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06.女らしさは悲鳴からなのです




「きゃあ!」


「だめだめ。それじゃ、おおきな声をだしてるだけじゃない。もっと、色っぽい悲鳴をあげるのよ」


 ノースちゃんが、木の枝をびしびし地面に打ち付けながら、私をしかりつけます。でも、『色っぽく』と言われても、私にはいったいどうすればいいのかわかりません。


「ただ悲鳴をあげるだけじゃだめよ。酔っ払いに不意におしりを触られて恥ずかしい! でも、はずかしすぎて咄嗟にどうしていいかわからない! という心理を全身で表現してこそ、男が萌えるのよ」


 イヤらしいことをしてきたセクハラ男に萌えられても、事態はかえって悪い方向にしか行かないような気がするのですが? やっぱり問答無用でぶちのめした方が……。


「ねぇ、ユージもそう思うでしょ?」


 なんと、ノースちゃんに問われたユージ君が、うんうん頷いているではありませんか。


 そうなんですか? 男って、みんなそうなんですか? 弱い女に萌えるのですか?


「そうよ。ケイお姉ちゃんみたいに、ちょっと触られる度に相手をぶちのめしていたら、男は恐がって近寄らないわよ。それよりも、周囲の男の庇護欲をそそるべきよ。かわいい女だと思われれば、その後の人生ではなにかと楽できるわ」


 そ、そうですか。十才の娘にこんなことを教えられる私って……。






 俺とケイとノースちゃんの三人は、街道からそう遠くない山の中にいる。巨大な大樹が倒れた跡にできた広場だ。この一帯は、村の人々の間では山菜やキノコの穴場として知られているそうだ。俺たち三人も、ついさっきまではここでキノコを捜していた。


 初めは、ひらけた場所で、ちょっと休憩をするだけのはずだったのだ。それが、いつの間にか、たわいのない世間話になり、さらになぜかノースちゃんとケイによるガールズトークになってしまった。村の男の子の中で誰が一番かっこいいとか、道具屋の娘が騎士団の若いのに惚れているとか……。


 ケイは、そーゆー話があまり得意ではないらしく、初めは適当にうなずいているだけだった。しかし、そんなことはお構いなしに、ノースちゃんの話はとまらない。いったいどこから情報を仕入れてくるのか。


 やがて、なぜか先日のケイによる酔っ払いぶちのめし事件の話題で盛り上がり、ノース講師による『酔っ払いにおしりを触られた時の正しい悲鳴のあげ方』講座がはじまってしまったのだ。


 ひとりだけ男の子である俺は、少々居心地の悪い気がしないでもない。しかし、ノースちゃんのおかげでケイが人間らしいしぐさを学んでくれるのなら、こーゆー平和な風景も決して捨てたもんじゃないかもと思う。


 ふむ。こーゆー日常も、いいなぁ。やっぱり冬眠から目をさましてよかった。






「ケイおねぇちゃん。もう一度やってみましょ。教えたとおり色っぽい悲鳴をあげるのよ」


 ノースちゃんがなにやら怪しげな手つきをしながら、私ににじり寄ってきます。


 な、……何をするつもりなのかな?


「リアルに行くわよ! 実践あるのみ!」


 ぺろん。


 言うが早いか、ノースちゃんは私のスカートをめくりあげます。


「きゃあああ!」


 私は反射的にスカートをおさえ、本能的に悲鳴をあげます。


 私なりに、必死に悲鳴をあげているつもりなのですが、……はたして、男の庇護欲をそそる『色っぽい悲鳴』になっているのでしょうか?


 そんな私たちの様子をみて、ユージ君が腹をかかえて笑い転げています。ちょっとむかつきますねぇ。






「また悲鳴が聞こえた。急ごう!」


 三人の騎士が、低木や下草をかき分けながら獣道を進む。


「この向こうだ!」


 騎士達は、それぞれ腰の剣を抜く。両刃の長剣をふりまわし茂みを切り開く。と、唐突に開けた空間にでた。


 しかし、……三人は、凍り付いたように動きを止める。そこで繰り広げられていた光景に、視線が固定される。


 視線の先に居るのは子ども達。ひとりの幼児と、ふたりの少女。手前にいる年端も行かぬおさげの少女が、もう少し年上の妙齢の少女の、……スカートをめくっている?





 子ども達三人も、突然あらわれた完全武装の騎士達の音に驚いて振り向く。おさげの少女が目を丸くしている。硬直しているのか、スカートからは手を離さない。


 若い騎士の視線が、めくりあげられたスカートの中に引き寄せられる。


 細くて長い足、白い太もも。そして……。


「ブルーだ……」


 めくられている少女もこちらを振り向く。当然、騎士の視線に気づく。その顔が、みるみる真っ赤になる。


 一瞬の沈黙。


「きゃーーーーーーー」


 絹を裂くような悲鳴が、あたりの山にひびきわたる。






2014.04.02 初出



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