表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外れた世界で少年は。  作者: 三番茶屋
21/36

殺傷予告 Ⅲ

 確かな証拠などどこにもない。

 確固たる証明など何もない。

 謎が謎を呼び、難解不解が深みを増し、まるでそれは伝播されてきた都市伝説の如く、科学的に証明することのできない存在や自然摂理を外れた見えない力が及ぶ殺人事件だっただろう。

だからこそ、捜査は一向に光明を得ずに難航するばかりで、およそ犯人像さえも見えてこないものだった。

 現場に残される犯人の遺留品は皆無であると言ってもおかしくない――あの『書置き』の他には何も残されていない。

犯行を目撃した者もいない、防犯カメラにもその姿は映っていない。

しかし、その中で唯一と言っていい残されたものがあるとすれば、それは殺害された犠牲者だ。

これまでに殺害された八名の犠牲者とそれぞれの現場で彼ら彼女らが残した――彼らの死体こそが事件究明の唯一の手掛かりだろう。

 死体が事件を解決するケースは少なくない。

むしろ、事件を解決する可能性は大いに有り得る。

 しかし。

 しかし。

 死体から導き出されたことは、死因と死亡時刻だけだった。

六月十一日に殺された二名――大学の教授と一般女性の死因はどちらも鋭利な刃物による外傷性ショック死。

六月十二日に殺された五名――会社員と警備員、通り魔事件に見立てられた三名の死体もまたいずれも刃物で刺殺されていた。

死体への執拗な攻撃を除いて、死因だけを見れば、いずれの事件も同一犯であろう可能性を考えるべきだろう。

しかし、事件発生時刻から鑑みるに、それは有り得ない。

物理的に不可能である。

だから、同一犯かどうかはともかく、何かしらの関係性がそこにあると疑えた。

 そして、八人目の犠牲者――籠目 紫。

彼女もまた首を刃物と思える凶器で切り落とされていた。

それはやはり、連続する殺人事件に共通する死因と言って正しいだろう。

 だから、これらの事件の捜査が何の発展も見せていないというわけではない。

好転こそしないが、少しずつ進展しているのは確かだ。

まぁしかし、八人も殺されているのだ、それに見合うだけの成果があったかと言えば答えは明瞭である。

実際、特定までに至っていないだろうが、警察機関が容疑をかけている人物はいるはずだ。

それが、『神宮司』かどうかはさておき――なのだけれど。


 『神宮司』。

 『神宮司兄妹』

 神宮司 蓮二。

 神宮司 甘奈。


 僕は彼らの正体を知らない。

 彼らが何者なのかも知らない。

けれど、思い当たる点はあった――僕を二度に亘って襲った彼と彼女は、本当に『神宮司』だったのではないだろうか、と。

 証拠も何もないけれど。

 証明することもできないけれど。

けれど、僕にはそう思えてならないのだ。

勿論、僕を初めに襲った六月八日の殺人未遂事件が未だに解決されていないことから、そしてそれを皮切りに連続殺人事件が起こったことから、そう紐付けることはできよう。

だが、その連続殺人事件の犯人が『神宮司』である証拠はどこにもないので、それとそれが関連しているかと言えば、それもまた証拠不十分でわからない。

 そして、僕が最も気にしている点。

 連続殺人事件が今も尚継続していることで、最初はあまり気にしないでいた理解不能の点。


 『あの公園で、雪間さんに一蹴された彼女は何者だったのか』


 『神宮司』を自ら名乗り、大学内教授殺人事件に関与したと自白し、そして同日の通り魔事件との関係性を(ほの)めかした彼女は一体何者だったのか。

その後、彼女が署内で何を語ったかは知らないけれど、果たしてそれらしい証言は得られたのだろうか。

それはわからないが、それ以上に彼女が何者なのかも、一体何をしたかったのかも不明だ。

 ただしかし、僕には言える。

 証拠など皆無だけれど、間違いなく断定できる。


 『彼女は『神宮司』ではないと――』


 なぜなら――


「…………神宮司 蓮二――」

 自宅の前で背後から声をかけられ、探し物が見つかったかのような笑みを浮かべる――こいつこそが、都市伝説級の殺人鬼である『神宮司』なのだと確信することができた。

 

