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探偵スカルフェイスのザギ ―花の骸―  作者: 外宮あくと
第2章 心理の考察

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第7話 ライブアイドル天雲愛美

 佐木は、近藤の汚い走り書きメモの束を含め、資料を一通り読み終えた。

 近藤たち刑事は足で情報を稼ぎ、科学捜査は遺体や周辺から集めて来た膨大な数の試料から花師に迫ろうとしている。今はまだいくつもの点をかき集めている段階だが、いずれ必ず線となり花師へと繋がっていくはずだ。

 佐木としては、それらプロの情報を頂きながら、花師の思考を探っていこうと思う。もちろん有益な考えが浮かべば、近藤に還元してやってもいい。


「先輩、小野田先生に会いに行ってもいいですか?」

「聞きたいことがあるなら今言え。俺が聞いといてやる。先生はとてもお忙しいんだよ」

「ああ、法医は慢性的に人手不足ですからねぇ。でも、書面や人伝てでは分からないニュアンスみたいのを、大事にしたいんですよねぇ、俺は」


 花師事件の遺体の司法解剖は、A大法医学教室に依頼していた。その法医学教室の小野田教授は、日々解剖依頼を受けているし、学生への指導や講義などもあり、多忙な毎日であるらしい。彼は穏やかな人柄であるが、いかなる遺体に対しても死因究明への執念を絶やさない、熱い信念の人でもあった。

 その小野田の意見を、佐木は聞いてみたかった。


「機会があったら連れてってやるから、勝手には行くなよ」

「ありがとうございます。……で、先輩も分かってるでしょうけど、ターゲットを保護しただけでは、次の犯行は防げませんよ」


 佐木はファイルを閉じ、近藤の方へ寄せる。だが解剖時の写真にはまだ未練があるようだった。さりげなくスマホを取り出し撮影しようとすると、近藤がこらっとファイルで佐木の頭を叩いた。


「花師にすりゃ、別の獲物を見つければいいだけだからな」

「天雲保護は、奴も織り込み済みだと思うんですよね。だからあの予告画像には、他にも意味があると思うんですよ。とりあえず、あの大学の生徒たちに強く注意喚起するのがベターでしょう。女子大生全てを警護なんて無理ですから、せめて髪型は変えろ、一人で歩くな、できればぷくぷく太れってね」

「ああ。太れはともかく、危機意識は持ってもらった方がいい」


 天雲の殺害ができなくなったからといって、花師が必ずしも同じ大学の生徒を標的にするとは限らないが、近藤も同意見だった。次の被害者を出さない為には、考え得る全ての対策はしなければならない。

 と、コンコンとノックの音がして、鳥居がドアを開けた。トレイに紙コップを4つ乗せて、そろりと入ってくる。


「すみません、近藤さん。天雲さんがどうしてもお話がしたいと……」


 鳥居の後ろから、小柄な少女がひょいと顔を出した。天雲愛美だ。

 佐木が広げた写真をさっと集めファイルの間に放り込み、近藤が目隠しとなって立ち塞がった。一般人に見せるには刺激が強すぎるし、ターゲットにされている天雲にはなおさら見せられない。

 彼女は笑みを浮かべて、身体を少し揺らし品を作って近づいてくる。


「近藤さぁん、あのねぇ、愛美(あいみ)ぃ、お外に出たいんですけどぉ。もう退屈で退屈でぇ、このままじゃ愛美、死んじゃうよ? ねえ、死んじゃうよ? ……うえぇ?! ってか、もう死神来てるし! やべぇマジやべぇ!」


 佐木を指さして、天雲が大声で叫んだ。あざとい笑顔も媚も一瞬で吹き飛んでいた。

 長机にコーヒーの乗ったトレイを置いた鳥居が、彼女の肩をポンポンと叩いた。


「大丈夫、一応人間よ」

「おい、言い方」


 鳥居が持ってきてくれたコーヒーを飲みながら、近藤はとりあえず天雲の話を聞くことにした。その結果、彼女のどうしても話したいこととは、遊びに行きたいという我がまま以外には特になかった。要するにかまって欲しかったのだろう。

