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65 夏から秋へ、そして 6 昔の写真

いらしてくださり、ありがとうございます。


「同級生!?」

 拓はメニューを取り落としそうになった。

「いや、茜のお袋さんとうちのお袋、いわゆる『ママ友』ってやつじゃねえのかよ!? 今の家に越してきてから知り合った」


「やっぱり拓も知らなかったか」

 茜はめ息をつき、金色の飲み物、おそらくはジンジャーエールをストローでかき回した。


「だいたいお前の親、二人とも東京の高校に行ってたんじゃねえっけ?」

「疑われないように、嘘をついたんだって。押し入れから『本当の』県立高校の卒業アルバムを出してきて、見せてくれたよゆうべ。美花子さんも、お父さんお母さんも載ってた。ね、先に注文しなよ」


「お、おう」

 茜にうながされても、拓はメニューがちっとも頭に入ってこなかった。

 茜の向かいに座ることでゆうべのことが急にリアルに思い出され、心臓の鼓動が速くなった。

 そればかりか、親の過去について、いきなり衝撃的な事実を聞かされたのだ。


「引っ越してきて誰も知ってる人がいなかったでしょう? 育児は思うようにいかないことばかりだし、もう心細くって。だから、茜ちゃんのお母さんと知り合えて、友達になれて、ほぉんとよかった」


 母親である美花子が、何年も前、一緒に洗濯物をたたんでいるときに見せた満面の笑みが脳裏に浮かぶ。

 あれも嘘だったのか。いや、いつ知り合った、とは言っていないから微妙に嘘はついていないのか。


「ご注文お決まりでしょうか」

 ウェイトレスがやって来た。

「ハンバーグと二種のフライのAセットを。あとドリンクバー」

 拓は、開いていたページの一番上にあったものを頼んだ。

 茜は、エビドリアとシーザーサラダを注文した。


 拓がメロンソーダを取ってくると、茜は続きを話し始めた。

「これが証拠」

 茜は携帯端末の写真を拓に見せた。

「卒アルの写真、撮ってきた」


(わけ)え」


 紺のセーラー服姿の美花子は今より顔がふっくらしている。髪は片側にまとめた三つ編み。修学旅行なのか、寺をバックに合掌(がっしょう)している。


 拝むのはカメラマンでなく寺にいる仏だろう。

 と拓は思った。が、突っ込みは胸の内にとどめた。


 右側には茜の母親である和恵が、美花子に顔をくっつけるようにして同じポーズをとっていた。和恵の方は髪型は今と変わらないショートカットで、今よりだいぶ()せている。


 そして美花子の左側には、二人より色白で、黒髪をおさげにしている、つまり左右各耳の少し下で束ねている美少女がいた。はにかむように微笑みながら、やはり両手を合わせて拝む格好をしている。


 彼女らの斜め後方には、立ち話をしながら彼女らを見ている詰め襟姿の男子学生が二人、小さく写っていた。

「左側、ひょっとしてお前の親父さん?」

「あ、ほんとだ。気づかなかった。お父さんの大きい写真はこれ」


 茜は、楕円で囲まれた首から上の写真を見せた。

 茜の父親、陽一郎に髪が真っ黒な時代があったのが拓には驚きだった。


「お父さんとお母さんは高校だけ一緒で、美花子さんとお母さんは小学校から一緒だったんだって」

「てことは、お前と俺のお袋は、子供の頃から近所で育ってたのかよ!」

 美花子の実家の、山や田畑に囲まれた風景と、都会風な服やアクセサリーを身につけていることの多い和恵は、どことなくしっくりこない。拓は腕組みをし、首をひねった。


「そう。幼なじみってやつ。昔から仲よかったんだって。三人で、いつも一緒に遊んでたみたい」

「三人?」


「美花子さんと今のお母さんと、あと、わたしを産んだおか……、茅野小雪(かやのこゆき)さん」

 茜は、下がりそうになる口角を何度も上げつつ、じっと拓を見た。


「茅野……聞いたことねえな」

「そっか。この人だよ」

 茜は、再び少女合掌写真を画面に出し、美花子の左側の少女を指さした。

ここまでお読みいただきまして、どうもありがとうございました。

ご来訪に心から感謝いたします。

よろしければまたお越しください。


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