 なぜなら。

 なぜなら――


 右手で髪根っこを掴んだ先に見えたのは、女の子の目を閉じた安らかな表情だったのだ。

 少女の頭部を乱暴に掴んでいるのだったのだ。


「き、きひひひっ、きひひ――」

 およそ人が浮かべる笑みではない。

これほどまでに不気味で、不器用な笑みを浮かべる人を少なくとも僕は知らない。

「やっと見つけたぜぇ、お兄さん。どうも、ご無沙汰です!地獄からのお迎えに来ました、死神ちゃんです!なんちって!」 

 暗がりに溶け込む黒色のパーカー、際立つ血色のデザイン。

 男にしてはいささか長過ぎる髪。

 肉付きの薄い、か細い体躯。

 右手に蒼白な表情をした人間の頭部、左手には鈍く輝く軍用ナイフ。

 返り血を浴びた赤黒い顔。

 それを舐め回すように伸びる真っ赤な舌。

 見開いた目。

 瞳孔。 

 揺らぐ視点。

 『神宮司』。

 『神宮司兄妹』。

 『神宮司』。

 『神宮司 蓮二』。

 『神宮司』。

 神ぐうじ。

 じん宮じれんじ。

 じんぐうじ蓮じ。

 じんぐう司兄だい。

 ジングウ。

 神グウジレンジ。

 じんぐウじレンジ。

 かんな。

 ジングウジキョウダイ。

 ジングウジカンナ。

 じんぐうじカンナ。

 神ぐうじ甘ナ。

 じんぐう司レンじト神ぐうジかん奈。

 殺人鬼。

 サツジンキ。

 殺人キのじんぐうじ。

 都市でんセツのサツジン鬼。

 鬼。

 オニ。

 トシ伝せつの神宮ジ。

 連続サツジンキ。

 シリアルきらー。

 しりアル殺人鬼。

 目ガ合ウ。

 見ツメ合ウ。

 視点ト視点。

 ミツメアウ。

 見つめ。

 見つめて。

 見つめ見つめ見つめ見つめ。

 見つめ見つめ見つめて視点が。

 息呑む心臓が音を血の流れ血流が脈打つ思い混乱の殺人鬼がジングウジの視点が暑い思い重い想い頭痛が痛い頭痛の切られて刺されて刺してゆっくり熱い腹が朦朧も赤い真っ赤は血の黒い腕の腹の中に内臓がぶちぶち血管が欠陥し損失の欠損みたい痛痛痛痛き気持ち良い快楽の地獄が生まれ死んで脳汁に浸かる心臓もぶちぶちだらだら笑み笑い込み上げあはははは血飛沫血溜まりお腹一杯脆い人は脆い上の肉の塊が赤い黒い肉塊に白神経もう無理死ぬ死なない死なない死んだら終わりオワリげーむおーばーコンティニューでき暗い冷たい冷た痛いくない気持ち良いくらい痛い嫌だ嫌じゃない終わりたい死にたくない無理は死神の神が神宮に神宮司レンジが刺す赤い鈍いないふはない痒い腹痒い内臓が痒痒痒がりがりがり夢の悪夢は人の努々儚い夢じゃない臭い鉄に息が無理良い匂い腐った鉄と肉に黒い血くらくらで良い匂い錆び血の内臓はらのなかも小腸だらんだらん死なない死なないもう死ねない残機いち落下泥沼底なし沼もうムリじゃない息できないくない生きてる生きたい生きたくない逝きたい逝きたくない看取られ取って刈り取って命心臓生命懸命切り取るもの死神の者使者の死者バラバラ腹の中がバラバラぐちゃぐちゃハラハラする脳味噌どろどろ痛い痛い痛い悲鳴声出なとめられな重み圧ゆっくり意識が皮膚裂け肉裂けもう無理無理むりむりムリムリ死ぬ死ぬ死んじゃう死んじゃう笑い声笑い笑み微笑み冷笑嘲笑笑い断末魔笑い断末魔笑い声あはは高笑いあはははははは苦笑いあはははは高飛車あはは謎謎謎謎の笑い笑い声の笑いが笑い声で笑い死ぬは死ぬ笑いの死が笑いに笑い死ぬも笑い死ぬも死ぬも笑いから死ぬのが笑い死ぬと死ぬ笑いより死い笑ぬが笑ぬと死いにも笑ぬ死いみたいな死い笑ぬことがあはははははははははあはははははあはははははあははははあはははあははははははあははあははははあははははははははははあははははかははははかははあははかかかあはははきひきひあははきひひひひひひひひかははあははは――――――――

 どうして。

 どうして。

 どうして。

 どうして。

 どうして。

 どうして。 

 どうして君が――

  、、、、、、、、、、、、

 どうして籠目ちゃんが――

 




「――油断大敵だぜ、かはは。死神は優しくないっての」







「ひ、きひっ、きひひひひひ――殺しはしねぇ、まだ殺しはしねぇ、殺したらつまらねぇかんな。お兄さんには生きて生き延びて、俺様のショーを間近で観覧してもらうって」






「一番最後に殺してやんよ、きひっきひひひひっひ、かはははは」





 通報を受けた警察と救急車がやって来たのはその後すぐのことだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