 佐木は、白けた顔で天雲を眺めるのだった。

 初めに画像を見たときは、とても愛らしい少女だと思った。花師の審美眼を思わず褒めたくなった。だからこそ、思いどおりにさせてたまるか、彼女を守り抜いてやろうと思ったのだが。

 

「だから言ってるだろう、アイドル活動はしばらくお休みだ。分かってんのか? あんたは花師に狙われてるんだぞ。まあ、警察署で寝泊まりなんて嫌だろうけど、少し我慢してくれ。今、あんたを匿えるところを手配中だから」


 近藤は参ったなと頭を掻いていた。

 天雲は、決まった家を持たず、友人宅やネットカフェで寝泊まりしていた。その情報も逐一SNSで拡散している。彼女をすぐ保護できたのはそのためだった。しかし、あまりにも不用心なので、実家に帰らせた上で警護をつけようとしたのだが、彼女は母親と絶縁状態にあり、とても帰せる状況ではなかった。そのため、仕方なく昨晩は署内の仮眠室で休ませたのだった。


「でもぉ、せっかく人気出てきてぇ、お仕事増えてきてたところなのぉ。ライブしないとすぐ捨てられちゃうんだよぉ?」


 天雲がぷうと頬を膨らませる。再びアイドルの仮面を被って、可愛い顔をしたつもりらしいが、近藤には通用しなかった。


「命捨てるよか、いいだろうが」


 近藤はケッと吐き捨てる。不特定多数の人間が集まるライブなんて、させられるわけが無かった。

 一方、佐木は、あまりにも危機感がない天雲を見ているうちになんだか笑えてきた。このくらいあっけらかんと明るい方が、怖がってメソメソと泣かれるよりいいかもしれない。この胆の据わり方は好印象だった。

 キャスター付きの椅子でクルクル回っている天雲に、佐木は声をかける。


「天雲さんがSNS始めたのって……」

「わっ! 出た! 死神骸骨! キモ! エグ!」

「…………」


 若い子は遠慮というか容赦がなかった。いや、天雲が、なのかもしれないが。

 佐木は首筋をぽりぽりと掻き、少し頭を切り替えてみる。


「キモいよねー。ほら見てみ、もっと気持ち悪いよぉ」


 佐木はYシャツの袖を肩までまくった。そして、肘を肩の高さまで上げて直角に垂らし、肘から下をプラプラ振ってみせた。


「ヤッバ! キモキモキモキモ! マジ骨皮! ウケるぅ!」


 ケラケラと大口を開けて天雲は笑った。


「止めんか、こら!」


 近藤は佐木の頭をペシンと叩いたのだった。鳥居は眉間に皺をよせて無視を決めこみ、防犯カメラの画像を睨んでいた。


「刑事さんにも、面白い人いるんだねぇ」

「そうだよぉ。気軽にお話ししようね。でさあ、ライブアイドルって儲かるもんなの?」

「は? 儲かるわけないでしょ。そんなの極々一部の天才ラッキーガールだけだって」

「天雲ちゃんはその天才ラッキーガールなんだね?」

「うーん、天才じゃないけど……ラッキーではあるよね。愛美には清水さんがいるから」

「清水って?」

「すごくいい人。いつも応援してくれてぇ、ライブのたびに愛美をご飯に連れて行ってくれたりぃ、お小遣いくれたりするのぉ」

「それってパパ活? セックスの見返り?」

「はぁ?! 死ねよ、クソ骸骨! 清水さんはそんな人じゃねえわ!」


 天雲は目を吊り上げ、マシンガントークで抗議するのだった。

 その話を総合すると、ライブハウスXYZの経営者の清水が天雲の無償スポンサーとして、彼女の生活と仕事のサポートをしてくれているということらしい。清水は天雲をメジャーアイドルとして成功させることが夢なのだそうだ。

 と、そこに鳥居が不機嫌そうな声で耳打ちしてきた。二人の会話が気になって、防犯カメラのチェックに身が入らないようだ。その鳥居によると、先ほど1階の受付で大声を上げていたストライプスーツの男が清水だということだった。

