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王家の帰還  作者: chappy
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ルナの航跡 13

第3章《出撃》(2/5)


 編隊が空母に到着したのは、未だ日差しが強く、風も弱い時で、着艦には打って付けの条件だった。洋上には、一隻の空母を駆逐艦が輪形陣を取って警護している艦隊がはっきりと見られた。

「順次着艦する。行け!」

ルナの指令が飛び、各機が事前の打ち合わせ通りに降下して行った。どれもお手本の様な着艦だったが、最後まで旋回して順番を待ったルナは、それらにも増して見事な着艦をやって見せた。これだけで空母の兵員は、今や伝説となったルナ隊がやって来たことを思い知ったことだろう。ドーバー戦役直後の頃は、ルナ隊は編隊飛行や離着陸だけでも羨望の眼差しを集めたものであり、今再びそれが成されたのだ。

 着艦すると、パイロットを待機室に行かせ、ルナ自身は左右のエンジンの出力バランスについて、カクが空母に来てすぐに調整できるように、現象を纏めて書き置きした。その後、ブリッジに上がり、艦長に接見した。ブリッジに至る道すがら、空母の一部の兵員から集まる視線が単なる羨望とは言えない複雑なものであることに違和感を覚えたが、その原因を突き止める価値も手段も見出せなかったので、それは放置された。

「遅かったですな、ルナ隊長。」

「すまん。至急整備に回さなきゃならんことがあったもので。」

「作戦直前にそんなことで大丈夫ですかな?」

この艦長は、王国海軍の叩き上げで、ルナとは殆ど初対面であった。多くの軍人がドーバー戦役の勇士としてルナに好意を抱いているが、チームワークが命である海軍の中には、勝手気ままに行動するルナに批判的な将校もいる。この意味で、全ての臣民がルナを支持すると言った王の言葉は外れている。

 リモー艦長は、同時に艦隊司令官でもある。通常は司令官と艦長は兼任されないが、機動力を発揮すべき空母戦闘機群の艦隊として、迅速な行動のために特別に兼任制を採用しているのだ。故に、絶大な権限を持ち、極めて多忙な艦長が生まれたことになる。そして、この艦長はルナに批判的な軍人であった。救いは、それを隠そうとしないところか。

「リモー艦長、いや、提督とお呼びすべきかな?」

「海軍の軍人は『艦長』を好むことぐらい、ご存知でしょう?」

「ではリモー艦長、作戦の詳細をお聞かせ願いたい。」

「いいでしょう、お聞きになるのはあなただけで?」

「隊には俺から伝える。ブリーフィングを始めてくれ。」

「海軍のシキタリでは、小隊長までにブリーフィングするのが常ですが。」

「それは通常の作戦だ。この部隊は数こそ少ないが、今回の作戦の中核を担っていると思っている。それなりの配慮が必要だ。」

「おやおや、作戦の中身を既に知っておいでのような発言ですな。」

ルナの鋭い視線がリモーを捕らえて何かを言おうとした時、臆したリモーが切先を制した。

「移動でお疲れでしょう。食事を先に済ませて頂きたい。ブリーフィングは今夜行ないます。」

リモーが入り口に控えている女性仕官に振り向き、指示を与えた。

「ルナ隊長を食堂にご案内しろ。ついでに艦内の説明もしてくれ。」

「はっ! それではルナ隊長、ご案内致します。」 言いたいことは山ほどあるような気がしたが、ルナはリモー艦長に一瞥をくれただけで、女性士官に従った。


 ルナと女性仕官は、一通り艦内を見終わって、最後に食堂に至った。

「隊員もここに連れて来たいのだが。」

「ルナ隊長。ここは上級将校専用の食堂です。一般の仕官の食堂は先程お見せした所です。」

「では、君はここにいてもいいのかな?」

「幸運です。伝説のルナ隊長とご一緒させて頂ける上に、上級将校用の食事が取れるなんて。」

「艦長は、君に食事をせよとは言われなかったぞ。」

「食事を取るなとも申されませんでした。」

これがここの流儀なのだろう。とりあえず、暫くはここのシキタリに従うことにした。

「旨いでしょう? 海軍の食事は旨いものですが、上級将校用のメニューは逸品です。」

「悪くない。」

「特にデザートが素晴らしいんです。王宮にも上納しているのと同じアイスがあるんですよ。隊長はよくご存知なのですよね?」

「昔はよく食ったものだ。ブリタニアにはそんな贅沢なものは無かったが……」

ブリタニアで振るったルナの政治手腕は目を見張るものであったが、若い士官にとってそれは興味の対象ではなく、戦場でのルナの武勇伝に惹かれていたとしても止むを得まい。ブリタニアの話には興味を示さず、他に話したいことがあるのは明らかな顔をしていた。

「伺ってもよろしいでしょうか?」

精一杯控え目に、しかしながら目を爛々と輝かせながら女性仕官が話し始めた。

「私を航空隊に編入してもらうことは可能ですか?」

「飛びたいのか?」

「はい。いや、艦内勤務でもいいんです。ルナ隊長の隊に所属したいのです。」

「なぜ?」

「あなたに一歩でも近付きたいからです。」

リモー艦長のような部類は例外なのだろう。多くの者達は、この女性仕官のようにルナを慕っている。

「俺の隊は、間違いなくいつでも最前線にいることになる。戦闘の真っ只中に置かれるという意味を君は分かっているか?」

「隊長のように英雄の一員になるということです!」

彼女の目は一層輝きを増していた。このような若者が、空に海に、幾つ散っていったことだろう。生き残った者の多くも、殺戮の繰り返しに輝きを失っていく。事の重大さに気付き、心を閉ざすことで現実を受け入れるようになってしまうのだ。ルナにとって、いや、誰にとってもこれは耐え難いことだ。敵も味方も無い。女性であれば尚更のことである。

「……俺は、本来は指揮官に向かない。一人で空を飛んでいたいだけなのだ。そういう意味で、そもそも軍人にも向いていないのだと思う。」

「お手伝いさせてください。」

興奮しきった彼女は、立ち上がらんばかりの勢いでルナに噛み付いた。引き下がりそうにないので、諦めたようにルナは言った。

「発着艦要員が不足している。艦長に相談してみるが期待するな。」

「ありがとうございます! でも、発着艦要員って艦船要員では?」

「航空隊の人間が指揮を採らないと、発着艦はうまくいかんのだ。分かるだろう?」

「はぁ。」

 女性仕官はどうやら分かっていないようだが、ルナには分かったことがあった。

作戦内容と航空隊の状況を見極め、発着艦はスタンバイされねばならない。ドーバー戦役時のルナの空母では、作戦仕官が発着艦要員を統括していた。しかし、この艦では違うのだ。運用体制から見直すことになるとは思っていなかった。あの艦長とやり合って変えさせなければならない。それはルナにとって非常に苦痛であった。そもそも、宰相レベルの官位を頂戴し、自ら作戦を立案して遂行するつもりだった。それが現状はどうだろう。ドーバー戦役時代のスタッフの招聘は、最小限だと言わねばならない。整備士のカクやパイロットの多くが揃ったのは不幸中の幸いだが、艦内スタッフが殆ど揃っていない。

 前途多難だが、王国の将来を誰よりも憂いでいるのはルナであった。また、本人の認識は兎も角、状況に応じた行動こそが、彼の持ち前でもあった。

「名前を聞いておこうか。」

「失礼しました。フェルチアと申します。」


<続く>

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