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Nocturne 《夜想曲》  作者: Nebel
始まりの旅
3/15

第二楽章

 魂は、生きている間に様々な色に染め上げられるという。

 同じ生き方をしても違う色に染まることもあれば、違う生き方をしたのに似たような色に染まることもある。

 一つ確かなのは、一人として全く同じ色に染まる者はいないということである。

 

 現世界(レース)の住人は、死後、流転世界(アラギ)へと送られる。

 流転世界に送られた“染まりきった魂”は、色を消され、再び現世界へと送られる。

 しかしこの時、未練がある魂の色は、なかなか消すことができない。

 その魂が、自らの未練を果たそうと、流転世界と現世界の間の扉を無理矢理超えて、現世界へとやってくることがある。

 二つの場所の、絶対的な不文律。

 それを破った魂は、ただ‘生命(いのち)’を欲するだけの、おぞましい化け物へと変化する。

 

 それが、魅縺(オルコ)である。

 

 

 

 *****

 

 

 

『逃げて、ウィル……!!』

 

 頭の中に、悲しい声がこだまする。三年前の出来事が、彼の中で甦る。

 

 ウィルは、全身を恐怖に支配されてしまう。

 すぐに逃げなければいけないのは分かっていながら、その場から一歩も動けない。

 

 

「何してんだ、ウィル!!」

 

 

「早くこっち来い!」

「 ……っ!!」

 

 後ろから肩を掴まれ、強く引っ張られた。引っ張ったのは側にいたライアット。

 他にもいた子供達は、既に外へ。

 ウィルは慌てて我に返ると、震える足をおさえ、体育館の外に逃げようとする。

 しかし。

 

「あっ!!」

 

 恐怖は思いのほか強かった。

 足はうまく動かず、彼はそのまま転んでしまう。

 自分に可能な限りの速さで起き上がってはみるが――――目の前にはもう魅縺の姿。

 

「う、あ……」

 

 悲鳴は上がらない。

 もう動けない。

 

 魅縺がどろり、と体を伸ばし、ウィルに向かって覆いかぶさってくる。

 冷たいものが、体に触れた。

 

「ウィルっ!!」

「っ!? あ……っ!」

 

 何が起きたのか、分からなかった。

 ただ、強い衝撃と床を滑る感触。

 体が止まったことを確認し、のろのろと頭をあげると、目の前に既に魅縺はいなかった。

 

 否、魅縺に襲われた人間がいた。

 

「ら、ライアット……?」

 

 それは、ウィルの前にいたはずのライアットだった。

 

 腰から下を魅縺に捕まれ、苦しそうな表情をしている。

 それでもウィルの声が聞こえると、微かに体を起こした。

 

「う、うそ……ライアット!!」

「来んな……っ!!」

 

 その、語気の強さに。

 思わず彼は立ち止まる。

 

「はやくっ……逃げろよ、ウィル……!! 俺は……俺はこんなやつぶっ飛ばしてやれる……から……、あ……っ!」

 

 喰われる。

 ライアットが死んでしまう。

 

『早く……逃げなさい……!! ……大丈夫、ママは大丈夫だから……早く……!』

 

 三年前の母と同じように。

 ――――ウィル(かれ)を庇って。

 

「そんな……また……そんなの……」

 

 嫌だ。

 誰かが自分のせいで死ぬなんて。

 そんなの。

 そんなのは、もう、絶対に。

 

「やだあぁぁ――――っ!!」

 

 頭の中が、真っ白になった。

 


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