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そのいち

次は亀更新かもしれません。

「そのぜろ」から読んで頂けると幸いです。


半月の夜。

ざざ、と。

木を揺らす風を受けながら、闇を進む。

「ネフィオスさんたち、任務終わったかなぁ…」

思わず一人言となってもれでた思いに、くすり、と笑って足を早める。

帰ってきたあの人たちに、

「おかえり」

の一言をおくること。

それが戦いに参加しない彼女の毎日の日課である。

あの日

あの時。

彼らに拾ってもらえなかったら。

その言葉を送る相手はいなかったのかもしれない。

だから。

いつも通りの「おかえり」をいうために。

「はやく帰らないと。」

神に助けられた

その少女の日常録。

あと、25mぐらいまで来た所で。

ガッ

「ーーーッ!‼!」

後頭部を何かでなぐられた。

目は見える。

思考もある。

身体が動かないのだ。

耳の後ろにあつい流れを感じる。

「…ゔ」

ドサッ

彼女は力なく倒れた。

「これで、あいつらは…」

不気味な嘲笑が闇夜にこだました。

「おっそいなぁ…リオラ」

その異変に気付いたのは、藍色の髪をした十四歳程度の男。

「確かに、私達より遅いなんて、珍しいな…」

男の考えに賛同したのは、長い金髪の女だ。こちらも、十四歳程度。

神界反逆者プロキオン兄妹である。

まあ最も、反逆などしていなくて神界反逆者というのは、偏見から生まれた戯言に過ぎないのたが。

「仕方ない、探しにいくか。」

やれやれといった様子で金髪の女----ネフィオスがいう。

「ん。そだね。」

男----スラッシュも乗り気のようだ。

二人はまた、暗闇に身を乗り出した。

「は!猫神どものもとで育ったっつっても所詮人間ってか!」

嘲笑う様にいったのは、赤い髪の男。

反ネフィオス派、クラッド・アルギスである。

「…っ‼」

リオラは、廃墟につれこまれていた。柱を背に、後ろで手を縛られている。


どうしよう。

まだ頭がくらくらしてる。


そんな思考を巡らせても、なにも浮かばない。

「どうしよう。」

そう考えるたびに、現実を突きつけられるきがした。

「くく…そんな睨むなよ。お前は殺しゃしない。」

囮にするだけさ。

と、アルギスはつぶやく。


逃げ道は、ない。

不意にネフィオスが立ち止まった。

「血だ。血の…匂いだ。」

ネフィオスは、その匂いを嗅ぎ取った。

猫も、犬程ではないにしろ嗅覚は優れている。

まあ最も、大体の動物は人間よりは嗅覚が優れているが。

「確かに…」

スラッシュもその匂いを嗅ぎ取ったようだ。


あれ…?


