初狂
雨が降っている。小雨とも豪雨とも呼べない雨が降っている。雨が降りしきる廃墟の街の中に少女が独り立っていた。
「雨―――。私生きているのね」
少女は空を見上げながら放った言葉。それを遠くから見ている黒スーツの男が疑問を言った。
「彼女は何をしているんだ?」
「お前、ここに配属になって何年になる?」
後ろから話してきたのは俺の先輩に当たる人である。先輩といってもこの人が慣れた動きをされるから勝手に先輩と思っているだけで本当は同期かもしれないし後輩だったりする。
その先輩の質問に対して答える。
「調度2週間ですね」
「そうか・・・。」
先輩はスーツの内ポケットからタバコを開け慣れた手さばきでタバコを一本出し口にくわえてライターで火を点ける。雨の中のタバコはいくら傘をさしていても湿っていて不味いと思うが先輩はそれでも吹かしている。
先輩は一回加えたタバコをその場で捨てた。
「新人面は今日までしとおけ、これは警告だ」
「はい、分かりました」
それ以降少女について聞けなくなってしまった。別に後悔しているわけでもない、逆に聞かなくて良かったと思う。後輩が同じ質問してきても死んだ先輩と同じ事を言うだけだろう。
少女は独り何処かに戻っていった。
八時二十五分
夏の暑さが名残惜しく思えて寒くなってきた頃、女子中学の制服も既に衣替えの季節である。
3年生は自分の進路について向き合う時期なのであるが実際はそんなことを考えてるのは極僅かなので考えてないのが殆どである。
教室の中ではそれぞれのグループに分かれて話し合っていた。
「昨日のドラマはいい話だったよね」
「分かる分かる、あの人の演技も重なってよかったよ」
二人で話してると隣の席に一人の生徒が座ってきた。それに気付いた二人はドラマの話をその生徒に向ける。
「おはよう」
「あみちゃんは昨日のドラマ見た?」
杏杏杏は昨日楽しみにしていたドラマのことを思い出した。
「あっ、・・・・見忘れた」
昨日の自分を責めても仕方ないので友達二人に頼んでドラマを見せてもらうことにした。
「あみちゃんは進路決まった?」
「進路?しんろね……。」
しばらく杏は同じ事を呟き上の空になる。
「私もまだ決まってないよ」
「なんだあみちゃんもきまってないだ」
杏の返しに友達の期待にそぐわなかった。なのでそれに似合う理由付けをする。
「そんな急ぐ必要ないしね」
「杏は余裕もっていいよね」
杏はこれには素直に応えられなかった。人と同じ悩みを友達と共有する事を許されていない少女は今日も悩むのである。