定する。



「いやいや、むしろ頼りにしてるぐらいだよ。シエルのほうこそ、こんな大事な試験なのに俺たちと一緒なんかでいいのか?」


「まあ、あんたたちと一緒なら、なんだかんだで心強いしね。心配なところも多いけど」



 強調して付け足された後半の言葉にフィールカとレオンは不満な顔をするが、残念ながらそう言われても仕方がないと思った。


 なぜなら、この男二人組が訓練で一緒に行動することになると、必ず問題を引き起こす最悪コンビだからだ。壁外訓練中に教官の目を盗んで勝手に森に入ったり、帰校時間になっても戻ってこなかったりなど、数え始めれば切りがない。


 そんな身勝手な二人を連れて明日はもっとも重要な試験を受けるのだから、心配にならないはずがないのだが。



「それで、今年の卒業試験の内容はどんな感じなんだ?」



 フィールカは気になった様子で訊くと、シエルは首をひねりながら考える。



「うーん……詳細には書かれてなかったけど、当然洞窟は街の外にあるから魔物には充分気をつけないとね」



 しかし彼女にそう言われても、青年は余裕のある口調で答えた。



「まあこの周辺の魔物は問題ないけど、北西の洞窟は立ち入り禁止で一度も入ったことがないからなあ……」


「……まるで、それ以外の場所は行ったことがあるような口振りね」



 全てを見透かしているように追及されて、フィールカは内心でびくっとする。顔を強張らせながら、ごまかすようにすぐに話題を変えた。



「そ、そういえばさ、最近この近くで竜を見たっていううわさが校内で流れてるんだけど、二人とも知ってるか?」


「……竜?」



 シエルは胡乱うろんげな表情で呟く。すると、ずっと無言で夕飯を食べていたレオンがそれにうなずく。



「ああ、それなら俺も知ってるぜ。友人の知り合いが、北西の山岳の上空に竜が飛んでいるのを何度か目撃してるらしい」



 しかしその不確かな情報に、シエルはすぐに疑問をていする。



「鳥か何かと間違えたんじゃないの? こんな人気ひとけのある土地に竜がんでるなんて聞いたこともないわよ」



 思わず呆れた顔で厳しく指摘する。


 確かに世界の辺境に竜というのは存在するが、それはあくまで限られたごく一部の地域のみだ。灼熱の火山地帯、極寒の永久凍土、時化しけの岩礁海域、雷雨の暗黒沼地――そんな世界の果ての厳しい環境下に竜は生息する。


 詰まるところ、こんな何も無い平凡な土地に竜がいること自体まずおかしいのだ。真っ先に彼女が疑うのはもっともなことだった。



「確かにそうだな。でも仮にこの噂が本当だとしたら、ここはかなりやばいんじゃないか……?」


 

 レオンが不安げな口調で呟く。


 魔導軍事学校があるこの第二学園都市リースベルから竜が目撃された山岳は目と鼻の先だ。もし、今みたいな無防備の状態の街に竜が奇襲でもしてきたら、大惨事はまずまぬがれないだろう。


 いま考えられる最悪な事態を想像して、レオンとシエルは重苦しい空気に包まれる。


 すると、先に夕飯を食べ終えたフィールカが気楽な口調で言った。



「ふう、ごちそうさま。まあこの件は先生たちも知ってるだろうし、とりあえず今は学校側に任せとこうぜ」



 彼がすっかり平らげて空っぽになった食器を一瞥いちべつして、シエルはこくりと頷く。



「そうね。私たちがこれ以上考えても仕方ないことだし、今日はもう卒業試験に備えましょ。明日の朝九時三十分、校門前に集合ね。二人とも、絶対寝坊しないように」



 教師のように言われて、はーい、と男二人組は気の抜けた返事をする。


 それから三人はいこいのひとときを満喫してから、足早に食堂を後にした。




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