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王家の帰還  作者: chappy
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ルナの航跡 14

第3章《出撃》(3/5)


 ルナがリモーとの不愉快な会話を切り上げてフェルチアに艦内を案内されていた頃、一機の輸送機が空母への着艦コースに入っていた。戦闘航空隊にやや遅れて、カク・サンカクが山のようなパーツ群とともに到着したのである。空母から発着できる飛行機としては、限界ぎりぎりの大きさを持つ輸送機は、図体の割に華奢に見えるフックを甲板のワイヤーに引っ掛けて停まった。すぐに書類を携えて甲板に降り立ったカクは、発着艦ブリッジに入ったところで甲板仕官に迎えられた。

「配属指令書を提出してください。」

事務的ではあるが、何物も見逃すまいとする鋭い視線がカクを見据えていたが、当のカクは気にもとめない。というよりも、他に興味の対象があり、仕官の言葉など上の空の様子であった。書類を仕官の机に置きながらも、カクの視線は辺りをさまよい続けている。甲板仕官はカクの振る舞いを怪訝な目で見てはいたが、役目の遂行に徹することに余念は無い。

「ルナ隊整備士、カク・サンカクですね。」

「ああ、そうだよ。この船の外装は炭素繊維の表面に金属加工したハイブリッドコンポジットらしいね。」

「輸送機の積載物は、書類に記載されたものと相違無いですね?」

「タイガー・ルナは、駆動系を含めて八割以上が炭素繊維さ。原型機よりニ割は使用率が上がっていて、エンジン一機分は軽量化したんだぜ。」

「ウチの監査係がこれから輸送機を検めます。立会いますか?」

「そうだね。確かにそれでエンジン一機分ってのは少ないよね。悪かったよ。二割っていうのは、部品点数の比率で、重量比率じゃないんだよ。いや、騙すつもりじゃなかったんだ。」

「輸送機の他の搭乗員は中で待機中ですか?」

「それよりさ、この艦のエンジンは共鳴式の加給機が付いてんだって? 見せてよ、是非!」

最新式の空母に来てカクの目は輝いていたが、あまりに話が噛み合わないので、甲板仕官は会話の継続を断念した。

「ルナ隊長からご伝言を預かっています。何でも旋廻補助機能の同期がうまく行っていないとか。詳しくはこのメモを見てください。」

仕官が取り出したメモをひったくってカクが吼えた。

「大したもんだよ、隊長は! エンジン出力の個体差を吸収するソフトウエアの開発に手間取ってね。諸元表のスペックだけで調整したんだ。当然の結果だけど、誰でも気付くレベルじゃないものを!」

甲板仕官は既にカクの話を聞いていなかった。部下に輸送機の臨検を指示し、カクを先に到着していたルナ隊の隊員が待機している部屋に案内しようとした。

「いいよ、別に。先に格納庫に連れてってよ。すぐにタイガー・ルナの調整を始めるから。」

既に何を言っても無駄と悟っていた仕官は、言われるままに格納庫に向けて歩き出したが、カクの口は未だ止まらない。

「調整ソフトはもう完成しているんだ。どんな誤差も見逃さない精度さ!」

カクは、彼の言葉に耳を貸さず無言で先を急ぐ士官の背中を捕まえて振り向かせた。驚いた仕官は無視した無礼を謝罪しようとしたが、カクの顔が笑っているのを見て、何も言わずにカクの次の言葉を待った。

「この船のエンジン、動力室を見せてくれるよな?」

仕官は溜息が出てしまうのを止められなかった。

「艦長の許可が必要です。ルナ隊長経由で申請してください。」

もう甲板仕官が振り返ることはなかったが、カクの口が閉じられることもなかった。


「隊員諸君。」

ブリーフィングルームの壇上から、ルナが呼びかけるように話しはじめた。彼自身が昨夜受けたブリーフィングを咀嚼し、隊員に伝えるのだ。三十九名の航空隊隊員と航空隊直属の六名の甲板要員が神聖な面持ちで聞いている。二十名を越える艦所属の甲板要員は後方で静かに座っており、整備スタッフは壁面のベンチから眺めている。

「所属の違いはこの際無視しよう。皆のベストパフォーマンスのみが作戦を成功足らしめる。」

航空隊所属の甲板要員には、先般ルナ隊への編入を希望した女性仕官、フェルチアも含まれており、感激の余り涙目になりながらルナを見つめていた。

「では副隊長、説明を頼む。」

ドーバー戦役の時に副官を務めた歴戦の勇士が、ルナに変わって壇上に上がった。

「戦友諸君、機は熟した。」

本来、彼の方がルナより指揮官には向いているのだろう。如何に歴戦の勇士とは言え、皇族の血統を継ぎ王家の秘蹟を受けたルナには、パイロットとしての腕は劣るだろう。それでも、通常のパイロットとしては、限界地点にいるのは間違いない。彼をはじめ、ドーバー戦役時代のパイロットが殆ど参集したのは幸運と言うべきかもしれない。増強したパイロットもその多くがブリタニアから召集した兵であり、ルナに鍛えぬかれている。航空編隊としては、磐石と言えるだろう。

「我が空母戦闘群は現在、北方の海域に向かっており、明日未明に出撃する。」

ブリーフィングルームの空気が緊張に包まれ、それを確認してから副官は続けた。

「王国は神聖同盟に対して、既に北方の半島に配備している爆撃隊と陸上部隊でニ面攻撃をかける。我が隊は、爆撃隊の先導防衛と、地上部隊の防空援護を担当する。地上部隊の援護には、敵地上防衛部隊をかく乱し、友軍の侵攻支援も含まれる。」

静まり返った室内に、空母のメインエンジン音が低く響いている。

「第一から第四編隊は爆撃機援護にあたり、ルナ隊長が指揮する。第五から第七編隊は地上部隊支援で私が指揮する。第八編隊は艦隊防衛として旋廻飛行にて警戒待機。」

副官がルナに視線を送って締めを促した。

「艦隊勤務者にはこの後に俺が個別に詳細を説明する。航空隊の編隊長は残って副官から詳細の説明を受けること。何か質問は?」

隊員の昂ぶりに艦が応えるかのように、エンジン音が高まった。いよいよ作戦海域に向け、加速したのである。

「隊長!」

ルナ隊に編入したフェルチアが起立して発言を求めた。ルナが手を振って続きを促す。

「今回の任務でも作戦中に補給が有り得ます。給油装置が新型になっている関係で、給油手順の見直しが必要です。ご説明しますので検証して頂けませんでしょうか。」

ルナと副官は顔を見合わせた。ひょっとするとこの女性仕官は拾い物だったかもしれない。

「良かろう。補給要員も同席させるか?」

「それが望ましいのですが、連日の訓練で疲弊しておりますので、私だけで結構です。」

「よし、詳細のブリーフィングの後に行なう。」

「イメージもありますので、後部右舷の甲板倉庫までお出で頂けますか?」

「分かった。こちらが終わるまでそこで待て。後で倉庫まで案内してくれ。」

「はっ!」

ルナはフェルチアの敬礼に頷いて応えてから部屋を見渡し、締めくくった。

「他に無ければこれで解散。作戦は五時間後に開始する!」


<続く>

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