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センス・オブ・スカーレット  作者: 一夢 翔
第一章 魔導軍事学校
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第九話 卒業試験

 入口の小さな穴をくぐって三人は洞窟に入ると、中は真っ暗で先が見えない一本道が続いていた。荒れた茶色の岩肌はかなり歩きづらくなっており、天井の高さや道幅は多少の余裕があるが、周囲は暗いので他人の顔を識別するのがやっとなくらいだ。


 フィールカを先頭に三人は少しずつ洞窟の奥へ進んでいくと、入口を照らしている光が徐々に薄れてくる。



「そろそろ灯りが欲しいところだな」



 フィールカが後ろの少女を期待しているように言う。



「私に任せて」



 その言葉を待っていたかのように、シエルは《魔法術式スペル》を唱え始める。


 すると彼女の掌から、木の枝に枯草の束を巻きつけたものが白煙とともに突然現れる。さらに少女は眼を閉じて術式を素早く詠唱すると、手に持った木の枝の先端に火属性の赤い光がともる。


 これらは術式の中で魔法技―――通称《MS(マジックセンス)》と呼ばれているものだ。行使することができれば魔法詠唱や今のような《記憶保管メモリーストレージ》と呼ばれる空間から、予め保管しておいた道具の出し入れなどもすることができる。


 さらにこれとは別にもう一つ、物理技―――《AS(アタックセンス)》というものがある。ASはMSの魔法技とは対照的に、物理攻撃力を増幅するための魔力だ。剣や槍、盾や鎧などの装備にまとって威力や強度を底上げするだけでなく、肉体自体の活性化にも利用することができる。ちなみにシエルは圧倒的にMSが得意なので、いつも壁外訓練で一緒になったときは彼女に魔法詠唱を担当してもらっているというわけだ。


 松明たいまつの灯りによって互いの顔が判るくらい周囲が明るくなると、レオンが調子よく言う。



「さっすがシエルちゃんだぜ! これなら試験もさくさく合格だな!」


「ふふっ、ありがと。さあ、先を急ぎましょ。それじゃフィールカ、引き続き先頭よろしくね」


「ええっ、俺!?」


「当然でしょ。いちおう班長なんだから」


「うう………わかったよ………」


 

 嫌がりながらもシエルに松明を渡されて、三人は先の見えない暗い洞窟を少しずつ照らしながら前へと進んでいく。


 歩き続けること数分、奥へ行くにつれて洞窟内に変化が起こり始める。



「やけに暑いな………」



 右手で松明を持ちながら、フィールカは額の汗を左腕で拭う。後ろの二人もうなだれたように声を出す。



「なんでこんなに暑いんだよ………。俺、もう死にそうだぜ………」


「きっと火口が近いんだわ………。―――ちょっと待って、二人とも」



 そう言ってシエルは立ち止まると、水属性の補助魔法バフを詠唱して一人ずつ周囲の空間に水の膜を張り巡らす。



「これで当分の間は、このうだるような暑さをしのげるわ」


「すごい魔法だな………」


「ああ、すんげえ涼しいぜ………」



 フィールカとレオンはそろって、シエルの魔法熟練度の高さに改めて感心する。


 二人はシエルに比べてMSが劣るので発動できない魔法が多い。なぜなら人間は、ASとMSの両方が抜群に優れているということは決してなく、それぞれ得手不得手が必ずあるからだ。


 フィールカとレオンは断然ASが得意なので、MSはあまり向いていないのかもしれない。それに対してシエルはASが得意ではないが、そのぶん無数にあるMSの魔法の大半をいとも簡単に使いこなしてみせるのだ。


 なので、いつもこうやって彼女の初見の魔法を目の当たりにしたときは、二人にとってはとても新鮮なものに感じるのだった。




「ねえ二人とも、あれ見て」




 シエルが何かに気づいたように洞窟の奥を指差す。


 指し示した先にあったのは、岩壁にぽっかりと開いた小さな穴から絶え間なく流れ出ている、ドロドロとした赤い液体だった。


 それを見たフィールカは驚いたように声を洩らす。



「こんなところからマグマが………暑い原因はこれだったのか」


「もしかしたら、もう《魔導石》は近いかもしれないわ」



 シエルの言葉にフィールカとレオンは頷き返すと、さらに暗闇の奥へと進んでいく。




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