『夏休みのあらすじ』
それは、神と少年少女の戦い。
三つの物語が、かつてありました。
三つの物語は、既に幕を閉ざしました。
勇者と勇者と勇者と魔王と竜と姫は、現代日本の平凡な高校を舞台に、ただの人間として、ごく普通の日常を過ごしていました。彼らは云うでしょう。そこにはドラマもなく、胸を踊らせるような冒険もなく、世界の存亡を賭けるような戦いもなかったと……。
けれども、彼らは力を持つ者です。
戯れに時間と空間を操り、世界の運命すら右へ左へ好き勝手にできる六人。
例えば、彼らは世界の壁を突破しました。勇者の三人からすれば、自分の元いた世界へ帰還するため、当然の努力をしたというところでしょう。それでも、それは世界の理を歪めるような、奇跡的ではあるけれど、それ以上に無視できない危険性なのです。
さらに云えば、彼らは、ヒロインを伴いました。
魔王と竜と姫――異世界における神にも等しい存在です。
彼ら六人は気づいていたはず……否、気づいていました。
気づいていたのに、気づかない振りをしていた。心のどこか、奥底では、彼らが帰還したこと、彼女らが世界を移動したこと、その歪みがぎしぎしと世界を痛めつけていることに、かすかに嫌な予感ぐらい覚えていたはずなのです。
だから、もう一度、物語の幕は開きます。
開くしかありません。
――僕の手で。
夏休み、四十日間。
それは、ひとつの物語。
神が、神にも等しい少年少女に挑んだ物語。
この世界を預かり、悠久の時を管理してきた存在として、神は――僕は、死力を尽くしたと云えるでしょう。六人の存在を滅するか、神にも等しい力を消失させるか、時に時間を遡り、時に運命に干渉し、最終的には世界そのものがバラバラになりかねないレベルの死闘を繰り広げました。
少年少女からすれば、神は、新たに立ち塞がった敵なのでしょう。
しかし、僕からすれば、彼らこそ世界のバランスを崩す異分子でしかありません。
四十日間の戦い、色々なことがあったけれど、それらは語る必要のないことです。言葉にすべき事柄は、戦いは決着したということだけです。
再び、物語の幕は閉ざされます。
――ああ、くだらない。
それが、僕の率直な感想。
最初から、勝機など、欠片も存在しなかったのですから。
これは結局、予定調和の結末――六人は、神を殺さなかった。
僕は負けて、存在自体が虚無に溶けていこうとする中で、六本の手が身体を強引に引っ張り上げて、「どうして?」と尋ねる言葉には、「なんとなく」という竜の声や、姫の苦笑や、勇者のため息ばかり向けられて、何の意味もなく、漫然と、物語は続いてしまう。
夏休みの間、神と少年少女の戦いがありました。
神は敗北して、相も変わらず物語の記述者として、秋を迎えます。
――そう。それだけのあらすじ。
「お疲れさま」
黒川は、そう云いました。
物語はもう少しだけ続きます。




