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センス・オブ・スカーレット  作者: 一夢 翔
プロローグ
2/36

世界は語る

 人と魔物が混沌とした世界――。


 世界は、巨大勢力である二つの深い闇によってむしばまれていた。



 《魔物》と《皇国軍》。



 その言葉を聞いただけで、人々は一瞬にして身体の底から震え上がるだろう。


 魔物。俗にそう呼ばれるみにくい生物は、人が生まれる前から世界に存在すると言われており、一度獲物を見つければ誰であろうと無差別に襲いかかってくる。


 そのため人々は、己の身を守るために街や村の周囲に堅牢けんろうな防壁を築き上げ、その中に閉じこもって静かに暮らしていた。そんな凶暴な化け物たちがいるからこそ、人々は協力して平和と秩序を守っていかなければならなかった。


 しかしその馬鹿げた理想は、現実とは遥かに遠くかけ離れた、ただの幻想に過ぎなかった。



 《皇国エンシェリア》――たったその一つの国が、世界の調和を乱していた。



 皇国の女帝であるエフィリアは、皇国軍――通称《ヴァルキュリア》と呼ばれる世界最強の殺戮さつりく軍隊を行使し、これまで平穏に暮らしていた民から何もかもをむさぼり、街や村を焼き払い、そして全てを蹂躙じゅうりんしていた。


 それが、奴らが昔から長きにわたり繰り返してきた、最低最悪の所業だった。いつ殺されるかも判らない不安と恐怖に怯えながら、人々はそんな息苦しい生活を日々送っていた。



 だが、そんな世界の闇にも、勇敢に立ち向かおうとする一筋の光明があった。



 皇国軍や魔物などの敵対勢力に対抗するため特別に創られた組織、《反乱軍》である。別名、魔導傭兵精鋭部隊――通称《ソルジャーリベリオン》。彼らが軍を発足ほっそくしてから約二十年、徐々に戦闘員を増やし続け、今や奴らに対抗できるだけの勢力となりつつあった。


 そんなある日のことだった。大陸の辺境の街に置かれた反乱軍本部に、一つの朗報が届いた。



 それは――これまで皇国の政権を握っていた女帝エフィリアが、不治の病のため死んだというとても信じがたいしらせだった。



 これにはさすがの反乱軍上層部も、すぐには信じることができなかった。しかし、この情報が事実であることを皇国の情勢変化から裏付けると、すぐにそれを世間に公表し、たちまち世界に伝播でんぱしていった。これにより、皇国軍の蛮行にさいなまれていた人々はようやく世界に平和が訪れる、誰もがそう思ったことだろう。



 ――だが、これで全てが終わりではなかった。



 エフィリアには、まだ十才という幼い娘がいたのだ。名はルティシア。


 先代女帝のエフィリアが静かにこの世を去ってから、ルティシアはすぐに新たな皇国の女帝として即位した。エフィリアの遺志を継いだルティシアはそれから数年後、皇国軍という名の殺戮兵器を用いて、再び世界を戦渦に呑み込んでいったのだった。


 しかし、反乱軍側も奴らに一方的にしいたげられたまま、じっと手をこまねいているわけではなかった。ますます勢力が強まるばかりの皇国軍に対抗するべく、反乱軍は、ある学校を一つの大陸に設立した。


 《魔導軍事学校》――そう名づけられた学校は、個々の兵士の養成のために軍事教練を目的として建てられた教育機関である。



 人類が初めて世界に誕生し、その際に《七英神しちえいしん》と呼ばれる七柱の神々が人間に与えた呪われし魔力――《センス》。



 魔力は産まれた子に必ず宿ると言われており、努力すれば例外なく誰でも引き出せるというものだった。魔導軍事学校は、その忌まわしき力を人から引き出し、行使できるようにするための場所であった。


 そして、その魔導軍事学校を卒業するまで残り一週間と迫った、ある生徒たちがいた。



 彼らの意志はただ一つ、皇国軍をこの手で必ずたおすこと。



 これまで二年間、幾度となく厳しい訓練に耐え忍び、そんな彼らの過酷な日々もついに終わりを迎えようとしていた。




 夕焼け色に染められた大空、西に沈みゆく琥珀こはく色の太陽。


 


 生徒たちは、今日も訓練に明け暮れている――。




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