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勇者×3+魔王+竜+姫=∞  作者: シロタカ
転の秋『七番目の主人公』
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『九月十日 晴れ』

 小見出しを日付にすると、まるで日記のようだ。

 ついでに、天気も書いておく。

 ところで、あなたは子供の頃のことを覚えているでしょうか。いえ、そこまで昔のことでなくともいいかな。例えば、一週間前の昼食を覚えていますか。靴を履く時は左右どちらから? 両親の生年月日や小学校の校歌はどうでしょうか。

 意外に、覚えていないことは多いもの。

 僕もそうです。

 思い返して、思い出せるならばいいのですけれど、時に、数千年、数万年前のことに思いを巡らせると、なかなか大変なことに気づいてしまいます。

 だから、僕はこうして記述する。

 そういう意味で、この物語は、僕の日記に等しく、それを誰の目にも留まる形で公開することは、不特定多数に赤裸々な恥を「見て」と開け広げるようなもので、すわ、変態かと叫ばん気持ちになるけれど、そういえば、僕は「この変態!」と叫ばれることも多い。

 そんな罵声に、さらに号泣と悲鳴までブレンドされたこともある。

 その時の僕は、「ああ、もう、この極限状態であれば、男でも女でもいいじゃないか。いや、むしろ、男の方がアリなんじゃないか。うん、そうである」などと、確かにどうしようもない思考に陥っていたから、云い訳は不可能だ。

 そんな変態である所の僕だから、プライベートな日常をこうして綴って、皆々様へ「さあ、こんな私を見て」と、どうしようもなくオープンするわけなのか。

 ふむ。

 卵が先か、鶏が先か。

 プライベートを記述すると云えば、ある意味、物語の語り部として世界的な有名人であるワトソン氏が思い出される。氏について言及することは愚かであるけれど、念のために説明しておけば、同居人であるシャーロック・ホームズと過ごした日々(主に事件が主体ではあるけれど)、それを綴った日記――ではなく、物語は有名すぎるほどに有名だ。

 僕の目指す所と云っても過言ではない。

 だから、物語は続く。

 ん? ああ、いや……そんな云い方は、ちょっと格好を付けすぎか。昔から、大言壮語な文章を書き過ぎると注意されてきた。普通が一番。そんな風に云われて、毒気も味気もないふやけた煎餅のような文章にチャレンジしたこともあるけれど、それはそれで評判が悪く、やるせない気持ちを誰にぶつければいいのか、悩んだことも懐かしい。

 うん。

 ここらで、肩の力を抜こうか。

 友の助言を思い出したことも理由のひとつではあるけれど、夏休みの戦いを終えて、神である僕は役割を終えてしまったような所もあり、どうにも、身が締まらないのだ。

 あらためて。自己紹介。

 はじめまして。名乗りが遅くなりました。この物語の記述者であり、語り部たる〈僕〉であり、ただの登場人物の一人に過ぎない神というキャラクターです。

 よろしく。

 そして、今――九月。

 二学期も問題なく始まり、十日を数える本日、快晴。

 まだまだ残暑も厳しいけれど、どこか日差しも丸くなったように感じられる。運動部所属の生徒は夏休みにたくさん練習したことがわかる、真っ黒な日焼け。休みボケもさすがにそろそろ解消されてきたようで、校内の声も活気と元気が増してきている。

 進学校であるから、休みが明けてすぐに実力テストがある。

 しかし、それを乗り切れば、すぐに文化祭の準備だ。

「悪くないね」

 僕は独り言を漏らして、あくび混じりにノートパソコンの蓋をする。

 それを小脇に抱えて、ぶらぶらと廊下を進んだ。授業時間であるから、廊下は閑散としている。教室の前を通れば、授業の声。冷やかしに覗いてみたり、廊下で授業のない先生とすれ違ったりするけれど、僕の存在が気づかれることはない。

 この世界で、僕を知覚できる人間は、六人だけだ。

 人間?

 いやいや、彼らの希望でそんな風に記述するけれど、夏休みの四十日間に渡る世界の命運を賭けた戦いを経て、六人の存在のステージは遙かな高みに昇っている。わかりやすく云えば、僕はラスボスで、それを倒した彼らはエクストラステージに到達した感じ。

 人生――あるいは、世界の隠し面と云うべきか。

 僕は神だ。

 僕を倒した六人は、当然、神にも等しい。

 正直、僕が彼らの誰か一人に、「はい、交代」と云えば、その瞬間に神の役目が入れ替わるぐらい。馬鹿馬鹿しいと云われそうだ。僕もそう思う。神はもうちょっと、崇高で、重々しい役目のはずだろう。

 だけど、そんなものなのだ。

 神なんて、その程度なのだ。

「ミズキ、何しているの?」

「ん? ああ、お前か」

 校舎の中が退屈で、何気なく運動場を目指して歩く途中、彼女に遭遇した。

 うーん。

 物語を記述する者として、こうした時、どんな風に描写するべきかという問題は非常に難しい。僕自身の気持ちから入るべきか、そうした感情を省いて客観的に書くべきか。

「なんで、首を傾げているんだ?」

「いや、ミズキのせいだよ」

 僕は苦笑した。

 彼女も首を傾げれば、ボーイッシュな髪から、水が滴った。

「俺のせい?」

「……水着だからねえ」

「水着で悪いか?」

「学校だからねえ」

「水泳の授業とかあるだろ?」

「ここはプールじゃないからねえ」

 相変わらず、埒の明かない会話である。

 相変わらずね。

「まあ、いいや。水着似合っている。かわいいよ」

「へー、そうか。そんな風に云われたのは初めてだ」

「へー。逆に、へー。カオルから褒められない?」

「うん。この格好で抱きついたら、突き飛ばされた。嫌いみたいだ」

「あー、そりゃもう。あー」

 噛み合わない二人である。

 僕としては、歯がゆい。

「むしろ、ミズキは威勢よく、全部脱いでしまえ」

「はあ?」

「お前とカオルだと、それくらいしないと話が進まない」

 ここら辺、神は楽である。

「状況を整えてやろう」

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