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勇者×3+魔王+竜+姫=∞  作者: シロタカ
承の夏『ループ系異常的日常』
19/34

『イベント消化』

「ユーリ」

「はい、深山先輩」

 放課後になったばかりの廊下を、異なる意味で目立つ二人が足早に進んでいた。

 胸を張って廊下の真ん中を歩く深山は、ごく自然に人を退ける。見た目には小柄で可愛らしい少女だが、入学からの数ヶ月で、荒っぽい気性は学校中に知れ渡っていた。

 その反面、様々な運動部の助っ人として、スポーツが不得手なこの進学校を躍進させており、恐れられる以上に慕われていたし、頼りにもされていた。

 今も、廊下を進む最中――。

「あー、深山先輩!」

 彼女は、どこかひとつの部活に所属しているわけではない。

 たくさんの運動部に助太刀しており、その分だけ顔が広くなる。

 そして、基本的に弱小のこの高校で、圧倒的な身体能力で八面六臂の活躍をする彼女は、勝利の女神として立派に認知されている。特に、下級生からの支持は絶大だ。

 道行く先々で飛んでくる歓声に対して、深山はぞんざいに応じるのだけど、それすら、「きゃー」という黄色い声に包まれてしまう。

 なんだかんだ、深山は面倒見がいい。

 頼られたならば、絶対に断らない。当然、そんな振る舞いは、白船や浅葉に頭を抱えさせる問題に発展するのだけど、彼女は頓着しない。「だって、助けを求められて断るなんて、俺にはできない」と云って、いつでも、誰にでも、手を差し伸べる。

 白船など、盛大にぼやいたものだ。

「どちらが勇者か、わからないな」

 冗談のような皮肉。

 しかし、それはある者からすれば、笑える台詞でもあった。

「今日の予定は?」

 深山は、春原に尋ねる

「最初に女子バスケ部の練習アドバイス、途中で抜けて、二組の女子の喧嘩仲裁に入り、それからカズマと合流して、夜の校舎の幽霊騒ぎの解決です。私は、喧嘩の誘発役ですから、女子バスケ部を抜けるタイミングは覚えておいてください」

 すらすらと説明。

「うわー、面倒くさい」

 ぼやく深山に対して、春原は微笑む。

「おい、あれ、ユーリだろ」

「すげえ、本物だ」

 深山だけでなく、彼女もまた、注目の的だった。

 入学して間もなく、街中でスカウトされて始めたモデル稼業がヒットし、今やユーリと云えば、ちょっとした世間の話題の中心なのだ。モデルの仕事だけでなく、多方面に着々と活躍の場を広げている彼女は、まさに時代のアイドル。

「表の顔と裏の顔を使い分ける仕事が、なんだか性に合っているようです」

 いつかそんな風に淑やかに云った彼女に対し、三人の勇者は沈黙したものだ。

「夢が壊れるな」

「そうですね」

「なんか、すいません」

 白船と浅葉に、冬木が謝った。

 そんな冬木も、「カズマには何一つ不自由のないように、私がたくさん稼ぐから」と、春原から屈託のない笑みを向けられ、さらに全員から「……ヒモ」と云われ、撃沈した。

「おーい、深山」

 歩く先々でとにかく人目を集めている二人組に、廊下の向こう側から、浅葉の声。

「ああ、カオル」

 浅葉が駆け寄って来る。

 深山は元気よく手を振り、春原は淑やかに礼をした。

「カオル先輩は、お一人ですか?」

「これから会長と合流予定だよ」

 浅葉と春原が会話する間に、深山は嬉しそうに抱きついていく。

「仲がよろしくて……」

 春原が、そっとため息。

「ちょっと。深山、やめて……」

「カオル、お腹すいた」

「ここで! 勘弁して」

 浅葉は顔を赤くしながら後退する。

 深山の竜としての食事については、春原を含め、全員が承知している。それによる、入学式での冬木に降りかかった『災難』も全員の知る所であった。他意はなかったということで、不問にされた件ではあるけれど――。

「後ろを向いていましょうか?」

「学校の廊下ではやらないよ」

「……そうですね。家で、二人きりでされるといいですね」

 艶然と笑う春原に対して、浅葉は、「あ、いや、その……」と、しどろもどろ。

 常識のある彼は、深山が冬木にやらかした一件について、多少の負い目があった。

「ここに居たか。時間がないぞ」

 その時、廊下の奥から、白船の呼び声が響く。

 浅葉は救われたとでも云うように、「じゃあ、そっちもがんばって」と去る。

「……お腹すいた」

 深山は静かに云いながら、春原の方に振り返る。

 さすがの彼女も、一歩退いた。

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