第9話「広い視野で世界を見ろ」
その直後、音が消えて静まり返った森林にサイクロプスの足音が聞こえした。
ドンッ。ドンッ。
ブウゥゥゥゥゥ!ブウゥゥゥゥ!
角笛を吹き、サイクロプスに居場所を知らせる。
チャンスは一度きり、この剣の切れ味がどれくらいかなんて分からないが、今俺たちに残っている希望はこの剣しかないんだ。
俺が柄を強く握りしめると剣はそれに反応をしたかのように剣が光りだした。
現実でのこの剣とこの世界でのこの剣とでは輝きが違うことに気がついた。
こっちの世界だとまるで生きてるかのようにも思える。
「グオオォォォォォ!!!」
サイクロプスが肉眼で確認できる距離まで歩いてきた。
さっきの光景が頭をよぎる。
もし、これが失敗したら俺は死ぬ。
いわばロードができないゲームオーバーだ。
サイクロプスが近づいてくるにつれて高まる恐怖感。
ブーウー!ブーウー!!
リルムはもう一度角笛を吹いた。
「リルム!もう危ない!早く泉に逃げろ!」
リルムはこくりと頷き、泉に向かって走っていった。
サイクロプスはそれに動じず大地を踏みしめながら歩っている。
深呼吸をしろ。
リルムの仕事は終わった。次は俺の仕事の番だ。
サイクロプスが半径4m近くまで近づいてきたとき、俺は鞘から剣を抜いた。
その時木からこぼれてた日光が俺の剣を照らした。
するとサイクロプスは反射した光に気づき、こっちを向きながら歩ってきた。
まずい。奇襲をかけるつもりがばれてしまった。
サイクロプスは半径2mまで近づいていた。
この距離なら刺せる。
でも俺が刺す瞬間にぶん殴られて飛ばされたらどうする。
さすがにもう一発喰らったら死ぬ。
サイクロプスの方を見ると一つ目をギョロッとさせながら俺を見ている。
その後サイクロプスはにたーと不敵な笑みを浮かべた。
その瞬間俺は身震いがした。
逃げたい。
でも逃げたらまた助けられない。
俺しかいないんだ。
サイクロプスはまた一歩ずつ木に向かって近づいてきた。
そうだ。
あの時お父さんが言ったことを思い出せ。
「辛いことがあったんなら、それを含めて広い視野で世界を見るんだ。そうすれば乗り越えられる」
この近距離で飛び降りて切ろうとしても飛ばされるだけだ。
分身のような囮が欲しい。
今は俺しかいない。誰もいないんだ。