49 二度目の春が来て 49 能力者同士が○○すると
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リッピアの前で菖蒲院高華は、見えたものの詳しい様子を口にしてしまった。
――ふぅーん。
リッピアは不敵な笑みを浮かべた。
そして拓からさっと身を離した。
「菖蒲院さん、悪いけどそのまま拓の体にさわっててくれる?」
茜は、張りつめた声で言いながら高華の肩に手を置いた。
「は、はい!」
高華は顔を赤らめ、拓の腕をいっそうひねり上げた。
断末魔のような拓の悲鳴が辺りに響く。
「別に腕はねじらなくていいよ。拓にさわってる菖蒲院さんにさわっていれば、わたしも彼女の声が聞こえるかもしれないって趣旨だから」
「なんだ、そういうことですか」
肩に置かれた茜の白い手を振り返りつつ、高華は少し残念そうな顔をした。
――やっぱり、能力者同士が接触すると、互いの能力がリンクするんだねぇ。
顎に手を当て、彼女は拓と高華を見据えた。
――でも、見えたあたしの姿のうち、実際のでない方は、しょせん菖蒲院高華が作り出した幻想。泣いてるあたし? 馬鹿馬鹿しくて話にならないよぉ。ふふっ。
リッピアはゆるふわボブカットの茶髪を何度もかき上げた。
白い縁取りがある赤いチューリップの花と、ウェイビーで長く尖った葉とを髣髴とさせるショート丈ワンピースが、彼女の笑い声とともに揺れる。
「幻想なんかじゃありません!」
拳を握りしめ、高華は叫んだ。
「今だって、ゆとりある表情や言葉と裏腹な、くやしそうな泣き顔が重なって見えています。それこそ、他人に知られたくない、あなたの本心なんでしょう!?」
――あーあぁ、むきになっちゃって。
両手を腰に当て、背を反らしてリッピアは笑うのだった。
――本心? 何それおいしいのぉ? あなたが気にすべきは、あたしのことじゃなくて、自分のことだと思うよぉ。
「どういうことです?」
――まだ気づかないぃ?
リッピアは肩をすくめ、それを下ろしながら溜め息をついた。
――大サービスで教えてあげる。拓とあたしは、別になんでもないんだよぉ? なのにあなたは、男女関係に免疫がなさすぎて、あたしたちがくっついてるだけで何かいやらしぃぃい関係だと誤解した。
彼女は高華に寄っていくと、ぐいっと上半身を突き出した。そして目を細め、ふふん、と唇の端を持ち上げた。
――で、激情にかられ、拓との約束をすっかり忘れて、何が見えたかペラペラ喋った。
しまった、という表情が高華の顔に浮かんだ。
高華の肩に手を添えている茜も、眉をひそめうつむく。
――ほしい情報が得られてこっちはラッキーだよ。サァーンキュ!
リッピアは硬直している高華の手を握った。それから手を離し、両手を横に広げてくるっと一回転した。
おいおい、かわいいぞ。
不覚にもそんな言葉が拓の頭に浮かんだ。チューリップ本体の愛らしい姿を思い出すことなく、「目の前のリッピアのみに対し」、そう思ったのだった。
――でもそんなんじゃ、次期家元の立場も誰かに引きずりおろされちゃうよぉ?
あどけない目で、リッピアは高華を見上げるのだった。
「あなたに何がわかるんです!」
――えっと、過去が見えるよぉ? まあ、見えなくても、あなたが悪い大人の餌食になりそうなのは一目瞭然だけどね。活け花だけじゃなくて、もっといろんなことを勉強した方がいいんじゃなぁい?
「落ち着いて! 菖蒲院さん」
肩や手を震わせている高華の手を、茜がそっと握った。
リッピアのように、すぐに離したりはしない。彼女の声を聞くために高華の肩に当てていた方の手も、茜は遠慮がちに重ねた。
「わからないけど、菖蒲院さんを挑発してさらに何か聞きたいということかもしれないし」
「そ、そうですね」
はっとしたように、高華は頷いた。
――失礼だなぁ。これでもかなり親切に言ってるんだけど。
リッピアは、小首をかしげて笑った。
寂しげな翳りが顔に現れ、すぐに消えた。
――でかしたな、リッピア。
男の声と女の声が重ねられたような声が、どこからともなく聞こえてきた。
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