スラッシュが鼻をひくつかせた。

「…っ‼ネフィ!これ…リオラの匂いじゃない!?」

焦った声でスラッシュが話しかけた。

「そのようだな…みろ。血だ。これからも、リオラの匂いする。」

冷静にいうネフィオス。

「しかも…間抜けだな。ご丁寧に、道標になってる。」

くく、とネフィオスは、押し殺した笑いをもらした。

「でも、道標になっているってことは、かなり血が出てるよね?!」

スラッシュは、かなり焦っているようだ。

「ああ、早く行った方がよさそうだな。」

ネフィオスの言葉は、いつもと比べれば、焦っているようだった。

「囮…?」

リオラはその言葉を鸚鵡返しに口にした。

「ああ。まだ人間界で飄々と生きてやがる反逆者どもをとっ捕まえるためにな!」

アルギスからかえってきたのは、今までの様な余裕しゃくしゃくの答えではなかった。

苛立ちを隠せないような叫びだ。

「そんな…‼ネフィオスさんたちは違いますっあの人たちは……」

「黙れっ!」

リオラの弁解は、アルギスの鋭い叫びにはばまれた。

「あいつらは、神のくせに魔力を持ってる!!神のくせに人間と共存してる!!!」

「あいつらは、異形なんだよ!!!!」

喉の奥から吐き出す様な叫び。


「そんなことありませんっ!」

リオラは、アルギスの叫びを遮った。

いつもとは違う、凛とした表情。

「あの人たちは、魔力をそんな事に使いません。」

アルギスの目を見据えて言葉を紡ぐ。

と、その時。

ガァンッ

廃墟の扉を蹴破り、二人が入って来た。

「ネフィオスさんっ!スラッシュさんっ!!」リオラは、満面の笑みで二人の名を呼んだ。


大声を出したせいか、すこしくらくらしたけど、

でも、それ以上に嬉しかった。

「来たか!反逆者ども!」

アルギスが挑発する。

「リオラになにするっ…」

トッ…

スラッシュの言葉は、途中で切れた。

いや、切らされた。

一瞬にして近づいたアルギスが打ち込んだ麻酔のせいである。

「スラッシュさんっ!」

リオラの悲鳴。

「いつまでも逃げれてるからって、いい気になるなよ!有名になりゃなるほど弱点も広がるんだ!」

からになった注射器を弄びながら、アルギスが勝ち誇って言う。

「……」

ネフィオスが睨みつける。

「は‼」

鼻で笑いながらアルギスが一瞬にして近づいてくる。

咄嗟にネフィオスは顔の前で手を交差させ、頭をかばった。

「っ!」

ネフィオスが驚愕の表情を浮かべる。

目の前にいたアルギスが地に吸い込まれる様に消え、突然後ろから羽交い締めにされたのだ。

「お前は、兄の方と違って賢いらしいからな…少しずつ嬲り殺してやる…」

アルギスの勝ち誇ったつぶやき。


そうだった。

私としたことが、相手を見誤ったのだ。

こいつは、『地を司る神』…


「ちっ…」

ネフィオスが舌打ちをした。


絶体絶命だ。

まわりを見回しても、役立つ物はなさそうだ。

頼りになるのは、自身の力だけである。

この状態で役に立つ力は一つぐらいか。

『髪の状態操作』

その名の通り、髪の硬度などを操作出来るというものだ。

しかし、これは神業。

神を相手にすれば、威力は半減する。


仕方ない、か…


「?…」

アルギスは、違和感を感じた。


おかしい…反逆者がこの程度で大人しくなる筈が無い。

何か、考えてやがる。


アルギスの予想は、当たった。

ネフィオスの髪がふわりと浮き、一対の刃を形作る。

そして、その刃は、

ネフィオスの両腕を肩から切り落とした。

「んなっ…‼お前、何を!!…死にたいのか!?」

アルギスの焦りと驚愕の混ざった声。

「確かに、自殺行為に見えるかもしれん。だが、お前からは逃げられたぞ?」

見下した様なネフィオスの言葉。

そして、自分の腕を切り落とした刃で驚愕したままのリオラを拘束している縄を切った。

「チッ!」

悔しげなアルギスの舌打ち。

「形成逆転だ。」

痛みを全く顔に出していないネフィオスが言った。

「くくっ…形成逆転だぁ?ぬかすなよ…」

アルギスが押し殺した笑いをもらす。

「助かったのは、人間一人だけじゃねーか!」

そういうと、アルギスはナイフを取り出し、倒れたままのスラッシュの首に刃をあてた。

「神界の麻酔って、案外強いんだね〜」

アルギスのナイフから逃れて、余裕のスラッシュが言う。

「は…?」

頭が追いついていないのか、呆然としたアルギス。

「弱点は広がっていても、それ以外の事は広がっていないみたいだね。こう見えても、レリクのせいで、薬とかには強いよー」

得意げなスラッシュの言葉。

「ひっ…」

怯えきっているのか、アルギスは完全に逃げ腰だ。

ネフィオスが魔法を使うそぶりを見せると、悲鳴をあげて走って逃げて行った。

「醜い奴だったな。」

呆れたネフィオスの言葉。

こうして、神々の夜はあけていく。

「すいません、私の不注意のせいで、怪我させてしまって…」

リオラは、ぴったり90度に腰を折って、謝罪している。

「この程度の怪我は日常茶飯事だ。神の治癒力は、人間の数千倍はあるし、私なら魔法も使えるしな。」

ネフィオスは気にしていない様子で治癒魔法の術式を発動させている。

「そういえば、リオラの怪我は?」

ふと思い出したようにスラッシュが訪ねる。

スラッシュが最も心配していたことだ。

「あ、お前が寝てる間に治しといたぞ。」

治した右手を確かめながら、ネフィオスが言う。

「ああそう…って戦いながら治したの!?」

まあ、ネフィならできなくはないか。スラッシュも、ネフィオスが魔法を得意としているのはわかっているからか、納得した様子だ。

そんな会話を交わしながら、帰路につく。

憂いに満ちたリオラの瞳には、月の光をあびて毅然とした表情を浮かべる二人がうつっていた。


「ありがとう。」


日々は、ゆるやかにすぎていく。


END

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