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勇者×3+魔王+竜+姫=∞  作者: シロタカ
承の夏『ループ系異常的日常』
20/34

『フラグ管理』

 冬木は、職員室で土下座していた。

 なぜ、こんなことをしなければいけないのか。

 全ての元凶――計画の発案者は、白船と春原だ。春原はパートナーであり、彼女の行動や考えについて、冬木は今さら何も思わない。ならば、もう一人の方、白船はどうか。

 三年生であり、生徒会長。

 学年や年齢、役職など、そうした要因だけでも、敬うべき相手だ。

 しかし、冬木は悪鬼と呼ばれた不良であり、学校の教師だろうと平気で殴りつけてきた。年長者だから、生徒会長だから――その程度では、従う理由にはならない。

 ここ最近、冬木は不思議な気分を味わっていた。

 異世界で、物語にすればハードカバーで三冊以上にもなるだろう長い戦いを経験した。そうして、この世界へ帰還した後、冬木が手にしたものは喪失感だった。過酷な戦いを経験したから、平穏がどれだけ尊いものか、深く実感している。けれども、過ぎた力を身につけた今、何もない――からっぽのような毎日を続けることが、酷く虚しかった。

 あれだけの経験をした。

 だが、これから先に、あれ以上の物語は待っていない。

 いつか同じ境遇である白船や浅葉と三人になった時、冬木は雑談混じりに尋ねた。

「これから、どうします?」

 漠然とした問い。

 春の陽気に、思考も溶けていた。

 白船と浅葉は、大して意味深にもとらえず、あっさり答える。

「まあ、どうにかするさ」

「深山の面倒は大変だからね……」

 二人共、苦笑しながらため息をついていた。

 何でもない一瞬だったが、冬木は不意にそこで、同じような体験を経て、同じような立場にある二人は、既にこれから進むべき先を見ていると思い知った。冬木は胡乱に、迷うともなく迷っていたけれど、彼らは、手を取り合うパートナーと共に、何でもない、物語にもならないような物語――平凡な人生を歩み始めようとしていた。

 だから、冬木は彼らを尊敬した。

 とはいえ――さすがに、文句を云いたい気分にもなる。

(本当に、こんなことに意味があるのか?)

 白船曰く、六人の中に時間のループを仕掛けた者がいないと仮定した場合の解決策である。仮定に基づくため、策も多岐に渡っている。六人で話し合い、できる限り、それらの解決策を同時並行で進めることに決まっていた。

 冬木が他人の不始末のため、わざわざ職員室で土下座することも解決策の一環だ。

「時間が通常ならば一方向にしか流れないように、世界は理によって動いている」

 神を殺して地位を奪い、魔王であった黒川――六人の中でも、世界構造に一番詳しい彼女が、まず最初に見解を述べたものだ。

「世界の自浄作用……私達は、イレギュラーな存在。力のレベル、異なる世界を渡ったという経緯――おそらく、一人だけでも世界の理を揺るがしかねない存在。それが、偶然だろうけれど、六人も集っているという奇跡的な状況。当然、世界は歪む」

 ぐにゃり、と。

 何かをねじ曲げる仕草を、黒川は取った。

「自然の摂理。歪んだ世界は、元に戻ろうとする」

「つまり、そうした自浄作用が、このループというわけか?」

 白船が尋ねた。

 六人はそれぞれ、七月中の行動――最初の一回目を振り返っていた。少なくとも、入学式からの数ヶ月、時間がループするなどという不思議な現象は起こっていない。世界が歪んだと云うならば、この一ヶ月で何かのイベントがあったと考えるべきだろうが、誰にも、特に思い当たるような出来事はなかった。

「もちろん、世界が歪んだという自体、根拠のない推測に過ぎない」

 黒川は云う。

「あくまで、可能性として、そうした理由でループが起きる可能性もあるということ」

 黒川は、手元で、さらにねじ曲げる仕草を取った。

「時間をループさせることは、さらに世界の理を歪める行い。歪みを、歪みで正そうなんて、愚かしい。理屈としては、無理がある。だけど、この六人が誰も世界の理に手を出していないならば――ええ、まずはループが発生している原因から探ろうと云うならば、世界そのものが犯人と仮定してみることも、無駄ではないでしょう」

「つまり、自然現象ということですか?」

 思案する顔で、浅葉が確認する。彼の横では、ほとんど最初から話について行くことを諦めた深山が、さらに横隣りの冬木へ消しゴムを千切っては投げ、遊んでいた。

 黒川の話を受けて、白船と春原は考え込む。

 六人の中では、彼ら二人が主に参謀役だ。

「それでは、世界を騙してみましょうか?」

「特定のイベントがキーになるかも知れないが……」

 そうして、冬木は土下座している。

 静まりかえる職員室の中、白船が嬉しそうに云った言葉を思い出す。

「これはすなわち、世界に対し、僕らが『普通』であると示す作戦だ」

 例えば、冬木は悪鬼の汚名を返上するし、深山は各種の運動部の助っ人をやめる。春原も人間関係にミスを犯すこともあれば、浅葉はちょっと男らしくなる。普通、普通、とにかく普通に振る舞う――もちろん、六人の行くところにハプニングやトラブルは暇もないが、既に過ごした一ヶ月であるから、常識的な行動の範疇で全て解決することも可能だ。

 春原による綿密なスケジュール管理のもと、六人は七月のイベントを消化してみた。


 結果、残念。


 発想は面白いが、そうではないのだ。


 二回目と三回目の七月を、彼らはそんな風に過ごしたわけだが、結果としてループは繰り返される。第四週目――少々、飽きも感じられてきた。間延びされた日常、繰り返される同じ日々には、変化もなく、危険もなく、物語の起伏も感じられず――。


 ――やっぱり、犯人がいるのではないか。


 再びの疑心暗鬼も立ち込める四度目のチャレンジ、さて、スタート。

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