第21話「魔法適正検査」
両手に乗っている液体状の魔法物質をこぼさないようにしながら俺は浴室に入った。
これが魔力物質。
美少女の中から…。いやいや魔法で出てきた物質。
触り心地はボディーソープのようなものであるのにもかかわらず宝石のように輝いていて、とても幻想的な気分に包まれた。
さすが異世界。
これを頭にかけるんだよな。
髪がなくなって禿げたりしないよな?
異世界きて主人公がハゲとか聞いたことないよ?
よし。いくか。
俺は両手に乗った魔力物質をシャンプーだと思いこませて頭に満遍なくつけた。
桶にたっぷりと水をいれて、反射する自分の顔を見た。
これっていきなり髪が光ったりするのか?
俺は何か変化が起こるんではないかと期待していると、頭から垂れてきた魔力物質が垂れてきて目に入った。
目にしみて痛い。
これって現実でもある現象だよな。
シャンプーが目にしみて痛くなるっていうさ。
もしかして、魔力物質はシャンプーと同じなのか?
てか目が痛すぎる。
これで泡立つならシャンプーと変わらないのか。
俺は両手で頭をゴシゴシ。と洗い出した。
そうするとすぐに泡が立ちこの物質が現実でいうシャンプーであることがわかった。
俺の儚くも淡い魔法という概念に対する期待はすぐに砕け散った。
俺はため息をしながらもすぐに髪を流した。
いやいや、でもよく考えろ。
魔法に変わりはないんだ。
ちゃんと俺は魔法陣から出てきたのを見たろ?
シャンプーがすぐに出せるだけでもすごいじゃないか。
試しにやってみるか。
さっきリルムは右手を出して魔法陣を作ったんだよな。
えーと。
こうだして。
こうか。
俺は手を広げて前にだしながら、目を瞑った。
もしかして。これで俺が、魔法よ来い。と念じれば魔法陣が出るのではないか?
魔法よ。こい。
目を少しずつ開けて手を見てみると何も変わっていない。
もう一度。
次は声に出してみよう。
「魔法よ!こい!」
…。
ピタッ。
地面に水のようなものが滴る音がした。
何かが出てきた?
魔法が使えたのか?
ピタッ。
出てきたのは魔法物質ではなく、自分の体に付着した水が垂れただけであった。
はあ。
このあと何度も色々な方法で試したが、到底俺には基礎中の基礎魔法すらできなかった。
てかこの魔法を使えなかったら体洗えないんだけど。
どうしようか。
またリルムを呼ぶのは悪いし。
かといって3日も寝ていて体洗わないのは汚いよな。
うーん。
「シュン。ここに体洗う分置いておきますので。」
なんて気がきくんだ。
ちょうど俺がそれについて悩んでいるときに。
「ありがと!」
俺はすぐにドアを開けてリルムの置いた魔法物質をとった。
その後身体を洗う際に傷口がかなり傷んだのは言うまでもない。
俺は風呂を出てリルムのいるリビングへと向かった。
「リルムー。いい風呂だったよー」
「それは良かったです。体の疲れは少しでもとれましたか?」
「ああ、かなりとれたよ。ありがと。」
「あんまり無理はしないでくださいね」
リルムは少しはにかみながら言った。
「それじゃあ魔法とやらを教えてもらうとするかな」
リルムは木製のチェアから立ち上がり俺の前まで来た。
およそ距離は30cm。
なんでこんなに近い。この可愛さ反則だろ!
「目をつぶってください。」
え。
それってキスとかじゃないよな?
なるほど。
美少女ヒロインからキスをされて魔法を覚えて最強になる異世界系ね。
おけおけ。
でもまて。
初めてのキスが相手からリードされたキスでいいのか俺。
いやいやその前にまだあったばかりだよ?