 天雲の身を案じて、早く花師を捕まえろと、文句を言いに来ていたのだ。昨日も真っ青な顔をして署に駆け付けたらしい。人づてに天雲の写真がネットで拡散されてると聞き、また既に殺されたという誤報も目にしたらしく、死人のような顔で飛び込んできた。天雲を助けてくれと大騒ぎをしているところで、保護された当の本人が署に到着し、涙の対面を果たしたそうだ。

 見たところ天雲に恋愛感情はなさそうだが、15も年下の少女のためにあられもなく涙を流したという清水のほうは、かなり惚れ込んでいるのではないかと思われる。


「タニマチとかパトロンとか、そんな感じなのかな?」

「それそれ! 清水さんにはホントお世話になってるの。だから下衆な勘繰りすんな!」

「それはともかく、パトロンなら住む部屋くらい用意してくれればいいのに、なんでネカフェ生活してんの?」

「愛美、別にお金が無くて、ネカフェにいるんじゃないもん。そりゃ清水さんはマンションで暮らすように言ってくれてるけど、私は今の生活が気に入ってるの」


 清水名義のワンルームを、天雲は提供されているのだが、荷物置き場として使用しているだけでベッドさえ置いてないそうだ。なぜなのか聞いてもまともに答えず、天雲は今のままがいいのだと言って口を尖らせるばかりだった。

 清水からの援助は遠慮なく受け取っているくせに、何故か頑なに生活スタイルだけは崩そうとはしない天雲。何か理由があるのは確かだなと、佐木はじっと彼女を見つめた。そして、質問を変えた。


「今のSNSアカウント作ったのは1年前だよね。なんでSNS始めたの?」

「愛美、アイドルになったから新しく宣伝用のアカウント作ったの。愛美の事、知ってもらいたくってぇ、いっぱい発信してるんだよね」

「へえ、そうなんだ。知ってもらうため、ね。アイドルとして大切なことだよね。で、その前はSNSやってなかったの?」

「してたけど、そのアカウントは消したよ。もう使わないから」

「なるほど。今はアイドル天雲愛美を宣伝中ってわけね。…………天雲ちゃんの日常の出来事を色々と発信しているわけだけど、どんな人に自分を知ってもらいたいのかな?」

「そんなの愛美のこと、ドストライクでタイプだって思ってくれる人に決まってるじゃない」

「なるほどなるほど。確かにそうだよね。手ごたえあった?」

「まあ、いい感じかな? いいねも増えてきたしね」

「そりゃあ良かった。…………でさあ、あの例の写真は大学、君が通っているB大のカフェテラスで撮ったものだと思うんだけど、後ろの方に写ってるのは友達? 知り合い?」

「知らないよ? たまたま近くにいただけ。愛美、あんまり学校の子とつるまないの。だってぇ、愛美はアイドルだから」


 再びアイドルスマイルを振りまく天雲だった。

 鳥居がちらちらと二人のやり取りを見ている。やはり画像のチェックどころではないようだ。


「ふうん。じゃあさ、ちょっと参考までに、今から言う3つの質問に答えてくれる?」


 佐木は長机に肘をつき、少し身を乗りだして天雲を観察した。挑むよう微笑んで見つめ返してくる彼女に、ニッと笑い返した。


「1つ、花師をどう思うか。2つ、殺人を肯定できるか。3つ、この世を憎んでいるか」

「何それ?」

「深く考えなくてもいいから、答えてみて」

「えっとねぇ、花師はクソ。頭のおかしい変態大悪党としてずっと名前が残るんじゃない? それから、殺人を肯定するか、だっけ。どうせ殺人事件はこの世から無くならないし、うん、花師は殺してもいい。人を殺した奴は殺されて当然! 花師なんか殺しちゃえばいいんだ!」


 天雲も身を乗りだしてきた。どうだとばかりに、佐木の鼻先で笑った。不穏で過激なことを言ってやったぞと、自慢げですらあった。


「3つめの、この世を憎んでいるかは?」

「えーっとねぇ…………憎んでるよ。愛美、この世は理不尽でできてるって思ってるから」



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