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勇者×3+魔王+竜+姫=∞  作者: シロタカ
承の夏『ループ系異常的日常』
17/34

『夏休みは遠すぎる』

 七月の第四週である。

「さて、今日は何日だろうか?」

 白船の問いかけに、答える者はいなかった。

 昼休みの生徒会室で、いつもの六人は勢揃いしている。真面目な雰囲気を漂わせているのは白船の一人だけであり、他の面々と云えば、とにかく騒がしかった。

「おい、カズ。その肉、よこせ」

「嫌です。浅葉先輩、なにか云ってください」

「深山、他人のお弁当を取るのはよくないよ」

 冬木を間に挟んで、浅葉と深山。

「コーヒーがいい人、紅茶がいい人は?」

「ああ、お姉さま、お手伝いいたします」

 無表情にコーヒーを淹れる黒川に、春原は自然な仕草で寄り添う。

 学生の昼食風景として、ごく自然な賑やかさ。

 もちろん、彼ら三組は学年もバラバラだ。場所も生徒会室であり、一般的な学生の集まりとしては不自然。だが、彼らはどう考えても一般的な存在ではなかったし、彼ら自身もそれを自覚していた。それゆえ、六人の間には、いつしか強い結びつきも生まれていた。

 この春、入学式の日に出会い、暦の上では四季のひとつを共に過ごした。

 これまでの数ヶ月間は、拍子抜けする程、平穏な日々が流れている。

 とはいえ、それは彼らの感覚による『平穏』だ。世界の存亡をかける戦いを繰り広げた六人からすれば、例えば、深山が女子バスケットボール部の助っ人として県内屈指の強豪校を打ち破ったり、冬木に過去の因縁であれこれ難癖つけてきた不良グループを全員で一蹴したり、春原がスカウトされてアイドルデビューしたり――ただの高校生ならば、本一冊程度にはなるだろうイベントの数々も、「その程度」という認識で過ぎ去ってしまう。

 一番の常識人である白船など、明らかにやりすぎることの多い面々に対し、「頼むから、普通にしろ」と声を荒げることも多いのだけど、基本、のれんに腕押し。深山は「まあ、楽しいからいいじゃないか」と笑い、冬木は「面倒」と云う。黒川は相変わらず何を考えているか、付き合いの長い白船にも未知の部分が多く、春原はそんな彼女に寄り添って、底知れない笑顔で小言を受け流す。

 彼らに比較すれば、浅葉は白船の立場に近い。だが、生来の押しの弱さもあってか、深山や春原にいつもやりこめられているから、結局、白船が奮闘するしかないのだ。

 出会ってから程なくして、彼はひとつの目標を掲げていた。

「僕達は、普通に生きるべきだ」

 再三、これまで繰り返した台詞を、今日も叩きつける。

 弁当やらコンビニのパンやら、皆の昼食が広がっている生徒会室の作業机を、白船は声高く叫びながら手で打った。ばしんと勇ましい音。彼自身の気迫もあって、普通ならば歴戦の戦士でも気圧されるような状況――ただし、この場に普通の者は一人もいない。

 振動でぐらりと倒れかけたコップを、深山と冬木は常人離れした反応速度でキャッチ。

 白船の叫び声に対し、春原は耳を塞ぐ代わり、音の波を遮断する魔法を唱える。

 黒川はただ一言、「うるさいわ」とつぶやく。浅葉は右往左往している。

「――」

 白船は何事か叫ぶけれど、春原の魔法で音が消されていた。

「――ああ、まったく。ふざけるな」

 白船は、己の身体の内に眠る聖剣を抜き放つ。

 そうして、魔法の効果を斬り裂いた。

「先輩、飯時に剣を抜くのはちょっと……」

 冬木は箸を向けながら、ぼやく。

「私としては、あっさりと魔法効果を打ち消されるようになってしまったことが悔しいですね。それに最初の頃ならば、生徒会長は間違ってもレディに剣を向けるような……」

「僕はもう、君達を女性扱いしないことに決めた」

 白船は聖剣を一振りして吠える。

「えー、私も?」

 深山が、とばっちりだとでも云うように、声を向ける。

「……こう云っては失礼だが、深山君こそ、女性扱いしていては身が持たない」

「ど、どういう意味だよ」

「そのままの意味だよ、深山」

 吠え猛って立ち上がる深山に対し、浅葉が悲しげにつぶやく。

「ミズキ先輩よりも、カオル先輩の方が女の子らしいですもんね」

 邪気のない笑顔で、春原が爆弾を投げ込む。

 なぜか、白船がむせた。

「会長は、浅葉先輩に弱いですよね」

 他意なく、素直な感想を漏らしたのは冬木である。

 浅葉は顔を伏せた。黒川と深山は不思議そうに首を傾げ、春原は笑っている。

 白船は、さらにむせる。

 誤解は解けている。

 出会った最初に白船の別人格がやらかした件について、浅葉も謝罪を受け入れている。両者の心に色々な意味で深い傷を残した事件だったが、極力思い出さないように、ほとんど「なかったこと」扱いにして、これまでやり過ごしてきた。

 だから、白船は必死に気持ちを切り替える。

「さて、みんな……」

 咳払い。

 そして、眺め回す。

「今日は、何日だ?」

 七月の第四週。

「七月一日よ、白船君」

 黒川が静かに答えた。

「そうだ。その通り、僕達はまたこの日を迎えた」

 云い切って、白船はため息をついた。

「七月の第四週目――僕達はあと何回、この一ヶ月を繰り返せばいい?」

 今日は、四度目の七月一日。

 ループする日常に囚われた六人は、夏休みに到達できないでいた。

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