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センス・オブ・スカーレット  作者: 一夢 翔
第一章 魔導軍事学校
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第十四話 告白

 シエルは休憩ついでに、二人と一緒に中庭の隅にもうけられたベンチで話すことにした。


 木製ベンチの真ん中に少女が腰掛けると、彼女を挟むようにしてフィールカとレオンも両隣に座る。三日ぶりの再会だが、卒業試験の日と比べて雰囲気は相当気まずいものになっていた。


 それでもシエルは、二人に笑顔を見せて元気よく言った。



「二人とも、体調よくなったんだね」



 それに対して、フィールカとレオンも笑顔で応える。



「ああ、おかげさまで」


「このとおり、元気だぜ」



 感謝の言葉を述べると、三人の間にしばしの沈黙が訪れる。幾ばくかの間を置いて、最初に沈黙を破ったのはシエルだった。



「ごめんね………。私、二人のことを傷つけちゃった………。あのとき、もっと早く魔法で炎竜をたおしてたら………」



 今にも泣き出しそうな声で、あのとき自分がしてしまったことを悔いるように言う。



「いつからだったかな………。私が子供の頃、魔法を使えるようになったのは………」



 その話は、ガルドフ先生からフィールカたちにも聞かされていた。普通、魔力を解放できるようになるのは、どんなに早くても十二、三歳からだ。


 しかし、十七歳というシエルの若い年齢から考えても、竜を一撃で斃せるほどの上位魔法が使用できるようになるには、子どもの頃から日常的に魔力を使用していない限り到底有り得ないことだという。


 シエルは話すのも辛そうに言葉を続ける。



「最初はね、誰しもがみんな魔力を使えることが当たり前だと思ってたの………。でもそれは間違ってた………。私の生まれ育った村では、皆この特性を受け入れてくれたけど………村から出たときに初めて気づいたの―――私は、世間からはうとまれた存在なんだって。子どものときから、私が魔力を使えることにみんな怖がってね。そのせいで友達も全然作れなくて………。それで私の存在って、一体なんなんだろうってずっと考えてたら、いつの間にか自分のことまで怖くなっちゃって………」



 フィールカとレオンは慰めの言葉を口にしようとしたが、それはできなかった。


 シエルが生まれ持った天性の才能を、持たない凡人の自分たちが何か言ったところで、それはただの嫌みにしかならないことは充分わかっていたからだ。一体これまで彼女がどれほど辛い人生を歩んできたのか、二人には到底想像などつかなかった。


 それでも少女は、どこか救われたようなかすかな笑みを浮かべる。



「でもね、この学校なら魔力を使うことは当たり前だったし、初めて友達もできてすごく嬉しかったの。ここでできた皆との大切な繋がりを、いつまでも断ち切りたくないって思って………だから………」



 吐き出そうとした言葉が、思わず喉の奥で詰まってしまう。


 魔導軍事学校は普通の学校とは違い、魔力習得が必ず義務づけられているため、一般人が魔力の扱い方を学ぶことはまずないのだ。それゆえ生徒たちがシエルと同様に魔力が扱えるこの学校は、彼女にとって唯一の居場所だったのかもしれない。


 今にも泣き出しそうになるのを懸命にこらえながら、少女は胸中に隠していた心情を吐露する。



「………ホントはあの時、全力を出すことをずっとためらってた。私が上位魔級の竜を一人で斃せるほどの魔法を使えることが皆に知られたら、また友達も離れていっちゃうのかなって考えると………でも……でも………」



 必死に喉から声を振り絞り、最後まで言葉をつむぎ出す。



「離れていってしまうことよりも、居なくなってしまうことのほうがずっと悲しいほど、二人の存在が大切になってたから………。あのまま戦わずに逃げてたら私、もう少しで二人を殺してしまうところだった………」



 その瞬間、ついに抑え切れなくなった堰堤えんていが決壊したように、真紅の瞳から止めどなく涙が溢れ出す。一つ、二つと大粒の涙が少女の頬を伝い、膝の上にいくつも滴る。


 しばらく嗚咽を洩らし続け、数秒の時間が流れたときだった。




「―――でも、シエルは俺たちを助けてくれた」




 突然のフィールカの言葉に、シエルは泣きながら戸惑いの表情を見せる。



「俺たちは今日、シエルに礼を言いに来たんだ」


「で、でも………私は二人のことを………」


「もういいんだ、そんなことは。もしあの時シエルが助けてくれなかったら、今頃俺たちはここにいなかった。だから本当に感謝してるんだ」



 首を振ってそう言うと、フィールカは今の気持ちを素直に伝えた。




「それに、たとえシエルが特別な存在だったとしても―――俺たちはもう友達だ」




 偽りのない眼差しを向ける青年に、シエルは震える声で思わず聞き返す。



「ホントに………? ずっとこのままでいいの………?」


「ああ、もちろんだ」



 ゆっくりと頷き、屈託のない笑顔で答える。



「俺たちいつもシエルちゃんに助けられっぱなしで、本当に感謝してるぜ」



 レオンにもそう言われると、シエルは目尻に溜まった涙を拭う。


 これ以上にない幸せだった。二人が傍に一緒に居てくれているだけで、今までの苦難から救われた気がした。何度も死のうと考えたこともあったけれど、今日まで生きてきて本当に良かったと心の底から初めて思えた。


 自分にとって、掛け替えのない友達がようやくできた。もうずっと離れたくない、だから―――。




「二人ともありがとう、私………」




 声をかすらせながらも、少女はずっと訊きたかったことを彼らに訊いた。




「また二人の傍に居てもいいかな………?」




 そう言われて、フィールカとレオンは顔を見合わせて頷くと、一緒に答えた。




「もちろんだ」


「もちろんだぜ」




 二人の返答に、この日シエルは太陽のような最高の笑顔を見せたのだった。




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