31 二度目の春が来て 31 遠足の思い出、&ぜんっぜん違う○○○
すみません、今回もグロ描写ありです。お食事中の方など、ご注意ください。
「きったねぇーーー!」
などと男子にはやし立てられて泣いている茜に対し拓は、
「これで口ゆすげ」
と自分の水筒から彼女の水筒のカップ兼用蓋に緑茶を注いだものだ。
そして、乗り物を降りたあと、青く可憐な花を咲かせるオオイヌノフグリなどを見つけては、「見ろよ」と茜を突っついたものだ。
「オオイヌノフグリのフグリって、キン○マが入ってる袋って意味なんだぜ。犬のが似てるらしい」
「それ、花みたいにきれいなの?」
真剣に茜に見つめられて拓は、
「い、いや、実だよ実っ。実の形が似てるってことだ。そんなに似てねーけどっ」
自分が赤面してしまった。
「俺だったらもっといい名前つける! ア……アオバナとかっ!」
そう言うと、茜は
「やだ拓! アオバナって、鼻水って意味だよー」
と笑い転げた。嘔吐してから初めて見せた笑顔だった。
「吐けばいいと思いますが」
高華の凛とした冷ややかな声で、拓は現実に戻った。
恭平を見下ろす彼女の目からは、ブリザードが吹き出しているようだ。
「え、茜ちゃんに対する態度と違いすぎじゃね?」
「当然です。土屋先輩は、自分のパン袋を犠牲にし、悪臭にも厭な顔一つせずわたしの嘔吐に寄り添ってくださいました。あなたはどうです!? わたしが吐かないうちから文句ばかり」
「俺はさぁ、予防の観点から言ってんの! あんたが吐いたら、またその後始末とかで作業が増えるじゃんよ! 防げる災害は防ぐべーきー。それに、耳は塞げねーし」
すると、薫が恭平に、小さなプラスチックケースに入った何かを差し出した。
「何これ」
「耳栓」
「え、俺にくれんの?」
ふてくされていた恭平の頬がゆるむ。
「まさか」
薫はむっとした表情で耳栓入りケースを引っこめた。そして、それが購買部で売られている旨を恭平に伝えた。
「少しは聞こえなくなるはず。人の声は基本、拾うけど」
「ありがとな。けど、勉強するときならともかく、なんで今もこれ持ってんの」
「……聞きたくないものを、少しでも聞かなくて済むように」
薫はまっすぐに恭平の目を見て言い終えた。
「あらそう。はっきりしてんのね」
恭平はオネエ言葉になると、しゃーねーなあ、と立ち上がった。
しばらくして戻ってきた彼は、耳栓を両耳に押し込み、
「ほんとあんま効果ねーな!」
と大声で薫に言った。それから、
「耳栓したって、あんたの味方になったわけでも何でもねーからな! 犯人じゃないってんなら、飼い犬の足跡なり何なり証拠を出してみろよ」
と高華に詰め寄った。
結果、彼はいろいろ茜に注意された。
そして薫に
「ちっせー」
と呟かれたのだった。
その頃、拓は男子トイレの開いている窓から、リッピアの声が聞こえてくるのに気づいた。
――ええ、万事うまくいっています。心配なさらないでください。……は? そのようなことは、ありません。必ずやりますので、どうかもう少しお待ちください。
俺と話すときとは、ぜんっぜん違う喋り方じゃねーか!
学生と、何年か仕事や付き合い酒で揉まれて世間の厳しさが身に沁みた社会人くらい違う。
拓は身をかがめ、そっと下を見た。
斜め下の辺りに、校舎の壁を背にしてリッピアが立っている。左手を耳に当て、誰かと話しているようだ。
中二病の一人芝居だろうか? 女優がどうのこうの言ってたし。
一瞬、そう思った。だが、次に聞こえてきた
――待ってください! 大丈夫です一人でやれます! 切らないでください!
という彼女の言葉は、かなり切迫したものだった。
どうも演技ではなさそうだ。そして、リッピアは、頭の斜め上が男子トイレだと気づいていないのかもしれない。
ここまでお読みいただきまして、どうもありがとうございました。
ご来訪に心から感謝いたします。
なお、本日2話更新のため、2015年8月27日(木)は更新を休む予定です。




