第30話「速さの代償」
村から出たのはいいがどこで腕試しをすればいいんだ?
早く世界を変えたいという感情だけでここにきてしまった。
剣を持っていない方の手をデコにあててあたりを見渡す。
ここから遠いところにジャングルのような樹林があるほかには特に変わったものはない。
あのジャングルのような所は俺がこの世界にトリップした時の場所なのか。
もしかしたら俺が無くした魔剣レーヴァデインが置いてあるのかもしれない。
ジャングルの中に行って弱そうな怪物モンスターで腕試しをするってのもアリだな。
いや待て……強い怪物モンスターとかがいるんじゃないか……?
サイクロプスのような怪物モンスターがいたら太刀打ちできないぞ。
そう考えている時にはジャングルに吸い込まれるように足が動いていた。
昨日の夜に疑問に思った体の軽いことについて検証するべく、俺はジャングル(200メートルほど)に向かって全力で走り出す。
まるでジェットコースターにでも乗っているかのようなほどの風が顔面に吹き当たる。
足が軽い!体が軽い!全部が軽い!
俺はそう思いながら走っているとすぐにジャングルの入り口のような所まで来た。
そこに着いた途端、肺に空気がなくなったかのように息苦しくなる。
そして俺は膝に手を置いて息を整えるように何度も大きく呼吸をした。
やっぱり200メートルダッシュはしんどいな。
走る速さは前の速さとは比にならないほどになったが、体力は全く変わっていなかった。
200メートルを走った疲労により俺は膝から崩れ落ち地面に倒れこんだ。
なんでこんなに疲労が……。
異世界トリップするのなら引きこもってばっかりいないで体力作りしとけばよかったかもしれない。
こんなので本当に帝国軍を倒すことができるのか?
俺はこの時怪物モンスターと戦っていないのにも関わらず戦意喪失しそうになっていた。
走っただけで地面に倒れこむ勇者……。
ラノベのタイトルでありそうな感じだな。
いやいや、俺は何を言ってるんだよ。
そろそろアニメ見たくなったりラノベを読みたくなって来ているけど今はそれどころじゃないだろ。
この世界から帰ったらこの世界を変えたという優越感に浸りながらアニメ鑑賞をしたいものだな。
帰ることが出来れば……だけどな。
これは決して死亡フラグとかじゃないからな?
もしこれが死亡フラグだとしても俺は回収しないからな?
やばい。1人でこんなこと言ってて恥ずかしくなってきた。
呼吸が整った俺は地面に手をついて立ち上がった。
立ち上がる際ひしひしと膝の鳴く音が聞こえた。
ひきこもりには辛いぜ。
今、ゲームばっかりやって外に出ていないみんなは異世界トリップをいつしてもいいようにどこかに出かけるように心掛けておきな。
怪物モンスターの奇襲が来るかもしれないと思った俺はあたりを見渡しながらジャングルへと入っていった。
ジャングルの木々の間の幅は1人から2人ぐらいの通れるほどだ。
俺はいつでも抜刀できるように左手で鞘に収まった剣を持ち、右手で剣柄グリップを強く掴む。
サイクロプスを倒したんだぞ俺は!
大丈夫だ。大丈夫に決まってる。
勇者の生まれ変わりかもしれないんだ。
風が木をザーザーと面白そうに鳴らす。
「うわっ!!」
目をつぶって剣を抜刀しガムシャラに剣を振る。
サイクロプスか!?
いや、落ち着け。
何をビビってるんだ。
俺がゆっくりと目を開いてみると俺は空気という気体を切っていた。
もう一度風で木が揺られる音がする。
なんだ。木が揺れただけか。
全ての肩の重荷がなくなったかのように軽くなる。
刃物を扱うのに慣れていない俺は剣を握ると震えていた。
これって模造剣じゃないのか。
そして俺は鞘に剣を収めた……いや、収まらなかった。
何度も刃先を鞘に収めようとするが震えで窓に入らない。
「なんで入らないんだよ!」
思わず声をこぼす。
そりゃそうだ。
ゲームでしか剣を扱ったことのない人間がいきなり剣を持ったとして扱えるわけがない。
今考えれば異世界に転移した主人公がいきなり剣術とかが優れているのはおかしいな。
これはリルムの家に帰ったら素振りからスタートだな。
なんでサイクロプスに勝てたんだよ。
この剣のおかげか?
俺が聖剣バルムンク(仮)を見ると俺に返事をするように柄についた青い宝石のようなものが光る。
すげえ。
やっぱこれモノホンなんじゃないのか?
間違えた本物。
とりあえず魔剣を探している最中にサイクロプス見たいな怪物モンスターに会ったら世界を変える前に死んじゃうよ。
この世界のサイクロプスは弱い方とかやめてよ。
もしそうだったらあんなに強気な発言したのが恥ずかしいわ。
よし。一回戻ろう。
俺はため息を吐きながら来た道を戻ろうとした。
そして足を止めて振り返ると口から牙が向き出ていて布を腰に巻いた緑色の怪物モンスターが棍棒を振り上げておそりかかってきた。
!?