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勇者×3+魔王+竜+姫=∞  作者: シロタカ
承の夏『ループ系異常的日常』
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『ホワイダニット』

 四度目の七月。

 数日が経過して、その放課後。

 斜陽に染まる教室にて、浅葉はしばらく物思いにふけっていた。

 しかし、思考はすぐさま遮断される。口を塞がれた。諦めの境地。浅葉は抵抗することなく、それを受け入れる。「深山……」と、ほんの一瞬、唇が離れた時に云ってみるけれど、腹を空かせた彼女は頓着せず、すぐにもう一度、抱きしめるように顔を寄せて来た。

 二人以外に、誰もいない教室。

 浅葉は椅子に座っており、深山はその膝の上だ。

「ごちそうさま」

「……うん」

 小言を云う気力もない。

 しばらく息を整えた後、考え事に戻ろうとする。

「どうかしたのか?」

「会長だけに、考えさせてばかりはダメだからね」

 浅葉は真面目に振る舞おうとするのだけど、食事を終えて満足した深山は、膝の上から退こうともせず、遊び足りない猫のように絡みつく。放課後になって、冷房の切れた教室は蒸し暑い。二人だけとは云え、熱気も立ち込めている。深山は気にしないようで、「人間は、鱗がないから、楽だな」などと、お気楽に笑っている。

 一方、浅葉は、色々な意味で必死だった。

 頭の中では、古文の活用形を無心で唱えていたりする。

 見た目こそ誰よりも愛らしい女の子だが、中身はきっちり、年相応の男子なのだから。

「それで?」

 深山は、浅葉の耳を噛みながら云った。

「……ん?」

「だから、なにかわかったのか?」

 意識を彼方へ飛ばしていた浅葉は、一瞬、反応が遅れてしまう。

「カオル、どうかした?」

 深山は心配そうに、いつものように抱きしめてくる。膝の上に乗ったままだから、自然、浅葉は彼女の胸元にぎゅっと押しつけられる形。高校二年生である割に、小柄な深山であるけれど、浅葉が慌てふためく程度には、発育はいい。

「深山!」

 叫んで、押し返す。

 怒られた理由がわからないようで、深山は目を白黒。

「もう、いい加減、常識を覚えてよ」

 浅葉は大きくため息をついた。

 蒸し暑さのためか、なんなのか、その顔は真っ赤だ。

「あ、カオル、かわいい」

「……怒るよ」

「ごめなさい」

 深山が頭を下げて、閑話休題。

「本当に、僕達の中に犯人がいると思う?」

 浅葉は考えていたことを、そのまま問いかけた。

 犯人が誰か――それ以前に、犯人がいるのか。根本的な問題である。そして、そんな根本がぐらぐらと揺れているから、思考の筋道も定まらない。単純に、犯人が六人の中に絶対にいるのだと、さながら推理小説のように談じられたならば、冷静に、怜悧に、ある種の残酷さを持ちつつ、考え事に興じられるのだろうけれど、今はまだそこまで至らない。

 だから、浅葉は悩んでいる。

「もしも、犯人がいるとして……」

 深山は明日の天気でも語るように、気楽な口調。

「そいつは、何のために七月を巻き戻すのかな?」

 黒川が説明したように、犯人など存在せず、世界の自浄作用によるループならば、理由は考える必要もない。しかし、犯人がいるならば、「なぜ?」という問いかけは必須だ。

 すなわち、動機。

「例えば……」

 浅葉は問いかける。

「もしも――もしも、仮に、僕や深山が犯人だとして、七月を何度も繰り返すとすれば、どうしてそんなことをするかな。僕達は、そこそこ長い時間、生徒会室なんかに集まって一緒に過ごしているよね。四月、五月、六月……大した出来事もなく、普通の高校生らしい毎日を送ってきた。七月もそうだった。何も変わらない。何も変わらない日々。どうして、この七月になって急に、時間を巻き戻す必要があったのかな?」

 浅葉は深く考え込む顔だが、深山は間髪入れず、あっけらかんと答える。

「楽しかったからじゃないか?」

「……楽しかった?」

「楽しいことは、長く続けたいだろ」

 永遠。

 繰り返しのループ。

 異世界で、浅葉と深山は、人間と竜の永きに渡る争いを終わらせた。戦いの裏側には、影で糸を引いていたヒノワ教団という勢力がいた。彼らの最終目的が、一言で云いあらわすならば、『永遠』だった。

 それは最初、竜の秘宝を利用して、ヒノワ教団の教祖が永遠の命を得ることだろうと思われていたが、実際は、時間をループさせて、疑似的な『永遠』が続く世界を作り出すことだった。まさに、今、六人が陥っている状況がそれだ。一定期間が永遠に繰り返されるならば、生すらも死すらも、際限なく続く。ぐるぐると回り続ける『永遠』の世界。

「でも、僕達はそれを否定した」

「そうだな」

 浅葉が云えば、深山はうなずく。

 生も死も繰り返され、変化もなく、進歩もない――そんな世界を、二人は拒んだ。

「だらだらとした毎日を繰り返しても、いつか飽きるよ」

 深山は笑った。

 ほんの一瞬、阿呆な女子高生ではなく、唯一無二の始原竜の雰囲気に変わる。

「悲しいけれど、俺達は……偶然ここに集った六人は、そんな『永遠』すら自由にできちまう。犯人がいたとして、その動機はくだらないものじゃないかな。『永遠』を目指そうなんてご大層なことじゃあない。ただ単に、楽しいから、ちょっとの出来心で一ヶ月を何度も繰り返す――それができてしまう悲しい生き物なんだよな」

 しばらく、静寂。

 深山は、ぽつりと云った。

「七月が終われば、夏休みだ――しばらく、みんな、会えなくなるな」

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