第二楽章
魂は、生きている間に様々な色に染め上げられるという。
同じ生き方をしても違う色に染まることもあれば、違う生き方をしたのに似たような色に染まることもある。
一つ確かなのは、一人として全く同じ色に染まる者はいないということである。
現世界の住人は、死後、流転世界へと送られる。
流転世界に送られた“染まりきった魂”は、色を消され、再び現世界へと送られる。
しかしこの時、未練がある魂の色は、なかなか消すことができない。
その魂が、自らの未練を果たそうと、流転世界と現世界の間の扉を無理矢理超えて、現世界へとやってくることがある。
二つの場所の、絶対的な不文律。
それを破った魂は、ただ‘生命’を欲するだけの、おぞましい化け物へと変化する。
それが、魅縺である。
*****
『逃げて、ウィル……!!』
頭の中に、悲しい声がこだまする。三年前の出来事が、彼の中で甦る。
ウィルは、全身を恐怖に支配されてしまう。
すぐに逃げなければいけないのは分かっていながら、その場から一歩も動けない。
「何してんだ、ウィル!!」
「早くこっち来い!」
「 ……っ!!」
後ろから肩を掴まれ、強く引っ張られた。引っ張ったのは側にいたライアット。
他にもいた子供達は、既に外へ。
ウィルは慌てて我に返ると、震える足をおさえ、体育館の外に逃げようとする。
しかし。
「あっ!!」
恐怖は思いのほか強かった。
足はうまく動かず、彼はそのまま転んでしまう。
自分に可能な限りの速さで起き上がってはみるが――――目の前にはもう魅縺の姿。
「う、あ……」
悲鳴は上がらない。
もう動けない。
魅縺がどろり、と体を伸ばし、ウィルに向かって覆いかぶさってくる。
冷たいものが、体に触れた。
「ウィルっ!!」
「っ!? あ……っ!」
何が起きたのか、分からなかった。
ただ、強い衝撃と床を滑る感触。
体が止まったことを確認し、のろのろと頭をあげると、目の前に既に魅縺はいなかった。
否、魅縺に襲われた人間がいた。
「ら、ライアット……?」
それは、ウィルの前にいたはずのライアットだった。
腰から下を魅縺に捕まれ、苦しそうな表情をしている。
それでもウィルの声が聞こえると、微かに体を起こした。
「う、うそ……ライアット!!」
「来んな……っ!!」
その、語気の強さに。
思わず彼は立ち止まる。
「はやくっ……逃げろよ、ウィル……!! 俺は……俺はこんなやつぶっ飛ばしてやれる……から……、あ……っ!」
喰われる。
ライアットが死んでしまう。
『早く……逃げなさい……!! ……大丈夫、ママは大丈夫だから……早く……!』
三年前の母と同じように。
――――ウィルを庇って。
「そんな……また……そんなの……」
嫌だ。
誰かが自分のせいで死ぬなんて。
そんなの。
そんなのは、もう、絶対に。
「やだあぁぁ――――っ!!」
頭の中が、真っ白になった。