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07.騎士団の皆様が覗きにきたのです



「すまん。俺たちは魔物を追っていた。女性の悲鳴がきこえたから助けにきただけなんだ」


 今、私の目の前では、剣を納めた三人の騎士様達が謝罪しています。


 もっとも若い、おそらく下っ端の騎士。女性の騎士。そして、隊長と呼ばれているお髭の騎士。


 この方達には見覚えがあります。つい先日もお店に来ていました。村に駐留している巡回騎士団の一員です。


 お髭の隊長が言う通り、任務の途中なのでしょう。軽装ですが一応金属製の鎧をつけ、そして腰には長剣をさしています。


 この方達は、ご領主様直属の騎士と言うからには、一応は貴族。私たちの世界風に言い直すと、国家公務員か軍人であるのは間違いないはずです。そんな三人が、私たち少女二人に平伏しています。特に女性騎士をのぞいた男性二人は、土下座する勢いです。





「おねぇちゃん。いつまでも真っ赤な顔で睨んでないで、この人達に悪気はないんだから、許してあげて」


 騒ぎの元凶であるはずのノースちゃんが、なぜか上から目線で私にこう言います。


 そうですね。そのとおりです。いくら下着を見られて恥ずかしいからといっても、いつまでも硬直しているわけにはいきません。目の前で申し訳なさそうな顔をしている騎士様に、なにか言わなければなりません。


 なにか、なにか言わなくては。


「みっ、……見ました?」


 言ってから気づきましたが、咄嗟のこととは言え、どうして私はこんなことしか言えないのでしょう。ここは、許すと言ってあげなくてはならないのです。自分のバカさ加減に腹が立ちます。ちなみに、ユージ君は大笑いしています。ほんと、むかつきますねぇ。


 若い騎士様は、首を横に振っています。私の下着なんて見ていないというアピールのためか、必死にぶんぶん振っています。ですが、その顔が赤いのです。


 やっぱり見られましたか。ユージ君以外の先住生物……、じゃなくて人間に下着をみられるなんて……。私の顔も、いま赤くなっているかもしれません。


「もう。ケイお姉ちゃんも、下着みられたくらいで、そんなに狼狽えないの! ……二人とも、今回だけは許してあげる。でも、次はお姉ちゃんの蹴りだからね!」


 もともとスカートをめくったのはノースちゃんなのに、彼女にこんな事を言われるのは理不尽極まりないような気もしますが、どこの世界でも女の子というのはこのような理不尽な生き物なのでしょう。逆らっても無駄なのです。


 目の前の男性騎士様二人も、当然ながら少女に反論する気はないようです。そそくさと立ち上がると、私とノースちゃんの前に跪きました。


「レディに大変失礼なことを」


 そして、若い騎士様が私に、隊長さんがノースちゃんに、やさしく手をとり、……手の甲にそっと口づけをしてくれました。


 !


 もちろん、私は生まれてからそんなことをされたことはありません。またしても真っ赤な顔になっているはずです。頭から湯気がでているかもしれません。


 ふとユージ君の方をみると、……あら、ふくれています。うふふふふ。ヤキモチですか?


 そんな私を尻目に、ノースちゃんは、可愛らしくスカートの裾をつまみ、そつなく挨拶しています。さすがですね。私もなにか言わなければ。


「あ、あの、気にしないでください。またお店にきてくださいね」


 それだけの言葉を口にするので、精一杯。


「もちろん!」


 若い方の騎士様が微笑んでくれます。なかなか格好いい笑顔じゃないですか。





 帰り際、お髭の隊長がきりりと表情をひきしめて、私たちに警告してくれました。


「あー、お嬢さんがた。このあたりに大型の魔物がでているらしい。こんな街道の側にまで出てくることはまずないと思うが、そろそろ暗くなるからもう帰った方がいい」


「は、はい。もう少しで籠がいっぱいになるので、すぐに帰ります」


 あら、女騎士さんが、思い出したようにユージ君を見つめています。わざわざ幼児の前で膝をつき、視線を合わせています。


 そして、頭をなでながら、とてもやさしい笑顔でほほえんでいます。


「ユージ君。きみ、体力なさそうだから、あまり無理しないようにね。魔物には気をつけるのよ」


 はいはい。


 ユージ君は、めんどくさそうに頷いています。






 三人の騎士様達の姿が見えなくなった頃、ノースちゃんが毒づきはじめました。


「なによ、あの女騎士。ユージ君に色目使っちゃって」


「だから、そんなわけねーだろ!」


 いえ。私もそう思いました。こんなお子様ボディのくせに、ユージ君は先住生物達にもてすぎです。


 とはいっても、あの女騎士がユージ君を守りたくなるのは仕方がないことです。彼女は千年前にそのように本能をつくりかえられた者の末裔ですから。ユージ君も、そして本人も、そのことに気づいていないようですが。


 ……でも、ユージ君には私が居ますから。あの女騎士がユージ君に近づかないよう、気をつけなければ。





 ノースちゃんが、今度は私を肘でつつきます。


「ケイおねえちゃんどう? あの若い方の騎士?」


「ど、どうって?」


「なかなか格好いいんじゃない? お姉ちゃんのパンツ見て赤くなったし、脈あるかもよ」


 そんな出会いはイヤだなぁ。……まぁ、確かに悪くはなさそうだけど、私にはユージ君がいますし。


「そ、そんな事よりも、はやく仕事済ませて帰りましょう。暗くなってしまいますよ」


 そう、魔物がでる前に、帰らねばなりません。ユージ君を危険な目に遭わせるわけにはいかないのです。






2014.04.03 初出



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