Act13 テレビ
「漆根家って食事中にテレビとか新聞とか禁止だから必然的にゴールデンタイムの番組を見逃しちゃうわけなんだけどさ、どうなの?クラスの話題についていけなくなったりしないの?」
「ついにあたしの友達にまで・・・」
「いや、違うからね!」
「どうしても見たい番組なら録画しておくし、今どきの中学生はゴールデンタイムのバラエティじゃ盛り上がらないわ」
「へえ、随分変わったんだなあ。僕が中二のときは話題についていこうと全ての局のバラエティとドラマを押さえていたもんだけどなあ」
「液晶テレビの寿命が短かったのは耕兄のせいね!」
「いや違うよ。僕はせっかく撮ったはいいけど、結局見てないから。一番見てるのってやっぱりつむぎじゃないか?」
「違うわ!夜中にこっそりスケベな番組見てるくせに!」
「いや、仮に見ていたとしてもそれを目撃してるお前は何で起きてるんだって話になるよ」
「あたしはいいの。クラスじゃ『深夜番組の女王』と呼ばれているんだから」
「それを最初に呼んだやつを連れて来い。血祭りに上げてやる」
「あたしだけど・・・」
「お前かよっ!!自分の通称を自分でつけるなよ。すごく切ない気分だよ。・・・って、やっぱりお前が見てるんじゃないか」
「み、見てないわ。あたしは寝るべきか見るべきかを真っ黒なテレビ画面の前でずっと葛藤しているだけよ」
「やだよそんな妹・・・。それに液晶の寿命が短かったのは、確か衝撃のせいじゃなかったか?」
「あたしじゃないわよ。あたしは学校で一日に「漆根」と呼ばれた回数しか殴ってないもの」
「明らかにお前だよっ。いい加減漆根であることを諦めろよ・・・」
「耕兄のせいよ」
「僕のせいっ!?明らかに父さんの家計から受け継がれてきた苗字なのに?」
「耕兄が全国の漆根さんの地位を貶めたのよ。だからテレビが壊れたのも耕兄のせいよ!」
「うっ、それを言われたら・・・っていやいや、テレビにあたったお前にも非があるよ」
「むむむ・・・。素直に耕兄を殴っておけばよかったわ」
「怖いわっ!僕は毎晩妹に何十発も殴られる日課を持たなくちゃならないのか!」
「しょうがないじゃない、テレビのためだもの。テレビは大事なのよ!」
「お前は本当に矛盾を内包してるよなあ・・・」