いくら美少女とはいえ、さすがに早すぎる。
「あの、聞いてるんですか。」
頬を膨らませながら上目遣いでこちらを見てくる。
「ごめん!はいっ!」
目に力を入れてまぶたを閉じた。
心臓の鼓動が徐々に高まる。
おお。俺のファーストキスを…。
俺のおでこに冷たくも柔らかい棒のようなものが当たる。
え?なんでおでこ?
唇ってもっと柔らかいんじゃないのか?
俺は恐る恐る目を開けて見ると、リルムは人差し指で俺のおでこを指していた。
くっ。
俺の期待を返せ。
まあ初めてがこんな形じゃなくてよかったのは助かるけど。
「何をしてるんだ?」
リルムは、人差し指をおでこから離して真顔でこちらを見た。
「魔法適性は最低ですね。いままで見たことがありません。」
なん…だと。
魔法適性がない?
てことは俺は魔法が使えないのか。
いや、魔法攻撃に対する耐性がないだけで、魔法は使えるんだよな。そうだよそうだよ。
「魔法の攻撃には弱いのかー」
またも真顔で口だけを動かしながら言う。
「違いますね。魔法を使えないわけではないですが使えて基礎中の基礎魔法ぐらいですね。」
ちょっとまって。
主人公ってさ?
弱いですよアピールした後本当は最強ってオチだよな?
なんで俺だけこんな貧弱なの!
「てことは体を洗ったりする魔法だけしか使えないの?」
「はい。」
言った後1秒もかからずにリルムは返事をした。
この世界で生きていける気がしない。
魔法使えないとか、どうやって俺はリルムを守ればいいんだ。
いや、まてこれは冗談って可能性が微レ存する。
「リルム。なんでそんなことがわかった?」
「いわばパッチテストみたいなものですね。おでこに人差し指を当てて私の人差し指に魔力を集中させます。そうすると、触られている方はその魔力に負けないようにおでこに魔力を無意識に集中させます。それで私の魔力よりも大きければ魔法適性があるというわけなのですが、シュンからは全くと言っていいほど魔力を感じませんでした」
とりあえずかなり言葉が長かったけどよく伝わった。
リルムがある程度の魔力を人差し指に集中させてそれよりも大きければ魔法適性があるということなのか。
「俺の魔力が大きすぎてリルムには感じ取れなかったとかはないのか?」
「ありません。もしそんなに大きいのでしたら絶対に気がつきます。」
その即答やめてほしいよね。
もう少し言葉を考えてから行ってほしい。
結構傷つくよ?
俺が魔法適性がないというのは認められない!
「まてまて!リルムが判断ミスをしてる可能性が微粒子レベルで存在する!」
いやいや、何言ってんのさ。
微粒子レベルで存在するとか確率何パーセント。
自分でも使えないってわかってきたんだよな。
なんだか悲しくなってきた。
「わかりました。ではもう一度やりますね」
冷たくも柔らかいリルムの人差し指が俺のおでこにあたる。
今だっ!
「うおおおおおおおおおおおお!」
俺は大きな声を出しながら全身に力をいれた。
少しでも魔力が出るようにね。
そっと人差し指が離れていく。
「結果は!?」
「先ほどと同じく基礎中の基礎…」
「その先は言わないでくれ!なんか恥ずかしいわ!」
リルムはSなの?
絶対俺のことバカにして笑ってるよね。
「わかりました。それでは少し椅子にでも座って待っててください」
リルムはこの言葉だけ残すと、置いてある本棚の中から何かを見つけようとしていた。
俺は木製の年季の入った椅子に座りながらリルムを見た。
「どうしたんだよ。俺に失望でもしたのか?」
「命の恩人に変わりはありませんよ。から失望なんてしません。魔法が使えないというのがばれたら小さい子ども達とかからバカにされるのは確かですけど。」
最後の言葉が俺の胸に突き刺さる。
ぐはっ。
この攻撃は痛すぎる。
物理的ダメージよりも痛いかもしれない。
「あ、はい。」




