或る浪漫
〈鹽鮭の辛さに目醒む晝飯や 涙次〉
【ⅰ】
結局、* 韓国濟州島での怪盗もぐら國王と内妻・中目朱那のリゾートは、1ヶ月の長きに亘つた。と云ふのも國王が、カジノでのバカラ賭博で大儲けして、逗留資金を稼ぎ出したからだ。彼らが日本に帰るのを決めた時、或る【魔】が國王に囁いた。「あんたにはカネに惠まれる相がある。こゝは一丁、俺に騙されたと思つて、手を組まないか?」-國王が【魔】に誘惑された事は一度ならずあつたが、今度のやうに利用出來る「タマ」として認められたのは初めてだつた。(俺を利用してやるとこの【魔】は云ふ。ところがどつこい利用するのはこつちだ。何か儲けの、いゝ匂ひがぷんぷんするぞ)と國王。** これは【魔】の使ふ常套的な手口だと、國王は氣付かなかつた。で、彼はその【魔】の囁きに乘つた。
* 當該シリーズ第172話參照。
** 當該シリーズ第181話參照。
【ⅱ】
この【魔】、實は* 鰐革男の息子だつた。韓国については、皆さん色んな事を思はれるだらうが、私・作者にとつては、韓国と云へば鰐革男の出身地。鰐革Jr.は、父の個性的なルックス、グロテスクとも云へるご面相に加へ、非常なお洒落だつた鰐革の、失敗はその人目に立つ見掛けのせゐだと踏み、自分は無色透明の姿をしてゐた。** 透明人間と云へば平涙坐なのだが、實はカンテラは濟州島に涙坐を派遣し、國王・朱那のカップルに張り着かせてゐた。ルシフェルは【魔】忍逹を放ち、***「誓ひの日」の邪魔立てをした。濟州島でカンテラの目に付かないやうに、國王に【魔】を憑依させるのではないかとカンテラは危惧したのである。ところが、鰐革Jr.は前述の通り、透明な存在で、涙坐は彼の動きを看過してしまつた。その前に、濟州島は氣候温暖で、**** 安保さん製作の透明ボディスーツ、涙坐には不要だつたが、彼女とて霞を食べて生きてゐる譯ではない。宿泊代も掛かる。國王逹の帰國延期を受けて、當坐の資金を追加で送金せねばならない。カンテラはふと、自分が無駄ガネを使つてゐるのではないかと、氣に病んだ。さうして、國王は鰐革Jr.を日本に「連れて」來たと云ふ譯だ。
* 前シリーズ第115・200他參照。
** 當該シリーズ第50話參照。
*** 當該シリーズ第165話參照。
**** 當該シリーズ第157話參照。
【ⅲ】
「別に取りて立てゝ異狀はないやうに見受けましたが...」と涙坐は報告、カンテラは一應、ロボット番犬タロウに事を任せる為、國王をカンテラ事務所に招いた。タロウは吠えなかつた。鰐革Jr.は無色透明であり、更に無臭だつたからである。カンテラは安心した。が、國王「カンさん、俺を勘繰つてゐるな」然し大胆にも(彼の仕事の模様を知つてゐる方なら、彼から大胆さを取つたら何も殘らない事をご存知だらう)彼はタロウの前を通つた。繰り返すがタロウは吠えなかつた。これには當の國王が拍子拔けしてしまつた。
※※※※
〈珍本を探し探して弐拾余年未だ未だし出會ひ巡り來る 平手みき〉
【ⅳ】
然し、カンテラ・涙坐・タロウは欺かれたが、じろさんはさうは行かない。「氣配」をじろさんは察知したのだ。わざと* 自ら目隠しをして、武道修業の副産物である、【魔】の「氣配」をキャッチする「術」、を使つたのである。じろさん、「カンさん、右だ!!」-これにはカンテラ、「ビビつと來た」。一瞬にして、鰐革Jr.の特性を知つたのである。剣では此奴は斬れない。ので、口から火焔を放射し(カンテラが火焔のスピリットである事を忘れてはならない)、じろさんの差し圖に從ひ、鰐革Jr.を攻撃した。「あつちゝ!」。國王が單に自分が「乘り物」として利用されたに過ぎない事を悟つた瞬間、鰐革Jr.、消えてしまつた。
*所謂「第六感」に頼らうと云ふ為である。
【ⅴ】
「氣配」はそれと共に消え去つた。「カンさん、じろさん、ご免。俺、有りもしない儲けに惑はされてゐたよ」と、率直に國王は詫びた。素直さもこの男が人に愛される處以だ。カンテラ「氣にするな。よくある事さ」然し、タロウにもジャッジ出來ず結界も恐れない、新たな敵が現れたのには、カンテラ・じろさん、呻つてしまつた。彼らは鰐革に息子がゐたなどゝは知らなかつた。謎の【魔】- 當面こいつとの戰ひに明け暮れる事になるだらう。カンテラ、じろさん、氣を引き締めた。お仕舞ひ。
※※※※
〈熱燗をクラブで頼む數寄者かな 涙次〉
PS: 2日書かないだけで大分筆が鈍つてしまつた。まあリハビリつて事で。
〈或る浪漫〉* 杉下要藏
俺は新しい冒険を
いつだつて求めてゐる
愚かしい事だと
人は云ふが
輝く浪漫は
いつも俺を呼ぶのだ
カネ、あるに越した事はないが
俺はそればかりを追求
してゐるのではない、と
賢明な人には分かるだらう
右向け右は嫌ひだ
右向け左を俺は生きる
朱那よ、俺の朱那よ
俺に着いて來られるか
無理強ひはしない
所詮男のみの世界だ
世界が俺を待つてゐる-
俺の名は、怪盗もぐら國王
世間を脅かす
惡党の一人なのだ。
* 國王の人間名。




