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勇者×3+魔王+竜+姫=∞  作者: シロタカ
起の春『物語は終わらない』
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『魔王は宣戦布告される』

 喧噪とは離れた校舎内で、黒川直美は入学式の後片づけを行っていた。

 本来であれば、副会長がするような仕事ではない。副会長ともなれば、全体的な指示や生徒会長の補佐のため、人であふれる中庭に待機しているべきだ。

 元、魔王。

 混沌であり、闇の主。異形の中の異形であった黒川は、人間となってから日が浅い。常識は身につけた。人間ならば、決して踏み外してはいけない道だけは理解している(命を奪ってはいけないとか、心を壊してはいけないとか)。だが、人としての細かい機微まで身につけたわけではなかった。

 先輩だから、後輩だから――そんな理由で仕事を振り分けることを、黒川は理解できない。手が空いている以上、黒川は雑務でも引き受けるべきと考えた。

 そして、今、生徒会室まで荷物を持って向かっていた。わざわざ校舎の中を歩いて移動しなくとも、部屋の窓に向けて跳躍すれば数秒で終わる仕事だったが、それは白船に止められている。保護者とも云うべき白船は、いつものように、「それはいけない」と優しく云った。黒川は首を傾げる。白船の困ったような顔に、不満を抱くわけではない。黒川はそもそも、感情というものがよく理解できないのだから。

「跳んだ方が早いと思うわ」

「そうだろう。でも、人間は普通、そんな動きができるように作られてはいない」

「ええ、そうね。でも、私達はそれができるわ。種族の中ではイレギュラーとも云うべき能力がある。どうして、それを行使しないの?」

「力を隠した方が、僕らも周囲も幸せでいられるからだよ」

 白船は、幸せという言葉をよく使う。

「幸せとは、何?」

 黒川からすれば、シンプルな問いかけ。白船は目線を外して、しばらく考えてから云う。「僕と君が、いっしょに日々を過ごしていけることだ」などと、彼からすれば、それは多少の勇気を持った発言なのだけど、悲しいかな、黒川は気づかない。

 沈黙と静寂は数秒。

 恥ずかしそうに顔を伏せた白船を、黒川は無言のまま抱きしめる。彼の方は慌てた顔になるけれど、その胸元に顔を埋める黒川は気づかない。理解できないことがあった時、こうすれば、『理解できないことがどうでもよくなること』を、黒川はよく知っていた。

「わ、わかった。これ以上の話は無意味だ。片づけは君に任せる」

「白船君、どうしたの。顔が真っ赤よ?」

「……君はいつか、気づかない内に僕を殺すに違いない」

 ため息と共に云った白船に、黒川は天性の天然さを発揮して返す。

「ダメよ。あなたがいないと、私は誰を抱きしめればいいの?」

 白船はもはや何も云い返さず、熱を持った額を手で覆いながら、ふらふらと歩いていく。それでも去り際、「大丈夫と思うが、君も気をつけろ」と忠告を忘れなかった。

 黒川も、その意味ならば理解できる。

 白船は見回りの仕事に出かけた。右も左もわからない新入生とお祭り騒ぎでテンションの高い在学生。楽しい賑やかさも、時にはトラブルを生む。生徒会のメンバーは人の多い所を見回って、問題の発生を防いだり、解決したりする必要があった。

 真面目な性格の白船が、生徒会長として率先して面倒なその仕事を務めることは不思議ではない。ただし、今は事情が異なる。入学式の際、黒川が感じ取った異形の気配。

「……でも、どこか、懐かしい」

 黒川は廊下を歩いていた。

 生徒会室まで、あと少しである。

 黒川は気づいていない。白船が雑務を任せると云った時、そこにはほんの少し、彼の思惑が含まれていたこと。ひと気のない校舎であれば、黒川が面倒に巻き込まれることはないだろうという考え。それは、彼の優しさだった。

 しかし、そんな気遣いは裏目に出てしまう。

「……誰?」

 生徒会室を目の前にして、黒川は曲がり角の向こうへ声をかけた。

 静まり返る校舎内には、誰もいないはずだった。部外者の立ち入りも禁じられ、先生も生徒も大忙しの状況で、校舎の奥にある生徒会室まで人が来ることはありえない。

「見つかってしまいました」

 その声は、春のように温かで、桜のように華やかで、姫のように煌びやかだった。

 しかし、奥底には欠片ほどの邪悪が潜んでいた。

 真新しい制服の一年生、美しい少女――春原優莉。

「はじめまして、先輩」

 春原は丁寧に礼をして、黒川は首を傾げる。

「初対面の下級生から、ぶしつけなお願いで大変恐縮なのですが……」

 春原は確信していた。

 邪神と共にある彼女だから、邪悪な気配には誰よりも敏感なのだ。

 もちろん、入学式の際には、生徒会長にも強大な力は感じ取った。だが、彼には邪悪な気配はなかった。むしろ、太陽のような光を感じた。それに比較して、目の前にいる副会長からは、混沌と闇の気配ばかり立ち上る。

 春原は迷わない。

 守られるだけの自分ではなく、守るため――。

「死んでください」

 姫と魔王は出会ってしまった。

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